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おまけ
おまけ 入学式の日のあのこ
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※物語冒頭、入学式のカンナ視点です
周囲の街並みから少し浮いた、綺麗な建物。入学説明会に来た時にも、異界に迷い込んだような気分になった。
十二薔薇高校──有名な名門男子校。
偏差値が高い学校の方が、カンナをイジめるバカが減るから。歴史ある学校の方が、きっと生徒の民度が高いから。この学校を勧めてきたお父さんの言葉を思い出す。
「…………」
カツラを取られて、キャッチボールみたいにされた。消毒液や洗剤を頭から被せられた。モップとかでたくさん叩かれた。痛くて苦しくて辛かった。でも何より嫌だったのは、こんな学校選んでごめんとお父さんに泣かれることだった。十二薔薇では上手くやりたい、お父さんに心配をかけたくない、一度も転校せず卒業してみたい。
「…………!」
ぎゅっと拳を握って、校門をくぐった。どきどきする。胸が少し痛い。
入学式が行われる体育館では更に緊張した。たくさん人が居るのは苦手、もしカツラが外れちゃったらって不安になる。そんなこと、多分ないのに。ちゃんとくっつけてあるのに。
「一年生が一人居なくて……特待生の子なんですが」
「早速サボってる問題児かなぁ。迷子ってオチだといいんだけど」
お父さんの予想は当たってたみたい。十二薔薇の生徒はみんな大人しくて、小学校や中学校の頃と違って私語がほとんどない。入学式で、初対面の人ばかりだから、みんな僕みたいに緊張してるだけかもしれないけど。
掲示された張り紙に従って、僕がこれから一年間過ごすクラスへ向かった。怖い人、居ないといいな。さっき言ってた問題児かもって特待生の人、別のクラスだといいな。
「はーっ……ダル、化粧ノリ最悪。萎え~……」
ちょっと怖い雰囲気の女の子が居る、男子校なのに……男子、なのかな? 髪が長くて、化粧してるだけで、男の子? 芸能人みたいに綺麗な子だ。
「席が分かりませんか?」
「……!?」
話しかけられた。話しかけられた……! どうしよう、返事しなきゃ。でも、声出ない。
「席順は黒板に掲示されていますよ」
前髪を真ん中で分けた、メガネの、真面目そうで優しそうな……? 目元に、切り傷ある? ニコニコしてるし親切だけど、目が笑ってない……この人も、ちょっと怖いかも。
「…………ぁ、りがっ…………と……」
「どういたしまして」
何とかお礼を言えた。黒板に掲示された紙で自分の席を確認して、座った。
「ふー……」
周りの生徒は大抵、他の生徒に話しかけたりしている。お父さんが言ってた、入学初日に一人でいいから友達を作っておかないと、ペアワークで困るぞって。
「…………」
でも、お父さん、ぼく無理だよ。自分から誰かに話しかけるなんて、カンナには無理だよ。カンナはいつもカミアの背に隠れてた、スタッフさん達への挨拶だってカミアのまねっこしてただけ、カンナは一人で他人と話したりなんて出来ないよ。
「………………」
お父さんに、心配かけたくない。友達作らなきゃ。でも、友達作ってもお父さんは心配する。傷跡が、焼け爛れた顔が、バレちゃうリスク上がるから。
席に座ってからずっと微動だにせずに居ると、隣で椅子が引かれる音がした。隣の席の人、来たんだ。ちょっと遅かった……まさか、特待生の人? 怖い人、なのかな。
「おはよ、俺は鳴雷 水月。よろしく」
声かけられた。ばくばく激しく脈打ってる心臓に、静かにしなさいって気持ちを込めて、胸に手を当てて呼吸を整えながら隣の人……鳴雷くんの方を向いた。
「………………」
かっこいい。すごく、かっこいい。前髪に邪魔されてるぼくの目でも分かる、すっごくかっこいい人だって。こんなに綺麗な顔した人、アイドルだった頃だって見たことない。余計に緊張してしまって、頷くので精一杯だった。
名前言わないといけないのに。鳴雷くんは教えてくれたのに。ぼくの名前、言わないと。ぼくの名前、カンナ……ぼくは、カンナじゃ…………ううん、ぼくは、カンナだ。ノートにそう書いてある。
どうしても声が出せなかったから、ノートに書いた名前を見せようって思った。思い付いて、ノートを持った時にはもう、鳴雷くんは黒板見ちゃってた。返事しないから呆れられちゃったかな、変な子だって思われちゃったかな、嫌だ、ちゃんと名前言いたい。
「どうした?」
