冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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今だけを見つめたい (〃)

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は? 許嫁?

「な、鳴雷? 鳴雷っ、大丈夫か?」

「…………」

「水月くん、水月くん、大丈夫かい? 瞬きをしないとその綺麗な目が傷んでしまうよ」

両側から揺さぶられ、ハッと意識を取り戻す。何だっけ、目の前に居る女は誰だ? 名前、言ってたよな。でもショックで聞いてなかった。

「ネザメ、わたくしのことお話になられなかったんですの?」

「すまない……」

「はぁ……あなたは問題を先送りにする悪癖がありますわね」

仲良さそうじゃないか。

「ヤバいのぅみっちゃん。負の感情がえげつないぞぃ……」

「え、ええ、ミタマ殿……黒を通り越して闇が吹き出しています」

「オカルト組、それどういうことなんだ?」

「キレとる。ワシはみっちゃんが今人を殺しても驚かん」

なんか背後でヒソヒソと物騒な話をされている。驚けよ、俺そんな危ないヤツじゃねぇよ。

「水月様、と仰るのですね」

「あぁおなごよ近寄るでない、絞め殺されるぞ」

しねぇよ!

「動揺なさるのも分かります。なので、簡潔にお伝えします。少々下品になりますが、許容していただけますでしょうか」

「は、はい……」

「わたくし達が許嫁というのは産まれる前から家が決めていたこと、政略結婚ですわ。幼い頃より何度か顔合わせはして、それなりの信頼はあれど愛などありませんの」

まぁ、だろうなって感じの話だ。

「ですから公にさえならなければ、ネザメ様がどなたと交際なさろうと……わたくし、心っ底どーっでもいいですわ……子種さえいただければいいんですの、郵送していただければこっちで勝手に体外受精なり何なりで跡継ぎこさえますわ」

「そ、そう……ですか」

郵送出来るものなのか? やっぱりクール便かな。

「わたくし、好きな殿方が居ますの。ですから本当に、遠慮なくネザメ様と愛し合ってくださいな」

「ぁ……は、はい、じゃあ遠慮なく……」

許嫁と聞いてから何だかずっと心がザワついていたので、ネザメを抱き寄せた。

「み、水月くんっ? ダメだよ、そんな、急に……覚悟が出来ていないのに、こんなことをされたら……! 頭がクラクラしてしまう……」

「ふふ……羨ましいですわ、両想いだなんて……ねぇ? じぃや」

「…………」

視線を送られた老紳士は目を逸らす。

「ねぇ! じぃや! いつになったらわたくしの恋は叶うのかしらねぇ~! はぁーっ、もう……わたくしのお願い何でも叶えてくださるくせにわたくしの想いに応えることだけはしないんだから本っ当に腹立ちますわぁ~。ネザメ! あなたのダーリン見ましたしわたくしもう帰りますわ! じゃ!」

お嬢様って「じゃ!」って言いながら片手上げて帰るんだ。

「…………台風一過、って感じじゃな」

「どえらい許嫁居んねんなぁ紅葉はん」

「苦手なんだ、あの子……ミフユと一緒で小言が多いんだけど、ミフユと違って愛がなくて。本当に……自分が迷惑を被るからって僕を叱ってる感じで」

「ネザメ様がもう少ししっかりすれば、彼女からの注意はなくなりますよ。ミフユとは違い、最低限のマナーを求めているだけですから」

「マナーマナーと言うけれどねぇ、罠じみたちょっとした所作で不快になる方が心が狭いと思わないかい?」

俺からすればネザメは一挙手一投足全てが上品で、マナー違反なんてなさそうに見えるのだが、そんな彼でも叱られることはあるんだな。

(ネザメちゃまで怒られるならわたくし殴られるのでは?)

許嫁が居るのは嫌だが、まぁ、愛がない関係なら……いや大事な彼氏に愛のない妻が出来るのも嫌だな……いや、本命と結婚するからってフラれる方が嫌だ。

「はぁあぁあ……」

「特大のため息やな」

「水月くん、ため息は幸せが逃げてしまうと言うよ」

「俺の幸せは今ちょっと逃げましたよ……」

「……彼女が説明していた通り、僕達は許嫁だけれども単なる昔馴染みなんだよ。君が気にすることは何もない、僕の心は君だけのものだよ」

「ネザメさんの戸籍は俺のものじゃなくなる……」

「結婚する気ないやろがぃ」

「同性婚だけならまだしも重婚は絶対無理だからな、紅葉とだけ結婚する気でもないくせに落ち込むなよ」

「せや、めっちゃ運ええで水月。なんぼ政略結婚の相手や言うても自分の将来の旦那が男にかまけとるなんて普通めっさ嫌やで。結婚後も関係許してくれる言うねんから、大人しゅうラッキー思とけや」

「分かってるよ、頭では。俺は超運がいい、お坊ちゃまと付き合ってく上では理想的な展開だよ。でもさぁ、心が納得しない……ネザメさん俺のだもん……なんで俺が間男や情夫みたいな……」

本音と建前両方で御曹司の恋人で居続けるなんて、良家に生まれた女でなければ出来ない。一般母子家庭の男の俺には、高校卒業後もネザメとの関係を続けることすら本来不可能だったはずなのだ。それが許嫁の性格のおかげで希望が見えた、俺は喜ぶべきだ、分かっている、頭では全て分かっている。

「………………現実なんか、見たくないんだよ」

このハーレムが長続きしないことなんて俺が一番分かっている。卒業や就職で二度と会わなくなる者も居るかもしれないと悟っている、俺と心を交わした何人かは適当な女と結婚してそれなりに幸せな家庭でも築くのかもしれないとも──全部嫌だ、考えたくない、せっかく今楽しいのに。

「ぁ、誰か来た……もうこの話やめましょっ、ね? 今日はパーティ! 楽しみましょ」

複数人の足音が聞こえて、俺は未来を考えるのをやめた。
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