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嘘より信じられない真実 (水月+歌見・セイカ・ハル・リュウ)
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予鈴が鳴り響く中、野球部らしき生徒達がバットとボールを片付け始める。後片付けをさせてもらえなかったセイカが申し訳なさそうにしながら帰ってくる。
「セーイカっ」
「うわ……何、お前ら来てたの」
隠れていた物陰から飛び出してみたが、セイカはそれほど驚かなかった。呆れた顔を俺に向けるばかりだ。
「みっつんがせーかの様子見た~い、って言うから~」
「せーか野球好きなん?」
「別に……いつもウォーキングくらいだから、たまには上半身も動かさないとなって思っただけ。でも、ダメだな。両足でちゃんと踏ん張れないからバット振りにくいし……そもそも片手だし」
「テニスとかどうよ、片手でやるし車椅子のもあるじゃん」
「んー……いいや、腕立てでもしとくよ」
ハルの予想に反してセイカはスポーツが好きな訳ではないようだ。
「随分と親切にされてたな」
「あぁ、ゾロゾロ来た時はビビったけど……教えんの上手かったよ、癖抜けた」
「へぇー……コツとか教わってキュンとしちゃったりした感じぃ?」
「……なんだよ、感じ悪いぞ」
「腰に手添えられたり手握られたりしてたなぁ~!」
「な、なんなんだよ……」
「妬いてんだって~、なんかフォロー入れたげたら~?」
戸惑いながら眉を顰めたセイカの隣にハルが並ぶ。俺の嫉妬に気付かされても上手い言葉が浮かばないのかセイカは黙ったままだ、無言のまま俺に近寄り、きゅっと手を握った。
「…………ごめんなさい」
数秒の逡巡の後、眉尻を下げて俺を見上げ、そう呟いた。
「俺の方こそごめぇん! 本気で嫉妬したりイラついたりした訳じゃないからね!? もっとなんか適当にあしらわれると思ってさぁ……! ウザ絡みしたい気分だっただけでさぁっ、もちろんセイカに他の男がベタベタ触ってたのは嫌なのは嫌なんだけどね!? 俺じゃ野球教えらんないし仕方ないかなって……」
「一言ったら十返してくるなお前……」
「はよ教室帰らな遅刻なんで」
「そぉじゃんヤバ~! 早く戻ろ戻ろ~」
駆け足で教室へと戻った、セイカが居るとエレベーターが使えて楽だなんて話しながら。セイカは呆れた顔で俺達を眺めていたが、口角はずっと上がりっぱなしだった。
放課後、バイト先の本屋で雑誌を並べていると、カミアが表紙になっている女性誌を見つけた。
「お……」
インタビューが載っているようだ。キラキラと輝く瞳の片方を瞼の下に隠し、アイドルらしい笑顔を浮かべている。俺に向ける照れ混じりのものや、カンナと話している時などに見せる屈託のないものとは少し違う。
(ハル殿、この本買ってるんでしょうな)
女性誌なので大半の内容には興味がないのだが、カミアのインタビューだけは少し気になる。どんな質問があるのか、カミアはどう答えているのか、ついつい妄想してしまう。
(恋人は? 好きなタイプは? とかって質問絶対ありまそ。カミアたん嘘つくの苦手そうですが、嘘つくしかありませんもんな)
同い歳の彼氏が居ます! 顔が良い人がタイプです! なんて正直に言ったらどうなるか。炎上なんてものじゃない、いや、そんな回答を雑誌に載せたりしないか。
(カミアたんのジャーマネ兼お母様が事前に質問内容確認して台本作ってるって考えた方がよさそうですな)
となるとこんな雑誌を買ってもカミアの真意は分からないって訳だ。虚しいな。
「よっ……と」
空になったダンボール箱を持って倉庫に戻った。まだまだ運び出さなければならない本はたくさんある。
勤務時間終了、バックヤードでしばし休憩。
「水月、まだ帰ってなかったのか」
「おかえりなさいませパイセン。今日はいつもより遅かったのでわ?」