肩をつついたらこっち向いてくれた。ぼくの顔じっと見てる。やっぱりかっこいい、見とれちゃう……かっこいいだけじゃない、すごく優しい表情してる。ぼくが声を出せるようになるまで待っててくれそうな、優しい目してる。でも、そんなに優しい人なら待たせちゃいけない。
「えーと……時雨 神無でいいのか? 読み方合ってる?」
ぼくがノートを差し出した意図が伝わっていなかったみたいだから、ぼくはノートに書いたぼくの名前を指差した。
「…………!」
低くて甘い、うっとりしちゃう声で、ぼくの名前呼んでくれた。なんだかとっても嬉しくて、何度も何度も頷いた。
「仲良くしような、時雨」
にこ、って、笑ってくれた。ぼくに、ぼくだけに、笑いかけてくれた。あんまり綺麗な顔で、あんまり優しく笑うから、一瞬何が何だか分からなくなって、そして──教室の引き戸が勢いよく開いて、びっくりして身体が勝手にビクッてなった。
「離せやクソ野郎っ!」
金髪の、生徒……クラスメイトなのかな。怖い人だ、先生にすっごく反抗してる。すごく怖い。目合わせないようにしなきゃ。
「…………」
せっかく、鳴雷くんが微笑みかけてくれたのに、その余韻に浸れなかった。びっくりして、怖くなって、鳴雷くん見て熱くなった顔が冷めちゃった。
金髪の怖い人が席に着いて、プリントが配られていく。ファイルに入れたり、書かれてることを読んだりしながら、鳴雷くんの方をチラっと見てみた。鳴雷くんはプリントを眺めるフリをしながら、瞳だけでどこかを見てる。
「…………?」
どこを見てるんだろう、何を見てるんだろう。綺麗な目に映るものが気になって、ぼくはじーっと鳴雷くんを見つめてしまった。
「時雨? なんだ?」
見ていることに気付かれた。ぼくは慌ててプリントに視線を戻した。
「…………」
変な子に思われちゃったかな。
プリントの配布と説明が終わって、見るものがなくなったから鳴雷くんを見た。横顔もすごく綺麗。睫毛長いしくりんってしてる、天然でああなのかな。鼻が高くて、唇もすごくいい形……あ、Eラインありそう。手もかっこいいな、浮いてる血管ぷにぷにしたい。腕もかっこいい、筋浮いてる、尺骨も張ってる。ぼくの手首は尺骨の存在を疑いたくなるくらいまっすぐで、手の甲もなんだかぷっくりしてて、まるで小さな子供みたい。鳴雷くんはぼくとは違う、大人の男の人みたい。どきどきしてきた。
「……時雨? なんだ?」
なんで鳴雷くん、ぼくが見てること分かるんだろ。ぼくの目、前髪でしっかり隠れてるはずなのに。自分で鏡見ても目なんて見えないのに。
「…………っ」
視線を感じた、なんて鳴雷くんも確信はないはずだ。じーっと見ていたのがバレたくなかったぼくは、首を横に振ってそっぽを向いた。
チャイムが鳴った。学校初日はもう終わりだ。長かったような、短かったような。
「なぁ、帰り方向どっち?」
「一緒に帰ろー」
「電車乗るヤツ居るー?」
帰りの挨拶が終わると少し騒がしくなった。一緒に帰る約束を取り付けているみたいだ。一緒に……友達なら、一緒に帰るのかな。一緒に帰れたら、友達になれるかな。鳴雷くんと仲良くなりたいな、仲良くしようなって鳴雷くんが言ってくれたんだから、ぼく達一緒に帰るんだよね?
「ふーっ……ん?」
鳴雷くんが誘ってくれるの待ってたら、鳴雷くんは鞄を持って一人でさっさと行ってしまおうとした。ぼくは慌てて彼の服の裾を掴んだ。
「時雨……?」
ぼくを忘れてるよ、ぼくと一緒に帰ってくれるんでしょ、仲良くしようなって言ったもんね? 社交辞令だったのかな、服掴んじゃった、変な子だって思われたかな。
「一緒に帰るか?」
「…………!」
社交辞令じゃなかった、よかった、鳴雷くんぼくを誘うの忘れちゃってただけだったんだ、意外とうっかりさん。かわいい。
「…………」
頷いて、見上げた鳴雷くんは目を細めてぼくを見つめ返してくれていた。なんだか見覚えがある表情……あぁそうだ、ぷぅ太を撫でている時のカミアがこんな顔をしてた。眉尻を下げて、目を細めて、口角を少し上げて、じっと見つめる……好きな表情だ。
「俺、電車乗るけど……時雨は?」
「…………」
鳴雷くんもぼくと一緒、電車に乗って通学するみたい。一緒に居られる時間が伸びて嬉しい。
「高校入学不安だったけど、時雨と仲良くなれてよかったよ」
通学方法だけじゃなくて、気持ちまで一緒だ。鳴雷くんと仲良くなれて、ペアワークに不安はなくなった。鳴雷くんに火傷がバレないかはまだすごく不安だけれど、カツラを取ったりするような人じゃないし、気を付けていればバレたりしないよね?
