冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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死んだ君の欲しい物 (水月+サキヒコ)

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ミタマを見送り、作業を続け、顔を上げる。

「ふぅ……」

「終わりか?」

「うん、塗装は終わり。先っぽにレジンで膨らみ作って、さっき作った花びらと一緒に組み立てて完成かな。乾いたら部屋に戻ろう」

「お疲れ様、ミツキ」

「……サキヒコくんって誕生日いつ?」

プレゼントを作っていたら気になってしまった。

「十二月の……五日、だったかな」

「そっか。何か欲しいものある? 日用品とかじゃなくて、誕生日にもらう特別な物ね」

「……特別な、物」

「普段ならそれとなく探ったり、良さそうなもの勝手に見繕うんだけど……サキヒコくんは、ほら、死んでて……使える物と使えない物ありそうだし、俺まだそれよく分かんないから、ごめんね。聞かせてもらえるかな」

「…………分からない。そんな、急にそんなことを言われても」

「そっか……服とかアクセ、ぁー、装飾品はどうなの?」

「実体化している間なら身に付けることは出来るかもしれないが、実体化をやめれば落ちてしまうだろうな」

だからって裸にはならないんだろうなぁ。

「そう……んー、お線香とかは逆効果なのかな。俺も考えててみるから、サキヒコくんも欲しい物浮かんだら言ってね。まだまだ時間はあるし」

「分かった」

「食べたい物とか行きたいとこは、いつでも言ってくれていいからね。遠慮しないでね」

「……ありがとう」

「もうだいたい乾いたかな。部屋戻ろっか、窓開けてもらっていい?」

「あぁ」

傘を閉じ、ハンディ扇風機を首から下げたサキヒコは俺の前を歩き、窓を開けた。俺は塗装が終わった真鍮と塗料で手が塞がったまま自室まで向かった。

「そういえば花びら作り終わる前にネイさん達来たんだったな……」

散らばった花びらの材料を見てため息をついた。ハル達の様子を見に部屋を出てリビングを覗く。

「へっへ~い、Tスピンの初春さんとは俺のこと~。負ける気しな~い!」

《秋風! このゲームはロシア発祥だろ頑張れよ!》

《んなこと言われても向こうでやったことねぇし。BGMになんか聞き覚えあるだけなんだよ、無茶言うな》

落ち物ゲームで対戦中のようだ、アキが負けそう……あぁ、負けた。圧倒的な力量差があったようだ。

「やったー勝ったー! へっへへーい。パズル系はせーかめっちゃ強そうだから~、そういうのせーかとしたいんだけどね~……」

「これは両手使うから無理だな」

「ん~……あ、アレは? 文字交互に並べて~、単語にしたらポイント入るヤツ! アレは落ち物ほど早くないから~、片手で方向キーと決定キーやって間に合うと思うんだよね~」

「どれか分かんないな……」

「え~、みっつんアレ持ってないの~? ぴったんぴったん~……あ、あるじゃん。やろやろ~」

「やったことないけど、うん……俺が出来るのあるんならやりたい」

仲良くゲームをしているようだな。性格自体は合うのかもしれない、セイカが俺を虐めていないかハルが俺を好きではないかしていれば易々と友情を築いたのだろう。だが、まぁ、多少波乱があった方が強固になるものなのだ、友情というのは。

「なんだ、戻ってきたのか」

「うん、三人で楽しそうにしてるし……今なら黙々と作業出来そう」

「れじん? は部屋でやるのか」

「うん」

「……光を当てると固まるとは不思議だな、一体何で出来ているんだ?」

「樹脂? だったと思うけど。よく知らないや、成分表見る?」

レジンのボトルをサキヒコに手渡すと、背面に書かれた成分表示を彼は熟読し始めた。

「…………知らない名前が多いな」

「サキヒコくん生きてた頃はメジャーじゃない物質ってこと?」

「私が不勉強なだけかもしれん。主様のためにならない知識など不要だからな、こういったことには疎い」

「手芸の知識って従者にこそ必要って感じするけど」

「裁縫の知識と技術は多少ある、緊急時の為にな。だが、そのような装身具を手作りするなどありえない。紅葉家の方が身に付けたり、お扱いになる物などは全て一流の職人の至極の逸品でなくてはならない。素人の付け焼き刃の手芸など、不敬この上ない。だから、年積の者に手芸の知識など不要なのだ」

素人の付け焼き刃の手芸、という言葉は俺にとって重く冷たい。俺の表情の変化に気付いたのか、サキヒコが申し訳なさそうに眉を歪めた。

「ミツキ……す、すまない、その、ミツキの作る品は素晴らしいと思うぞ。玄人並だ、職人芸とまでは言えんが……その簪も一般人への贈り物なら十二分な出来になるだろう」

ネザメに渡すとしたら程度が低い、という訳か。ハルへの贈り物はネザメへの贈り物よりもちゃっちい物で構わない、ということか。いや、違う、ひねくれた捉え方をするな、サキヒコはそんなことは言っていない、彼はただ年積家の持つ紅葉家への忠誠心を教えてくれただけだ。

「もっと上手く作れたんじゃないかとか、俺はこんなのが限界なのか無能だなとか……よく思うんだ。SNS見るともっと上手い人が居て、年季とか掛けてる金が違うのも分かってるんだけど、でも、やっぱり……やる気、失くすよ」

「ミツキ……ミツキは上手い、セイカ殿の鼠など素晴らしい出来だったではないか、今にも動き出しそうだったぞ」

「…………作り終わると、思うんだ。なんだこれ、くだらないな……って。どんなに上手く出来ても、どんなに周りに褒められてても……作り終わると、冷めちゃう。なんなんだろ、あの賢者タイムみたいな……もっと虚しい瞬間。頑張って作って、愛着も使う前からあるはずなのに、作り終わった時、うわ何これってなる」

「そんな……」

「……ま、一回寝てもう一回見たら、よく出来てるじゃん可愛い可愛いってなるんだけどね。だいたいは」

「そ、そうか。よかった……しかし不思議だな、作り終えた直後こそ興奮で過大評価をするものでは? 主様はよく眠る前に詩を書いて自画自賛しては、翌朝に破いて捨てていたぞ」

「黒歴史晒してあげないでよ可哀想に。深夜テンションだね、なくはないんだけど、作り終わると急に冷静になるタイプなんだよ、俺」

「悲しい癖だな……ミツキはいい腕をしていると思うぞ、職人の道に進んでもいいかもしれん」

「……はは、ありがと」

笑顔でそう言いながらも俺は手の中にある簪になる予定の素材達を冷めた目で見下ろし、こんなもの生業にしたところで彼氏の一人どころか自分自身すら食わせられないと馬鹿にした。
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