「配達だからな、日によってそういうこともある。配達先が散らばってたり、道が混んでたり……ん? お前、その手どうした」
半裸になって濡れタオルで汗を拭っていた歌見の視線が俺の顔から手に下りた。包帯を巻いた手は当然ながら目立つらしい。
「これは、えーっと……」
お粥を零して火傷しちゃったんでそ~、わたくしったらドジ! たはは~。と言っていいのだろうか。同級生の彼氏達はそうやって誤魔化した、だが歌見は……歌見には「嘘や隠し事をしたら別れる」と付き合う時に言われている。
「そういやお前昨日風邪で休んでたな、そっちの具合はもういいのか?」
「あっ、はい。朝はすごい熱出てたんですけど、なんかすぐ治りました」
「そうか、よかった。で、その手はどうした?」
嘘をつこうと考えても、口が上手く動いてくれない。歌見に嘘がバレた時のことを恐れている。怪我の理由を誤魔化す程度の嘘なら歌見は別れるなんて言い出さないと頭のどこかで楽観的な俺が言う、どんな些細な嘘でもダメだろうと悲観的な俺が反論する、嘘をつくなら早くしなければバレるリスクが高まると俺が焦る。
「……水月? 言いにくいことなのか?」
にこやかだった歌見の表情が真剣なものへと変わった。もうダメだ、もう嘘はつけない。
「さ、魚」
「魚……?」
「でっかい魚掴んで……鱗で、手がズタズタに」
「…………いやどういうことだ? 何かの比喩か?」
「そのままでそ」
「デカい魚ってなんだ、お前昨日熱出して寝込んでたんだろ? いつ魚なんか掴んで……魚掴むって何だ? 捌いたのか? っていうかどんな魚なら鱗で人間の手をズタズタに出来るんだ、そんな魚聞いたことないぞ」
スーパーで丸々一尾買ったとしても、鱗を剥がす下処理はされている。本物の魚の鱗がどんなものか、俺は知らない。人間の皮膚を裂くような鱗を持つ魚が普通でないのなら、何故荒凪はそんな強靭で危険な鱗を生やしているのだろうか。
「嘘をつくならもう少しマシな嘘をつけ」
「本当なんでそぉ!」
本当のことを言ったのに嘘だと思われてしまった。これならお粥を零したと嘘をついた方がまだ信憑性があったんじゃないか?
「本当なんでそ本当なんでそぉ! 信じてくだされパイセぇン!」
俺にはもう、喚き散らすことしか出来なかった。
「セーイカっ」
「うわ……何、お前ら来てたの」
隠れていた物陰から飛び出してみたが、セイカはそれほど驚かなかった。呆れた顔を俺に向けるばかりだ。
「みっつんがせーかの様子見た~い、って言うから~」
「せーか野球好きなん?」
「別に……いつもウォーキングくらいだから、たまには上半身も動かさないとなって思っただけ。でも、ダメだな。両足でちゃんと踏ん張れないからバット振りにくいし……そもそも片手だし」
「テニスとかどうよ、片手でやるし車椅子のもあるじゃん」
「んー……いいや、腕立てでもしとくよ」
ハルの予想に反してセイカはスポーツが好きな訳ではないようだ。
「随分と親切にされてたな」
「あぁ、ゾロゾロ来た時はビビったけど……教えんの上手かったよ、癖抜けた」
「へぇー……コツとか教わってキュンとしちゃったりした感じぃ?」
「……なんだよ、感じ悪いぞ」
「腰に手添えられたり手握られたりしてたなぁ~!」
「な、なんなんだよ……」
「妬いてんだって~、なんかフォロー入れたげたら~?」
戸惑いながら眉を顰めたセイカの隣にハルが並ぶ。俺の嫉妬に気付かされても上手い言葉が浮かばないのかセイカは黙ったままだ、無言のまま俺に近寄り、きゅっと手を握った。
「…………ごめんなさい」
数秒の逡巡の後、眉尻を下げて俺を見上げ、そう呟いた。
「俺の方こそごめぇん! 本気で嫉妬したりイラついたりした訳じゃないからね!? もっとなんか適当にあしらわれると思ってさぁ……! ウザ絡みしたい気分だっただけでさぁっ、もちろんセイカに他の男がベタベタ触ってたのは嫌なのは嫌なんだけどね!? 俺じゃ野球教えらんないし仕方ないかなって……」
「一言ったら十返してくるなお前……」