駅に着くとたくさん人が居た。たくさん人が居るのは苦手だ。怖い。鳴雷くんとはぐれないように、服の端っこ持たせてもらおう。
「時雨、なんだ?」
鳴雷くんは背が高くて肩幅もあるし、人混みに揉まれたりはあんまりしないだろう。ぼくはする。痴漢に遭ったこともある。鳴雷くんに隠れさせてもらおう。
「……はぐれないように手繋いどくか?」
「…………!」
願ってもみない提案にぼくはすぐに飛びついた。鳴雷くんの手を両手で握った。
「えーっと、時雨はどこの駅で降りるんだ?」
「…………」
鳴雷くんの手、おっきい。お父さんよりおっきい。骨っぽくて、筋肉もあって、ぼくとは違って硬いけれど、肌はぼくよりずっとすべすべしてる。指長くて綺麗。温かい。すごく安心する。
「混んでるな……」
人がたくさん居る車内で、鳴雷くんはぼくを優しく導いて、ぼくを扉の前に立たせてくれた。ぼくの背中は扉にぴったり引っ付いて、目の前には鳴雷くんが居る。
中学生の頃、知らないおじさんにお尻触られてから、電車に乗ってる時に後ろに人が立つのがすごく苦手になった。鳴雷くん、ぼくのそんなこと知らないはず、知らないはずなのに、ぼくが一番安心する乗り方させてくれてる。
「暑いな……わっ! ぁ……わ、悪い時雨。ごめんな」
偶然のはずの安心に浸っていると、バンッと顔の横で音が鳴った。鳴雷くんがカーブでよろけてぼくの顔の横に手を着いたんだ。
「ぁ……」
これ知ってる、壁ドンだ、昔流行ったヤツだ。鳴雷くんはそんなつもりでやってないはずなのに、鳴雷くんの顔が赤く見えるのはきっと車内が暑いからなのに、どきどきしてきた。鳴雷くんの手を握ってる手が、しっとりしてきた。手汗は止めないと、鳴雷くんに嫌がられちゃう。
「悪い、ちょっと近いけど……もうちょい我慢してくれ」
「…………!」
申し訳なさそうに微笑んだ鳴雷くんは、すごくすごくかっこよくて、見ていられなかった。もったいないけれど、視線を逸らさないとおかしくなってしまいそうだった。俯いて、顔の熱さに気が付いて、鳴雷くんに照れたのがバレてませんようにって必死に祈った。
「ぁ、つ……り、る……」
「ん? 時雨、何か言ったか?」
車内アナウンスで、次の駅が降りる駅だと分かった。照れている場合じゃない、鳴雷くんに伝えないと。でも、上手く声が出ない。
「つ、ぎっ……ぉ……」
「……次の駅で降りるのか?」
二回目でどうにか伝わった。安心していたのも束の間、次の瞬間鳴雷くんはとんでもないことをした。
「ちょっと手離してくれるか? 服掴んでいいから」
残念に思いつつも言われた通りに鳴雷くんの手を離すと、鳴雷くんはぼくの背に腕を回した。ぼくを抱き締めたんだ。
「……っ!? ぁ、ぅっ……!」
ぼくを抱き締めた腕から感じる力強さだとか、密着して分かる鳴雷くんの体格の良さだとか、体温だとか体臭だとか、鳴雷くんの全部がぼくの顔の熱を高めていく。
「時雨、ほら歩いて」
扉が開いてホームに降りて、鳴雷くんに誘われるがままベンチに座った。
「大丈夫か? 体調悪いか?」
「…………!」
鳴雷くんのせいだ。鳴雷くんが抱き締めたから、ぼくのことどきどきさせて、何が何だか分かんなくさせたからだ。とぼけたってダメだ、ぼくを抱き締める理由なんてあの時なかったはずだ。
「平気なのか? じゃ、俺はそろそろ……」
「…………っ!?」
ぼくをこんなにしておいて、帰ってしまおうとするなんてダメだ。ぼくは咄嗟に鳴雷くんの服を掴んだ。
「……なんだ? 時雨」
「…………」
今日、このセリフ聞くの、何度目だろ。言わなきゃ、何か言わなきゃ、でも言葉が思い付かないし、声が出ない。
「俺、そろそろ帰らなきゃ……時雨も気を付けて帰れよ」
いつまでも鳴雷くんを引き止める訳にはいかないから、何か言わなきゃ。そう思っているのに声が出なくて、焦っていると頭にぽんと何かが乗った。何か──鳴雷くんの手? なんで? やだ、カツラ取っちゃやだっ!
