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使用人体験
てんらんかい、ろく
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電車を乗り継いで展覧会が行われる街までやってきた。見覚えがある気がするのはデジャブだろうか? 単にチェーン店が立ち並んでいるからだろうか。
「ホテルの予約ってされてます? してないならチェックインしてからお昼にしましょう」
正午過ぎ、そろそろ腹が減る頃だ。祖父のブラックカードがあるから食事や寝床にありつけないなんてことにはならない。
「誰が寝たかも分からないベッドで寝ろと? ホテルなんて絶対に泊まらん」
「ちゃんと洗濯してますよ……じゃあどうするんです?」
「娘の家に泊まる。ほら、地図」
祖父は地図アプリを開いたまま俺にスマホを渡した。民家にピンを刺してある。道案内に従って歩くと見覚えのある家に着いた。表札には「螺樹木」とある。
「……俺ここ泊まるの嫌です」
「奇遇だな、俺も嫌だ」
「きっと嫌な理由も同じなんでしょうね」
ため息をつきながらインターホンを押す。扉は開かず、ムカつく声で返事があった。
『犬なんとかくん? 帰ってよ、君の顔は見たくない』
「俺も二度と見たくなかったよクソ野郎」
雪風と似た……いや、同じ声の男。ヤツは雪風の兄、つまり俺の義理の叔父だ。雪風を虐待していた遠い過去、俺という恋人が出来て気に食わないという理由だけで雪風にちょっかいを出した近い過去、雪風と顔と声がほぼ同じという今現在そして未来に渡っても腹が立つ要素だけで構成されている男だ。
『じゃあ帰って……ぁ、待って電話。涼斗さん……何ですか? え? 一泊? はい、来てます……はい、おもてなしします……』
インターホンからの声が止み、玄関扉が不機嫌に開く。
「……入って。可愛い甥っ子に、敬愛するお父様」
引き攣った笑顔を浮かべる銀髪碧眼の美青年、やはり若々しいが彼は雪風より歳上だ。何故か右目に眼帯を着けている。
「死ね」
「死ね」
「せっかく人がにこやかに迎えてやったのに!」
気が合う祖父と手のひらを合わせ、叔父を無視して家に上がる。一応「お邪魔します」は言ったし靴も揃えた。
「邪魔するなら帰れ!」
「はいよー……なんて言うと思ったかクソが!」
「微妙なノリツッコミめちゃくちゃムカつく!」
祖父をソファに座らせ、テレビのリモコンを渡す。念の為ブランケットも傍に置いておく。
「おい、客に茶くらい出せよクソ」
「俺、雪凪って言うんだけど知ってる?」
「顔と声と字面が雪風に似ててムカつく死ねよ」
「おい雪也、こんな奴が入れた茶なんて嫌だ。封された物買ってこい。こいつと一緒に居るの嫌だから連れて行け」
「かしこまりましたおじい様。おいクソ行くぞ」
叔父の襟首を掴んで外へ出た。封がされた飲み物、つまりペットボトル飲料だ。ペットボトルが清潔かどうかはどうでもいい、祖父がどう感じるかが重要なのだ。
「ペットボトル売ってるとこある?」
「……そこの業務用スーパーが一番安くて近い」
「体冷やすと悪いし、温度的にもいいな」
叔父に案内されて業務用スーパーへ行く道程、通行人の──特に女性の声がよく聞こえた。
「凪サマー!」
「こっち向いてー!」
「……ふふ」
髪型がかなり違うから印象は全く違うのだが、顔の造形は雪風に瓜二つ。持て囃されるのは当然だが、手を振るところ叔父の鬱陶しさがよく出ている。アイドル気取りめ。
「涼斗さんに言いつけますよ」
「モテない男の僻みは醜いよ?」
僻みじゃない。言動全てが嫌いなだけだ。
「凪サマ横の人誰~? カッコイイー!」
「フェロモンやばーい、こっち向いてー!」
「は……? こ、こいつはマザコンかつロリコンで誘拐や強姦もやらかしててっ……!」
「誰が源氏の君だ!」
「教養あるツッコミするな森育ちな見た目で!」
俺も案外と女性ウケする見た目なんだな、学生時代は何かと避けられていた覚えがあるのだが。アルビノではない彼女達には何の興味もないが、結果的に叔父への嫌がらせにはなったから謝礼代わりに俺も手を振ろうかな。
「えっ目怖っ……!」
「眼力やばーい……」
視線をやっただけで怯えられてしまった。
「……んふふふっ」
「…………俺そんな目怖い?」
興味がない対象とはいえ見ただけで怯えさせてしまってはヘコむし、申し訳ない。
「モルモットまでなら視線で殺せると思うよ」
「お前モルモットの鈍感さ舐めるなよ」
「だ、か、ら、こ、そ……だからこそ」
「何年前の流行語大賞だよもう誰も分かんねぇよ」
「君には伝わってるじゃん」
微妙に話しやすいのがめちゃくちゃ嫌だ。他の若神子一族が世間離れしているせいだろうか、叔父との会話を楽しく思ってしまう。
「クソっ……! 自分が許せない、死ねばいいのに……でもその前にお前は殺す」
「君と心中とかループ脱出条件でも嫌」
「度合いが分かる自分が嫌! 何お前……割とテレビ見るの、アニメとかも見てるの」
「知ってる? 働いてなくてセックス相手が仕事してるとめちゃくちゃ暇なんだよ」
雪兎が留学後、暇を持て余していた自分と重ねて嫌になる。自己嫌悪が高まり過ぎだ、危険な域だ、そうだ雪兎の写真を見よう。
「あ、天使……メンタル全回復」
「俺がスリップダメージ与えてるみたいな言い方やめてくれる?」
