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雪の降らない日々
まひろ、に
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雪風の兄であり俺の義理の叔父、雪凪。銀髪に赤と青のオッドアイという派手な見た目の彼の思わぬ苦労を聞いてしまった。
「無機物は透けて見えちゃうんだけど、涼斗さんが仕掛けたカメラとかは人間の感情の籠った無機物だから見えるよ」
「へー……職人の手作りみたいなヤツは?」
「そういうのじゃなくて、もっと呪いのアイテムじみたヤツだよ、長年大切にしてた鏡とか櫛とか、ぬいぐるみとか。涼斗さんは陰湿な女が何年もかけて蓄積させる感情を一瞬でカメラとか盗聴器に乗せるからすごいんだよねぇ」
全くムカつかないノロケというのも珍しい。
「やっぱ怖いな、あの人」
「君のが怖いよ」
「……はぁ?」
「君、すぐキレるからさ、色がよく見えると思ってたんだけど……普段は透明人間なんだよね、感情全く見えないの。何かを起因にして一瞬色付く……外界からの刺激がないと君は居ないのと同じなんだよ」
叔父は眼帯をズラして赤い瞳で俺を見つめた。
「まだ心を閉ざしてるんだろ、たまに開いて色を漏らして…………いや、違うね、開いたところで心の機能は壊れている。でもちゃんと稼働することもあるから、たまに色が見えるんだ」
何も言えずにいると雪風と同じ形の美しい手が頬を撫でた。
「暗闇が苦手みたいだし、よっぽど深いトラウマがあるんだろう。心の傷どころじゃない、ぽっかりとした虚だ。可哀想にね」
「……っ、触んな」
手を払うと彼はその手で眼帯を元に戻した。赤い瞳が隠れると俺の心のざわつきも治まる。
「俺の能力とか、そんなことはどうでもいい。君に見せたいものがあるんだよ」
「何だ?」
「これ、ここからの写真」
今までは雪風や叔父ばかりが写っていたのに、あるページから女が混じるようになった。雪風の近くに居ることの多い彼女はほとんどの写真で眉間に皺を寄せており、また服にも女性らしさがなく短髪で、なんとなく性格が分かった気がした。
「……この人誰?」
「人形坂 麻紘。見ての通り目付きが悪くて、短気で俺によく殴りかかってた。関西出身で荒っぽい方言が特徴的」
「図鑑説明かよ」
冗談混じりに言いながらも俺は驚いていた、俺と同じ名前をしていたからだ。漢字はどうなのだろう、同じだろうか、違うのだろうか。
「雪兎くんのお母さんだよ。つまり、雪風のお嫁さん。この写真の段階ではまだ彼女かな」
「……は? ぁ、そ、うか。そうか、この人が雪風の……へぇ、なんか、意外だな」
二の腕に筋が浮いているのが分かる写真がある。スカートを履いている写真は一枚もない。胸もあんまりない。写真で分かるほど態度が悪い。
別にそれにケチをつける気はないが、もっと美人で巨乳で大人しくて強かな「女」らしさ全開の、いかにもな富豪の嫁みたいなのを想像していたから驚いた。でもまぁ考えてみれば初対面で雪風を殴ったようなヤツなんだよな、納得だ。
「育ちが悪くて手が早くて足癖が悪くて頭だけはいいクソ女、まひろちゃん。寝取ってやろうとして何度失敗したか……ふふっ、ねぇ、まひろちゃん? 君さぁ」
「やめろ」
「俺が何言うか分かってるみたいな嫌がり方だね。あぁ、感情の色が漏れてる、見えるよ、この色は不安だ。ふふ……まひろちゃん、君は雪風にとって」
「やめろっ!」
叔父の胸ぐらを掴んだが、殴ることすら出来ないで俺は固まっていた。
「…………雪風にとって、嫁の代わりでしかないんじゃないのぉ?」