ぱん! と、音がした。手が痛い。違う、痛くしたのはぼくだ、ぼくが鳴雷くんの手を叩いたんだ。だって鳴雷くんがぼくのカツラを取ろうとしたから。
「…………?」
顔を上げると鳴雷くんは呆然とした顔で自分の手を見つめていた。カツラを取ろうとした訳じゃない……? そりゃ、そうだ、鳴雷くんはそんなことしない、そんな子じゃない。
「ご、めっ……ち、ぁ…………め、さ……」
「……頭触られるの嫌いなのか? ごめんな」
ぼくの頭にゴミがついてたのかもしれない。もしかしたら、頭を撫でてくれたのかも。何も言えないのに引き止めるばっかりのぼくをなだめようと、頭を撫でてくれたのかも。そんな手を、ぼくは叩いた。優しくて温かい手だって分かってたはずなのに。
「手……たぃ、ご……な、さっ……」
「手を叩いてごめんなさい? いや、俺が悪かった。ごめんな、許してくれ」
ぼくが悪いはずなのに、鳴雷くんは自分が悪いと言って、謝ってくれた。どうしてこんなに優しいんだろう。
「時雨が気にすることは何もないよ、手には触ってていいんだよな?」
優し過ぎる鳴雷くんに混乱していると、鳴雷くんはぼくの右手の甲に唇をちゅっと押し当てた。キス、だ。
「……っ!?」
「お詫びとさよならの挨拶を兼ねて。それじゃ、また明日な」
キザっぽいセリフだけれど、鳴雷くんの表情はどこか恥ずかしそうなものだった。
「…………」
キス、された。手の甲に。鳴雷くん、外国育ちなのかなぁ。
右手の甲を眺めながら、家に帰った。ぷぅ太の世話をして、明日の学校の準備をして、ぷぅ太と遊びながらお父さんが帰ってくるのを待った。
「ただいま~」
「……おかえり、お父さん」
「ただいまカンナぁ! 学校どうだった? 大丈夫そうか? 変なヤツ居なかったか?」
「先、着替えて……」
部屋着に着替えて、エプロンを着けて、料理を始めたお父さんの手元を覗く。
「今日はカンナの好きなチーズインハンバーグだぞ」
「うん……」
「あ、あれ? 今日ハンバーグの気分じゃなかったか?」
「……ううんっ、嬉しい。ありがとうお父さん」
ぼーっとしてしまっていた。お父さんを見上げて笑顔で返事をしてみたけれど、お父さんには誤魔化しは通じなかった。辛そうに顔を歪めてる。
「カンナ……何かあったんだな? クソ、名門校ならバカは居ないと思ったのに、高い金払った甲斐がないじゃないか。整形貯金に回しとけばよかったか? はぁ……」
「ぉ、お父さん……違う、ぼくいじめられてない」
「…………でも何かあったんだろう? 何かされてからじゃ遅いんだ、カンナが傷付いてからじゃダメなんだよ」
「ちがう……と、とも、だち…………できた、の」
「……!? 本当か! どんな子だ!」
「…………おなかすいた」
「あっ、すぐ作るからな……」
お父さんは料理に意識を戻してくれた。鳴雷くんのこと、お父さんに話したい。上手く話せないぼくの言葉、あんなに待ってくれる人初めて。そのこと話したい。手繋いでくれたことも、抱き締めてくれたことも、キス……されたことも。
ハンバーグが完成した。お皿を机に運んで、お父さんと向かい合って、手を合わせた。
「いただきます」
早速ハンバーグに切れ目を入れる。トロっとチーズが溢れてくる。
「ん~……!」
「美味しいか? カンナ」
「うん!」
「よし、じゃあお友達の話してくれ」
「うん。かっこいい。まつ毛くりんで、腕ばきばきで、ぼく話すの待ってくれる」
「相変わらずお前の説明は要領を得ないなぁ……鍛えてる子なのかな? で、カッコイイと。流石十二薔薇、レベルの高いイケメンが居るんだなぁ……でも大事なのは内面だからな、どんな子だ?」
「手、繋いでくれた。かべどんも。ぎゅってしてくれた」
「待て待て待て待て……と、友達だよな? 入学早々彼氏作ってきたとかお父さん卒倒しちゃうぞ? そりゃ確かにお前らは昔からイケメンに目がなくてお父さん心配だったけどまさかそんな」
「キス、も」
「うあぁあああーっ!? 俺の息子によくも殺してやる! 殺してやるぞ!」
「……!? やめて! なんで……お父さん。ぼくの友達なのに」
「キスしてくるような友達が居るかぁ! はぁ、はぁ……キスの件について詳しく」
落ち着いたみたい。お父さんたまにすごく取り乱す。ちょっと面白いけど、困る。
「電車、降りて……さよならの時、ぼくの手に、キスしたの」
「…………手?」
「うん。右手。手の甲」
フォークを持っている手を少し上げて、手の甲を見せる。鳴雷くんは口紅なんてつけていないから、何の跡もついていないけれど。
「外国育ちなのかなぁ」
「……そうなんじゃないか? 十二薔薇なら帰国子女くらい山ほど居るだろ……はぁ、びっくりした…………そうかなるほど帰国子女ね、なら手繋いだり何だり距離の近さにも納得いくぞ、よしよし」
「…………誰にでも、するのかな?」
「まぁ仲良くなったとはいえ会ったばっかりのカンナにするなら、誰にでもしそうだな」