自分の機嫌の取り方が分かった今、俺は無敵だ。
「ホテルの予約ってされてます? してないならチェックインしてからお昼にしましょう」
正午過ぎ、そろそろ腹が減る頃だ。祖父のブラックカードがあるから食事や寝床にありつけないなんてことにはならない。
「誰が寝たかも分からないベッドで寝ろと? ホテルなんて絶対に泊まらん」
「ちゃんと洗濯してますよ……じゃあどうするんです?」
「娘の家に泊まる。ほら、地図」
祖父は地図アプリを開いたまま俺にスマホを渡した。民家にピンを刺してある。道案内に従って歩くと見覚えのある家に着いた。表札には「螺樹木」とある。
「……俺ここ泊まるの嫌です」
「奇遇だな、俺も嫌だ」
「きっと嫌な理由も同じなんでしょうね」
ため息をつきながらインターホンを押す。扉は開かず、ムカつく声で返事があった。
『犬なんとかくん? 帰ってよ、君の顔は見たくない』
「俺も二度と見たくなかったよクソ野郎」
雪風と似た……いや、同じ声の男。ヤツは雪風の兄、つまり俺の義理の叔父だ。雪風を虐待していた遠い過去、俺という恋人が出来て気に食わないという理由だけで雪風にちょっかいを出した近い過去、雪風と顔と声がほぼ同じという今現在そして未来に渡っても腹が立つ要素だけで構成されている男だ。
『じゃあ帰って……ぁ、待って電話。涼斗さん……何ですか? え? 一泊? はい、来てます……はい、おもてなしします……』
インターホンからの声が止み、玄関扉が不機嫌に開く。
「……入って。可愛い甥っ子に、敬愛するお父様」
引き攣った笑顔を浮かべる銀髪碧眼の美青年、やはり若々しいが彼は雪風より歳上だ。何故か右目に眼帯を着けている。
「死ね」
「死ね」
「せっかく人がにこやかに迎えてやったのに!」
気が合う祖父と手のひらを合わせ、叔父を無視して家に上がる。一応「お邪魔します」は言ったし靴も揃えた。
「邪魔するなら帰れ!」
「はいよー……なんて言うと思ったかクソが!」
「微妙なノリツッコミめちゃくちゃムカつく!」
祖父をソファに座らせ、テレビのリモコンを渡す。念の為ブランケットも傍に置いておく。
「おい、客に茶くらい出せよクソ」
「俺、雪凪って言うんだけど知ってる?」
「顔と声と字面が雪風に似ててムカつく死ねよ」
「おい雪也、こんな奴が入れた茶なんて嫌だ。封された物買ってこい。こいつと一緒に居るの嫌だから連れて行け」
「かしこまりましたおじい様。おいクソ行くぞ」
叔父の襟首を掴んで外へ出た。封がされた飲み物、つまりペットボトル飲料だ。ペットボトルが清潔かどうかはどうでもいい、祖父がどう感じるかが重要なのだ。
「ペットボトル売ってるとこある?」
「……そこの業務用スーパーが一番安くて近い」
「体冷やすと悪いし、温度的にもいいな」
叔父に案内されて業務用スーパーへ行く道程、通行人の──特に女性の声がよく聞こえた。
「凪サマー!」
「こっち向いてー!」
「……ふふ」
髪型がかなり違うから印象は全く違うのだが、顔の造形は雪風に瓜二つ。持て囃されるのは当然だが、手を振るところ叔父の鬱陶しさがよく出ている。アイドル気取りめ。
「涼斗さんに言いつけますよ」
「モテない男の僻みは醜いよ?」
僻みじゃない。言動全てが嫌いなだけだ。
「凪サマ横の人誰~? カッコイイー!」
「フェロモンやばーい、こっち向いてー!」
「は……? こ、こいつはマザコンかつロリコンで誘拐や強姦もやらかしててっ……!」
「誰が源氏の君だ!」
「教養あるツッコミするな森育ちな見た目で!」
俺も案外と女性ウケする見た目なんだな、学生時代は何かと避けられていた覚えがあるのだが。アルビノではない彼女達には何の興味もないが、結果的に叔父への嫌がらせにはなったから謝礼代わりに俺も手を振ろうかな。
「えっ目怖っ……!」
「眼力やばーい……」
視線をやっただけで怯えられてしまった。
「……んふふふっ」
「…………俺そんな目怖い?」
興味がない対象とはいえ見ただけで怯えさせてしまってはヘコむし、申し訳ない。
「モルモットまでなら視線で殺せると思うよ」
「お前モルモットの鈍感さ舐めるなよ」
「だ、か、ら、こ、そ……だからこそ」
「何年前の流行語大賞だよもう誰も分かんねぇよ」
「君には伝わってるじゃん」
微妙に話しやすいのがめちゃくちゃ嫌だ。他の若神子一族が世間離れしているせいだろうか、叔父との会話を楽しく思ってしまう。
「クソっ……! 自分が許せない、死ねばいいのに……でもその前にお前は殺す」
「君と心中とかループ脱出条件でも嫌」
「度合いが分かる自分が嫌! 何お前……割とテレビ見るの、アニメとかも見てるの」
「知ってる? 働いてなくてセックス相手が仕事してるとめちゃくちゃ暇なんだよ」
雪兎が留学後、暇を持て余していた自分と重ねて嫌になる。自己嫌悪が高まり過ぎだ、危険な域だ、そうだ雪兎の写真を見よう。
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自分の機嫌の取り方が分かった今、俺は無敵だ。
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漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
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