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二つ目の…… (〃)
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俺も全身を洗い終えたので浴室を後にした。脱衣所の床にバスタオルを敷き、荒凪の尾を持ち上げ、四本の腕で四つん這いになって進んでもらった。肩の辺りから生えていた二組目の腕はいつの間にか脇腹に移っていた。
「ありがとう水月」
「どういたしまして」
「……手、切ってない?」
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」
螺鈿を連想させる美しい鱗に、人の皮膚なんて簡単に裂いてしまえそうなヒレ。もちろん俺はそれらに細心の注意を払って荒凪の下半身を持ち上げた。
「荒凪くんは優しいね」
血と同じように鱗やヒレもまた劇物かもしれない。触れれば爛れる、なんてことはないみたいだけれど、刺さったりして体内に侵入すればどうなるか分からない。荒凪も同じ考えなのか、怯えたような目で俺を見ている。
「……僕達、触っても大丈夫……みたい?」
「そうだね、どこ触っても痛くなかったよ」
「血は、ダメ」
「ちょっと溶けたよね。まぁ、大したことないからそんなに気にしなくていいよ」
「……ダメ。痛いの、ダメ」
「荒凪くん……ホント優しいね。なんでこんなに優しい君が、溶ける血なんて持ってるんだろ」
性格と生態が合わないのは可哀想だ。体表には触れても大丈夫なのは不幸中の幸いだな、スキンシップが出来る。
「尻尾長いからバスタオル二枚くらい使っちゃって。ドライヤーの使い方分かる?」
「うん、昼見た」
「じゃあ渡しておくね。服着たら俺も手伝うから」
バスタオルを肩にかけさせドライヤーを渡す。俺もバスタオルを使い、素早く身体の水気を取っていく。
「……お、メッセ来てる」
洗濯機の上に置いておいたスマホを何気なく持ち上げると、メッセージアプリの通知に気付いた。彼氏達からの無事に家に着いたという内容のものだ、これまでデートの後などに帰宅後のメッセージを催促し続けた甲斐あって彼らは自主的なメッセージの送信を覚えたのだ。達成感がある。
「返信返信……」
それぞれに合った返信をしていく。全員分となるとかなりの量だが、俺は文字打ちが早いので無問題だ。
「フタさんとシュカからは来てない……」
シュカはサンが「ボクとシュカくんお家に現着~」とメッセージを送ってきているから別にいい。フタからもまぁ、来ないのは分かる。彼は今日俺と会ったことも覚えていないだろう。
「ヒトさんに聞いとこ……」
ネイを襲った理由についても気になるところだ、それもついでに聞いておくか。
「っくしゅ! 忘れてた、服着なきゃ」
下着一枚でスマホを弄っていた俺は、また洗濯機の上にスマホを置いて寝間着を着た。
「荒凪くん、手伝うよ」
ドライヤーとタオルを使って全身を乾かしていく。ヒレが落ち、鱗が剥がれ、人間の姿へと変わっていく。二組目の腕はいつの間にか消えていた。
「……よし、OK。保湿クリーム塗っておこうか」
身体にまでドライヤーを当てたんだ、保湿は普段以上にしっかりしておかなくては。
「べたべた、する……」
「しばらくすれば馴染むから、もう少し我慢してね」
「うん……」
荒凪の言葉はまた拙くなっていた。彼にも寝間着を着せ、まだ上手く歩けない彼の手を引いてリビングに移った。荒凪をソファに座らせ、俺は救急箱を持ってきた。
(包帯もビニール袋もそのまま残ってますな。人魚形態時は体内にアレがあったということでしょうか、とんでもねぇ異物でそ。ま、体調に問題はないみたいですが)
ソファの前に座り、荒凪の足に被せたビニール袋を外し、包帯を解いていく。
「ガーゼとか変えてから寝ようね」
「いたく、ない」
「痛くなくても怪我があるんだから処置はしておかなきゃダメ……って、怪我、ないね?」
全てを取り払った足のどこにも傷はなかった。噛み傷どころか歯型すらついていない。
「え、えぇ……? どういうこと?」
治っているようだ。変身でリセットされるのか、治癒力が異様に高いのか、どっちだ?