「……なんか、やだ」
「カンナ……ま、まさかカンナ、そいつのこと……好き、なのか?」
「好き……?」
鳴雷くんの顔を思い浮かべてみる。先生の話聞いてる時の、退屈そうな横顔……ぼくを見つめる時の、優しい眼差し……ダメだ、顔熱くなってきた。頭もぼーっとしてきた。
「……! 一気に赤くなったな、よく分かったよ。好きなんだな、そいつが」
「…………」
「お父さんはな、カンナがあんまり誰かと仲良くするのは反対だ。傷跡がバレるリスクが高まるからな」
「うん……」
「カンナ……気を付けるんだぞ」
「……うん」
傷跡がバレて避けられたり虐められたりするのは嫌だ。でも、それを恐れて鳴雷くんから離れるのは、もっと嫌だ。お父さんには心配も迷惑もかけたくないけど、お父さんの言うこと全部聞いていたくもない。もちろん傷跡を見られないように気を付けはするけれど、鳴雷くんへの恋は諦めない。いつか絶対必ず振り向いてもらうんだ。
周囲の街並みから少し浮いた、綺麗な建物。入学説明会に来た時にも、異界に迷い込んだような気分になった。
十二薔薇高校──有名な名門男子校。
偏差値が高い学校の方が、カンナをイジめるバカが減るから。歴史ある学校の方が、きっと生徒の民度が高いから。この学校を勧めてきたお父さんの言葉を思い出す。
「…………」
カツラを取られて、キャッチボールみたいにされた。消毒液や洗剤を頭から被せられた。モップとかでたくさん叩かれた。痛くて苦しくて辛かった。でも何より嫌だったのは、こんな学校選んでごめんとお父さんに泣かれることだった。十二薔薇では上手くやりたい、お父さんに心配をかけたくない、一度も転校せず卒業してみたい。
「…………!」
ぎゅっと拳を握って、校門をくぐった。どきどきする。胸が少し痛い。
入学式が行われる体育館では更に緊張した。たくさん人が居るのは苦手、もしカツラが外れちゃったらって不安になる。そんなこと、多分ないのに。ちゃんとくっつけてあるのに。
「一年生が一人居なくて……特待生の子なんですが」
「早速サボってる問題児かなぁ。迷子ってオチだといいんだけど」
お父さんの予想は当たってたみたい。十二薔薇の生徒はみんな大人しくて、小学校や中学校の頃と違って私語がほとんどない。入学式で、初対面の人ばかりだから、みんな僕みたいに緊張してるだけかもしれないけど。
掲示された張り紙に従って、僕がこれから一年間過ごすクラスへ向かった。怖い人、居ないといいな。さっき言ってた問題児かもって特待生の人、別のクラスだといいな。
「はーっ……ダル、化粧ノリ最悪。萎え~……」
ちょっと怖い雰囲気の女の子が居る、男子校なのに……男子、なのかな? 髪が長くて、化粧してるだけで、男の子? 芸能人みたいに綺麗な子だ。
「席が分かりませんか?」
「……!?」
話しかけられた。話しかけられた……! どうしよう、返事しなきゃ。でも、声出ない。
「席順は黒板に掲示されていますよ」
前髪を真ん中で分けた、メガネの、真面目そうで優しそうな……? 目元に、切り傷ある? ニコニコしてるし親切だけど、目が笑ってない……この人も、ちょっと怖いかも。
「…………ぁ、りがっ…………と……」
「どういたしまして」
何とかお礼を言えた。黒板に掲示された紙で自分の席を確認して、座った。
「ふー……」
周りの生徒は大抵、他の生徒に話しかけたりしている。お父さんが言ってた、入学初日に一人でいいから友達を作っておかないと、ペアワークで困るぞって。
「…………」
でも、お父さん、ぼく無理だよ。自分から誰かに話しかけるなんて、カンナには無理だよ。カンナはいつもカミアの背に隠れてた、スタッフさん達への挨拶だってカミアのまねっこしてただけ、カンナは一人で他人と話したりなんて出来ないよ。
「………………」
お父さんに、心配かけたくない。友達作らなきゃ。でも、友達作ってもお父さんは心配する。傷跡が、焼け爛れた顔が、バレちゃうリスク上がるから。
席に座ってからずっと微動だにせずに居ると、隣で椅子が引かれる音がした。隣の席の人、来たんだ。ちょっと遅かった……まさか、特待生の人? 怖い人、なのかな。
「おはよ、俺は鳴雷 水月。よろしく」
声かけられた。ばくばく激しく脈打ってる心臓に、静かにしなさいって気持ちを込めて、胸に手を当てて呼吸を整えながら隣の人……鳴雷くんの方を向いた。
「………………」
かっこいい。すごく、かっこいい。前髪に邪魔されてるぼくの目でも分かる、すっごくかっこいい人だって。こんなに綺麗な顔した人、アイドルだった頃だって見たことない。余計に緊張してしまって、頷くので精一杯だった。
名前言わないといけないのに。鳴雷くんは教えてくれたのに。ぼくの名前、言わないと。ぼくの名前、カンナ……ぼくは、カンナじゃ…………ううん、ぼくは、カンナだ。ノートにそう書いてある。