手の力が緩んで叔父が逃げる、俺から少し離れてゲラゲラと笑う。不愉快なその声から耳を塞ぎ、俺は再びアルバムに視線を落とした。
「無機物は透けて見えちゃうんだけど、涼斗さんが仕掛けたカメラとかは人間の感情の籠った無機物だから見えるよ」
「へー……職人の手作りみたいなヤツは?」
「そういうのじゃなくて、もっと呪いのアイテムじみたヤツだよ、長年大切にしてた鏡とか櫛とか、ぬいぐるみとか。涼斗さんは陰湿な女が何年もかけて蓄積させる感情を一瞬でカメラとか盗聴器に乗せるからすごいんだよねぇ」
全くムカつかないノロケというのも珍しい。
「やっぱ怖いな、あの人」
「君のが怖いよ」
「……はぁ?」
「君、すぐキレるからさ、色がよく見えると思ってたんだけど……普段は透明人間なんだよね、感情全く見えないの。何かを起因にして一瞬色付く……外界からの刺激がないと君は居ないのと同じなんだよ」
叔父は眼帯をズラして赤い瞳で俺を見つめた。
「まだ心を閉ざしてるんだろ、たまに開いて色を漏らして…………いや、違うね、開いたところで心の機能は壊れている。でもちゃんと稼働することもあるから、たまに色が見えるんだ」
何も言えずにいると雪風と同じ形の美しい手が頬を撫でた。
「暗闇が苦手みたいだし、よっぽど深いトラウマがあるんだろう。心の傷どころじゃない、ぽっかりとした虚だ。可哀想にね」
「……っ、触んな」
手を払うと彼はその手で眼帯を元に戻した。赤い瞳が隠れると俺の心のざわつきも治まる。
「俺の能力とか、そんなことはどうでもいい。君に見せたいものがあるんだよ」
「何だ?」
「これ、ここからの写真」
今までは雪風や叔父ばかりが写っていたのに、あるページから女が混じるようになった。雪風の近くに居ることの多い彼女はほとんどの写真で眉間に皺を寄せており、また服にも女性らしさがなく短髪で、なんとなく性格が分かった気がした。
「……この人誰?」
「人形坂 麻紘。見ての通り目付きが悪くて、短気で俺によく殴りかかってた。関西出身で荒っぽい方言が特徴的」
「図鑑説明かよ」
冗談混じりに言いながらも俺は驚いていた、俺と同じ名前をしていたからだ。漢字はどうなのだろう、同じだろうか、違うのだろうか。
「雪兎くんのお母さんだよ。つまり、雪風のお嫁さん。この写真の段階ではまだ彼女かな」
「……は? ぁ、そ、うか。そうか、この人が雪風の……へぇ、なんか、意外だな」
二の腕に筋が浮いているのが分かる写真がある。スカートを履いている写真は一枚もない。胸もあんまりない。写真で分かるほど態度が悪い。
別にそれにケチをつける気はないが、もっと美人で巨乳で大人しくて強かな「女」らしさ全開の、いかにもな富豪の嫁みたいなのを想像していたから驚いた。でもまぁ考えてみれば初対面で雪風を殴ったようなヤツなんだよな、納得だ。
「育ちが悪くて手が早くて足癖が悪くて頭だけはいいクソ女、まひろちゃん。寝取ってやろうとして何度失敗したか……ふふっ、ねぇ、まひろちゃん? 君さぁ」
「やめろ」
「俺が何言うか分かってるみたいな嫌がり方だね。あぁ、感情の色が漏れてる、見えるよ、この色は不安だ。ふふ……まひろちゃん、君は雪風にとって」
「やめろっ!」
叔父の胸ぐらを掴んだが、殴ることすら出来ないで俺は固まっていた。
「…………雪風にとって、嫁の代わりでしかないんじゃないのぉ?」
手の力が緩んで叔父が逃げる、俺から少し離れてゲラゲラと笑う。不愉快なその声から耳を塞ぎ、俺は再びアルバムに視線を落とした。
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