「いたくない」
「だろうね……」
家に着いた時、既に痛くないと言っていた。治癒力が高い説が有力か。
「不思議だけど、結構深い怪我だったからすぐ治ってよかった。じゃ、歯磨きして寝よっか。歯磨き粉は辛くないヤツがいいかな?」
救急箱を元の位置に戻し、よたよた着いてくる荒凪と洗面所へ。買い置き未開封の歯ブラシを渡し、歯磨き粉を選ぶ。手も口もまだ動かし慣れていない彼は上手く歯磨き出来ていない。
「きゅるるるる……」
不満げな声が漏れている。やはり喉で鳴らしているようだ。
「慣れるまでは俺が仕上げしてあげるから、あんまり無理してしなくてもいいよ。強く擦り過ぎると逆効果だしね」
「きゅう……」
歯磨きを終えた後、荒凪の歯ブラシを受け取った。少し上を向いて口を開けた彼の歯を磨いていく。
「ん、綺麗な歯並び……なんか、ちょっと犬歯長めかな?」
ま、この程度なら個性レベルか。
「よし、磨けた。多分完璧。うがいしていいよ」
「……! んー」
歯ブラシを洗おうとした俺の服の袖を荒凪が掴む。
「ん? 何?」
「ま、ぁ」
歯磨き粉と混ざり泡立った唾液が零れないよう、上を向いたまま必死に俺に何かを伝えようとしている。
「一回出していいよ」
「べ…………みつき、まだ」
「まだ?」
荒凪は大きく口を開け、喉の奥からもう一つ口を出した。体内にあるものだから唇だとかは当然ない。人間の歯とは違う、鋭い牙が並んでいる。
(エイリアンじゃんこんなの……)
明らかに人間の身体の構造ではない。似ているのは見た目だけなのか?
「ほんとだ、まだあった。磨くね」
声の震えを抑え、磨いていく。本来引っ込んでいるのを出しているのは辛いのか、二つ目の口は震えているし目には涙が滲んでいる。早く終えてやらなくては。
「……っし、出来た。うがいして」
頷き、うがいを始めた荒凪の隣で静かにため息をついた。
「ありがとう水月」
「どういたしまして」
「……手、切ってない?」
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」
螺鈿を連想させる美しい鱗に、人の皮膚なんて簡単に裂いてしまえそうなヒレ。もちろん俺はそれらに細心の注意を払って荒凪の下半身を持ち上げた。
「荒凪くんは優しいね」
血と同じように鱗やヒレもまた劇物かもしれない。触れれば爛れる、なんてことはないみたいだけれど、刺さったりして体内に侵入すればどうなるか分からない。荒凪も同じ考えなのか、怯えたような目で俺を見ている。
「……僕達、触っても大丈夫……みたい?」
「そうだね、どこ触っても痛くなかったよ」
「血は、ダメ」
「ちょっと溶けたよね。まぁ、大したことないからそんなに気にしなくていいよ」
「……ダメ。痛いの、ダメ」
「荒凪くん……ホント優しいね。なんでこんなに優しい君が、溶ける血なんて持ってるんだろ」
性格と生態が合わないのは可哀想だ。体表には触れても大丈夫なのは不幸中の幸いだな、スキンシップが出来る。
「尻尾長いからバスタオル二枚くらい使っちゃって。ドライヤーの使い方分かる?」
「うん、昼見た」
「じゃあ渡しておくね。服着たら俺も手伝うから」
バスタオルを肩にかけさせドライヤーを渡す。俺もバスタオルを使い、素早く身体の水気を取っていく。
「……お、メッセ来てる」
洗濯機の上に置いておいたスマホを何気なく持ち上げると、メッセージアプリの通知に気付いた。彼氏達からの無事に家に着いたという内容のものだ、これまでデートの後などに帰宅後のメッセージを催促し続けた甲斐あって彼らは自主的なメッセージの送信を覚えたのだ。達成感がある。
「返信返信……」
それぞれに合った返信をしていく。全員分となるとかなりの量だが、俺は文字打ちが早いので無問題だ。
「フタさんとシュカからは来てない……」