どうしても声が出せなかったから、ノートに書いた名前を見せようって思った。思い付いて、ノートを持った時にはもう、鳴雷くんは黒板見ちゃってた。返事しないから呆れられちゃったかな、変な子だって思われちゃったかな、嫌だ、ちゃんと名前言いたい。
「どうした?」
肩をつついたらこっち向いてくれた。ぼくの顔じっと見てる。やっぱりかっこいい、見とれちゃう……かっこいいだけじゃない、すごく優しい表情してる。ぼくが声を出せるようになるまで待っててくれそうな、優しい目してる。でも、そんなに優しい人なら待たせちゃいけない。
「えーと……時雨 神無でいいのか? 読み方合ってる?」
ぼくがノートを差し出した意図が伝わっていなかったみたいだから、ぼくはノートに書いたぼくの名前を指差した。
「…………!」
低くて甘い、うっとりしちゃう声で、ぼくの名前呼んでくれた。なんだかとっても嬉しくて、何度も何度も頷いた。
「仲良くしような、時雨」
にこ、って、笑ってくれた。ぼくに、ぼくだけに、笑いかけてくれた。あんまり綺麗な顔で、あんまり優しく笑うから、一瞬何が何だか分からなくなって、そして──教室の引き戸が勢いよく開いて、びっくりして身体が勝手にビクッてなった。
「離せやクソ野郎っ!」
金髪の、生徒……クラスメイトなのかな。怖い人だ、先生にすっごく反抗してる。すごく怖い。目合わせないようにしなきゃ。
「…………」
せっかく、鳴雷くんが微笑みかけてくれたのに、その余韻に浸れなかった。びっくりして、怖くなって、鳴雷くん見て熱くなった顔が冷めちゃった。
金髪の怖い人が席に着いて、プリントが配られていく。ファイルに入れたり、書かれてることを読んだりしながら、鳴雷くんの方をチラっと見てみた。鳴雷くんはプリントを眺めるフリをしながら、瞳だけでどこかを見てる。
「…………?」
どこを見てるんだろう、何を見てるんだろう。綺麗な目に映るものが気になって、ぼくはじーっと鳴雷くんを見つめてしまった。
「時雨? なんだ?」
見ていることに気付かれた。ぼくは慌ててプリントに視線を戻した。
「…………」
変な子に思われちゃったかな。
プリントの配布と説明が終わって、見るものがなくなったから鳴雷くんを見た。横顔もすごく綺麗。睫毛長いしくりんってしてる、天然でああなのかな。鼻が高くて、唇もすごくいい形……あ、Eラインありそう。手もかっこいいな、浮いてる血管ぷにぷにしたい。腕もかっこいい、筋浮いてる、尺骨も張ってる。ぼくの手首は尺骨の存在を疑いたくなるくらいまっすぐで、手の甲もなんだかぷっくりしてて、まるで小さな子供みたい。鳴雷くんはぼくとは違う、大人の男の人みたい。どきどきしてきた。
「……時雨? なんだ?」
なんで鳴雷くん、ぼくが見てること分かるんだろ。ぼくの目、前髪でしっかり隠れてるはずなのに。自分で鏡見ても目なんて見えないのに。
「…………っ」
視線を感じた、なんて鳴雷くんも確信はないはずだ。じーっと見ていたのがバレたくなかったぼくは、首を横に振ってそっぽを向いた。
チャイムが鳴った。学校初日はもう終わりだ。長かったような、短かったような。
「なぁ、帰り方向どっち?」
「一緒に帰ろー」
「電車乗るヤツ居るー?」
帰りの挨拶が終わると少し騒がしくなった。一緒に帰る約束を取り付けているみたいだ。一緒に……友達なら、一緒に帰るのかな。一緒に帰れたら、友達になれるかな。鳴雷くんと仲良くなりたいな、仲良くしようなって鳴雷くんが言ってくれたんだから、ぼく達一緒に帰るんだよね?
「ふーっ……ん?」
鳴雷くんが誘ってくれるの待ってたら、鳴雷くんは鞄を持って一人でさっさと行ってしまおうとした。ぼくは慌てて彼の服の裾を掴んだ。
「時雨……?」
ぼくを忘れてるよ、ぼくと一緒に帰ってくれるんでしょ、仲良くしようなって言ったもんね? 社交辞令だったのかな、服掴んじゃった、変な子だって思われたかな。
「一緒に帰るか?」
「…………!」
社交辞令じゃなかった、よかった、鳴雷くんぼくを誘うの忘れちゃってただけだったんだ、意外とうっかりさん。かわいい。
「…………」
頷いて、見上げた鳴雷くんは目を細めてぼくを見つめ返してくれていた。なんだか見覚えがある表情……あぁそうだ、ぷぅ太を撫でている時のカミアがこんな顔をしてた。眉尻を下げて、目を細めて、口角を少し上げて、じっと見つめる……好きな表情だ。
「俺、電車乗るけど……時雨は?」
「…………」
鳴雷くんもぼくと一緒、電車に乗って通学するみたい。一緒に居られる時間が伸びて嬉しい。
「高校入学不安だったけど、時雨と仲良くなれてよかったよ」
通学方法だけじゃなくて、気持ちまで一緒だ。鳴雷くんと仲良くなれて、ペアワークに不安はなくなった。鳴雷くんに火傷がバレないかはまだすごく不安だけれど、カツラを取ったりするような人じゃないし、気を付けていればバレたりしないよね?