「はよ教室帰らな遅刻なんで」
「そぉじゃんヤバ~! 早く戻ろ戻ろ~」
駆け足で教室へと戻った、セイカが居るとエレベーターが使えて楽だなんて話しながら。セイカは呆れた顔で俺達を眺めていたが、口角はずっと上がりっぱなしだった。
放課後、バイト先の本屋で雑誌を並べていると、カミアが表紙になっている女性誌を見つけた。
「お……」
インタビューが載っているようだ。キラキラと輝く瞳の片方を瞼の下に隠し、アイドルらしい笑顔を浮かべている。俺に向ける照れ混じりのものや、カンナと話している時などに見せる屈託のないものとは少し違う。
(ハル殿、この本買ってるんでしょうな)
女性誌なので大半の内容には興味がないのだが、カミアのインタビューだけは少し気になる。どんな質問があるのか、カミアはどう答えているのか、ついつい妄想してしまう。
(恋人は? 好きなタイプは? とかって質問絶対ありまそ。カミアたん嘘つくの苦手そうですが、嘘つくしかありませんもんな)
同い歳の彼氏が居ます! 顔が良い人がタイプです! なんて正直に言ったらどうなるか。炎上なんてものじゃない、いや、そんな回答を雑誌に載せたりしないか。
(カミアたんのジャーマネ兼お母様が事前に質問内容確認して台本作ってるって考えた方がよさそうですな)
となるとこんな雑誌を買ってもカミアの真意は分からないって訳だ。虚しいな。
「よっ……と」
空になったダンボール箱を持って倉庫に戻った。まだまだ運び出さなければならない本はたくさんある。
勤務時間終了、バックヤードでしばし休憩。
「水月、まだ帰ってなかったのか」
「おかえりなさいませパイセン。今日はいつもより遅かったのでわ?」
「配達だからな、日によってそういうこともある。配達先が散らばってたり、道が混んでたり……ん? お前、その手どうした」
半裸になって濡れタオルで汗を拭っていた歌見の視線が俺の顔から手に下りた。包帯を巻いた手は当然ながら目立つらしい。
「これは、えーっと……」
お粥を零して火傷しちゃったんでそ~、わたくしったらドジ! たはは~。と言っていいのだろうか。同級生の彼氏達はそうやって誤魔化した、だが歌見は……歌見には「嘘や隠し事をしたら別れる」と付き合う時に言われている。
「そういやお前昨日風邪で休んでたな、そっちの具合はもういいのか?」
「あっ、はい。朝はすごい熱出てたんですけど、なんかすぐ治りました」
「そうか、よかった。で、その手はどうした?」
嘘をつこうと考えても、口が上手く動いてくれない。歌見に嘘がバレた時のことを恐れている。怪我の理由を誤魔化す程度の嘘なら歌見は別れるなんて言い出さないと頭のどこかで楽観的な俺が言う、どんな些細な嘘でもダメだろうと悲観的な俺が反論する、嘘をつくなら早くしなければバレるリスクが高まると俺が焦る。
「……水月? 言いにくいことなのか?」
にこやかだった歌見の表情が真剣なものへと変わった。もうダメだ、もう嘘はつけない。
「さ、魚」
「魚……?」
「でっかい魚掴んで……鱗で、手がズタズタに」
「…………いやどういうことだ? 何かの比喩か?」
「そのままでそ」
「デカい魚ってなんだ、お前昨日熱出して寝込んでたんだろ? いつ魚なんか掴んで……魚掴むって何だ? 捌いたのか? っていうかどんな魚なら鱗で人間の手をズタズタに出来るんだ、そんな魚聞いたことないぞ」
スーパーで丸々一尾買ったとしても、鱗を剥がす下処理はされている。本物の魚の鱗がどんなものか、俺は知らない。人間の皮膚を裂くような鱗を持つ魚が普通でないのなら、何故荒凪はそんな強靭で危険な鱗を生やしているのだろうか。
「嘘をつくならもう少しマシな嘘をつけ」
「本当なんでそぉ!」
本当のことを言ったのに嘘だと思われてしまった。これならお粥を零したと嘘をついた方がまだ信憑性があったんじゃないか?
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