シュカはサンが「ボクとシュカくんお家に現着~」とメッセージを送ってきているから別にいい。フタからもまぁ、来ないのは分かる。彼は今日俺と会ったことも覚えていないだろう。
「ヒトさんに聞いとこ……」
ネイを襲った理由についても気になるところだ、それもついでに聞いておくか。
「っくしゅ! 忘れてた、服着なきゃ」
下着一枚でスマホを弄っていた俺は、また洗濯機の上にスマホを置いて寝間着を着た。
「荒凪くん、手伝うよ」
ドライヤーとタオルを使って全身を乾かしていく。ヒレが落ち、鱗が剥がれ、人間の姿へと変わっていく。二組目の腕はいつの間にか消えていた。
「……よし、OK。保湿クリーム塗っておこうか」
身体にまでドライヤーを当てたんだ、保湿は普段以上にしっかりしておかなくては。
「べたべた、する……」
「しばらくすれば馴染むから、もう少し我慢してね」
「うん……」
荒凪の言葉はまた拙くなっていた。彼にも寝間着を着せ、まだ上手く歩けない彼の手を引いてリビングに移った。荒凪をソファに座らせ、俺は救急箱を持ってきた。
(包帯もビニール袋もそのまま残ってますな。人魚形態時は体内にアレがあったということでしょうか、とんでもねぇ異物でそ。ま、体調に問題はないみたいですが)
ソファの前に座り、荒凪の足に被せたビニール袋を外し、包帯を解いていく。
「ガーゼとか変えてから寝ようね」
「いたく、ない」
「痛くなくても怪我があるんだから処置はしておかなきゃダメ……って、怪我、ないね?」
全てを取り払った足のどこにも傷はなかった。噛み傷どころか歯型すらついていない。
「え、えぇ……? どういうこと?」
治っているようだ。変身でリセットされるのか、治癒力が異様に高いのか、どっちだ?
「いたくない」
「だろうね……」
家に着いた時、既に痛くないと言っていた。治癒力が高い説が有力か。
「不思議だけど、結構深い怪我だったからすぐ治ってよかった。じゃ、歯磨きして寝よっか。歯磨き粉は辛くないヤツがいいかな?」
救急箱を元の位置に戻し、よたよた着いてくる荒凪と洗面所へ。買い置き未開封の歯ブラシを渡し、歯磨き粉を選ぶ。手も口もまだ動かし慣れていない彼は上手く歯磨き出来ていない。
「きゅるるるる……」
不満げな声が漏れている。やはり喉で鳴らしているようだ。
「慣れるまでは俺が仕上げしてあげるから、あんまり無理してしなくてもいいよ。強く擦り過ぎると逆効果だしね」
「きゅう……」
歯磨きを終えた後、荒凪の歯ブラシを受け取った。少し上を向いて口を開けた彼の歯を磨いていく。
「ん、綺麗な歯並び……なんか、ちょっと犬歯長めかな?」
ま、この程度なら個性レベルか。
「よし、磨けた。多分完璧。うがいしていいよ」
「……! んー」
歯ブラシを洗おうとした俺の服の袖を荒凪が掴む。
「ん? 何?」
「ま、ぁ」
歯磨き粉と混ざり泡立った唾液が零れないよう、上を向いたまま必死に俺に何かを伝えようとしている。
「一回出していいよ」
「べ…………みつき、まだ」
「まだ?」
荒凪は大きく口を開け、喉の奥からもう一つ口を出した。体内にあるものだから唇だとかは当然ない。人間の歯とは違う、鋭い牙が並んでいる。
(エイリアンじゃんこんなの……)
明らかに人間の身体の構造ではない。似ているのは見た目だけなのか?
「ほんとだ、まだあった。磨くね」
声の震えを抑え、磨いていく。本来引っ込んでいるのを出しているのは辛いのか、二つ目の口は震えているし目には涙が滲んでいる。早く終えてやらなくては。
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頷き、うがいを始めた荒凪の隣で静かにため息をついた。
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