駅に着くとたくさん人が居た。たくさん人が居るのは苦手だ。怖い。鳴雷くんとはぐれないように、服の端っこ持たせてもらおう。
「時雨、なんだ?」
鳴雷くんは背が高くて肩幅もあるし、人混みに揉まれたりはあんまりしないだろう。ぼくはする。痴漢に遭ったこともある。鳴雷くんに隠れさせてもらおう。
「……はぐれないように手繋いどくか?」
「…………!」
願ってもみない提案にぼくはすぐに飛びついた。鳴雷くんの手を両手で握った。
「えーっと、時雨はどこの駅で降りるんだ?」
「…………」
鳴雷くんの手、おっきい。お父さんよりおっきい。骨っぽくて、筋肉もあって、ぼくとは違って硬いけれど、肌はぼくよりずっとすべすべしてる。指長くて綺麗。温かい。すごく安心する。
「混んでるな……」
人がたくさん居る車内で、鳴雷くんはぼくを優しく導いて、ぼくを扉の前に立たせてくれた。ぼくの背中は扉にぴったり引っ付いて、目の前には鳴雷くんが居る。
中学生の頃、知らないおじさんにお尻触られてから、電車に乗ってる時に後ろに人が立つのがすごく苦手になった。鳴雷くん、ぼくのそんなこと知らないはず、知らないはずなのに、ぼくが一番安心する乗り方させてくれてる。
「暑いな……わっ! ぁ……わ、悪い時雨。ごめんな」
偶然のはずの安心に浸っていると、バンッと顔の横で音が鳴った。鳴雷くんがカーブでよろけてぼくの顔の横に手を着いたんだ。
「ぁ……」
これ知ってる、壁ドンだ、昔流行ったヤツだ。鳴雷くんはそんなつもりでやってないはずなのに、鳴雷くんの顔が赤く見えるのはきっと車内が暑いからなのに、どきどきしてきた。鳴雷くんの手を握ってる手が、しっとりしてきた。手汗は止めないと、鳴雷くんに嫌がられちゃう。
「悪い、ちょっと近いけど……もうちょい我慢してくれ」
「…………!」
申し訳なさそうに微笑んだ鳴雷くんは、すごくすごくかっこよくて、見ていられなかった。もったいないけれど、視線を逸らさないとおかしくなってしまいそうだった。俯いて、顔の熱さに気が付いて、鳴雷くんに照れたのがバレてませんようにって必死に祈った。
「ぁ、つ……り、る……」
「ん? 時雨、何か言ったか?」
車内アナウンスで、次の駅が降りる駅だと分かった。照れている場合じゃない、鳴雷くんに伝えないと。でも、上手く声が出ない。
「つ、ぎっ……ぉ……」
「……次の駅で降りるのか?」
二回目でどうにか伝わった。安心していたのも束の間、次の瞬間鳴雷くんはとんでもないことをした。
「ちょっと手離してくれるか? 服掴んでいいから」
残念に思いつつも言われた通りに鳴雷くんの手を離すと、鳴雷くんはぼくの背に腕を回した。ぼくを抱き締めたんだ。
「……っ!? ぁ、ぅっ……!」
ぼくを抱き締めた腕から感じる力強さだとか、密着して分かる鳴雷くんの体格の良さだとか、体温だとか体臭だとか、鳴雷くんの全部がぼくの顔の熱を高めていく。
「時雨、ほら歩いて」
扉が開いてホームに降りて、鳴雷くんに誘われるがままベンチに座った。
「大丈夫か? 体調悪いか?」
「…………!」
鳴雷くんのせいだ。鳴雷くんが抱き締めたから、ぼくのことどきどきさせて、何が何だか分かんなくさせたからだ。とぼけたってダメだ、ぼくを抱き締める理由なんてあの時なかったはずだ。
「平気なのか? じゃ、俺はそろそろ……」
「…………っ!?」
ぼくをこんなにしておいて、帰ってしまおうとするなんてダメだ。ぼくは咄嗟に鳴雷くんの服を掴んだ。
「……なんだ? 時雨」
「…………」
今日、このセリフ聞くの、何度目だろ。言わなきゃ、何か言わなきゃ、でも言葉が思い付かないし、声が出ない。
「俺、そろそろ帰らなきゃ……時雨も気を付けて帰れよ」
いつまでも鳴雷くんを引き止める訳にはいかないから、何か言わなきゃ。そう思っているのに声が出なくて、焦っていると頭にぽんと何かが乗った。何か──鳴雷くんの手? なんで? やだ、カツラ取っちゃやだっ!
ぱん! と、音がした。手が痛い。違う、痛くしたのはぼくだ、ぼくが鳴雷くんの手を叩いたんだ。だって鳴雷くんがぼくのカツラを取ろうとしたから。
「…………?」
顔を上げると鳴雷くんは呆然とした顔で自分の手を見つめていた。カツラを取ろうとした訳じゃない……? そりゃ、そうだ、鳴雷くんはそんなことしない、そんな子じゃない。
「ご、めっ……ち、ぁ…………め、さ……」
「……頭触られるの嫌いなのか? ごめんな」
ぼくの頭にゴミがついてたのかもしれない。もしかしたら、頭を撫でてくれたのかも。何も言えないのに引き止めるばっかりのぼくをなだめようと、頭を撫でてくれたのかも。そんな手を、ぼくは叩いた。優しくて温かい手だって分かってたはずなのに。
「手……たぃ、ご……な、さっ……」
「手を叩いてごめんなさい? いや、俺が悪かった。ごめんな、許してくれ」
ぼくが悪いはずなのに、鳴雷くんは自分が悪いと言って、謝ってくれた。どうしてこんなに優しいんだろう。
「時雨が気にすることは何もないよ、手には触ってていいんだよな?」
優し過ぎる鳴雷くんに混乱していると、鳴雷くんはぼくの右手の甲に唇をちゅっと押し当てた。キス、だ。
「……っ!?」
「お詫びとさよならの挨拶を兼ねて。それじゃ、また明日な」
キザっぽいセリフだけれど、鳴雷くんの表情はどこか恥ずかしそうなものだった。
「…………」
キス、された。手の甲に。鳴雷くん、外国育ちなのかなぁ。
右手の甲を眺めながら、家に帰った。ぷぅ太の世話をして、明日の学校の準備をして、ぷぅ太と遊びながらお父さんが帰ってくるのを待った。
「ただいま~」
「……おかえり、お父さん」
「ただいまカンナぁ! 学校どうだった? 大丈夫そうか? 変なヤツ居なかったか?」
「先、着替えて……」
部屋着に着替えて、エプロンを着けて、料理を始めたお父さんの手元を覗く。
「今日はカンナの好きなチーズインハンバーグだぞ」
「うん……」
「あ、あれ? 今日ハンバーグの気分じゃなかったか?」
「……ううんっ、嬉しい。ありがとうお父さん」
ぼーっとしてしまっていた。お父さんを見上げて笑顔で返事をしてみたけれど、お父さんには誤魔化しは通じなかった。辛そうに顔を歪めてる。
「カンナ……何かあったんだな? クソ、名門校ならバカは居ないと思ったのに、高い金払った甲斐がないじゃないか。整形貯金に回しとけばよかったか? はぁ……」
「ぉ、お父さん……違う、ぼくいじめられてない」
「…………でも何かあったんだろう? 何かされてからじゃ遅いんだ、カンナが傷付いてからじゃダメなんだよ」
「ちがう……と、とも、だち…………できた、の」
「……!? 本当か! どんな子だ!」
「…………おなかすいた」
「あっ、すぐ作るからな……」
お父さんは料理に意識を戻してくれた。鳴雷くんのこと、お父さんに話したい。上手く話せないぼくの言葉、あんなに待ってくれる人初めて。そのこと話したい。手繋いでくれたことも、抱き締めてくれたことも、キス……されたことも。
ハンバーグが完成した。お皿を机に運んで、お父さんと向かい合って、手を合わせた。
「いただきます」
早速ハンバーグに切れ目を入れる。トロっとチーズが溢れてくる。
「ん~……!」
「美味しいか? カンナ」
「うん!」
「よし、じゃあお友達の話してくれ」
「うん。かっこいい。まつ毛くりんで、腕ばきばきで、ぼく話すの待ってくれる」
「相変わらずお前の説明は要領を得ないなぁ……鍛えてる子なのかな? で、カッコイイと。流石十二薔薇、レベルの高いイケメンが居るんだなぁ……でも大事なのは内面だからな、どんな子だ?」
「手、繋いでくれた。かべどんも。ぎゅってしてくれた」
「待て待て待て待て……と、友達だよな? 入学早々彼氏作ってきたとかお父さん卒倒しちゃうぞ? そりゃ確かにお前らは昔からイケメンに目がなくてお父さん心配だったけどまさかそんな」
「キス、も」
「うあぁあああーっ!? 俺の息子によくも殺してやる! 殺してやるぞ!」
「……!? やめて! なんで……お父さん。ぼくの友達なのに」
「キスしてくるような友達が居るかぁ! はぁ、はぁ……キスの件について詳しく」
落ち着いたみたい。お父さんたまにすごく取り乱す。ちょっと面白いけど、困る。
「電車、降りて……さよならの時、ぼくの手に、キスしたの」
「…………手?」
「うん。右手。手の甲」
フォークを持っている手を少し上げて、手の甲を見せる。鳴雷くんは口紅なんてつけていないから、何の跡もついていないけれど。
「外国育ちなのかなぁ」
「……そうなんじゃないか? 十二薔薇なら帰国子女くらい山ほど居るだろ……はぁ、びっくりした…………そうかなるほど帰国子女ね、なら手繋いだり何だり距離の近さにも納得いくぞ、よしよし」
「…………誰にでも、するのかな?」
「まぁ仲良くなったとはいえ会ったばっかりのカンナにするなら、誰にでもしそうだな」
「……なんか、やだ」
「カンナ……ま、まさかカンナ、そいつのこと……好き、なのか?」
「好き……?」
鳴雷くんの顔を思い浮かべてみる。先生の話聞いてる時の、退屈そうな横顔……ぼくを見つめる時の、優しい眼差し……ダメだ、顔熱くなってきた。頭もぼーっとしてきた。
「……! 一気に赤くなったな、よく分かったよ。好きなんだな、そいつが」
「…………」
「お父さんはな、カンナがあんまり誰かと仲良くするのは反対だ。傷跡がバレるリスクが高まるからな」
「うん……」
「カンナ……気を付けるんだぞ」
「……うん」
傷跡がバレて避けられたり虐められたりするのは嫌だ。でも、それを恐れて鳴雷くんから離れるのは、もっと嫌だ。お父さんには心配も迷惑もかけたくないけど、お父さんの言うこと全部聞いていたくもない。もちろん傷跡を見られないように気を付けはするけれど、鳴雷くんへの恋は諦めない。いつか絶対必ず振り向いてもらうんだ。
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