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お盆
おかえりなさい、じゅうはち
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フードコートで騒ぎが起こったので従弟を抱き上げ、走って離れることにした。一階のフードコートから四階までの全力疾走はなかなか堪える。
「はぁー……疲れた」
「……にいちゃん、すごかった」
「ん? あぁ、四階程度の階段ダッシュなら國行抱えてても余裕だぞ」
「……そっちじゃなくて」
フードコートで中学生を殴ったことを言っているようだ。
「…………にいちゃん、昔から喧嘩強かった」
「おぅ、コツ教えてやろうか?」
少し躊躇いつつも頷いた従弟の頭を撫で、使用人がまだ追いついていないのをいいことに喧嘩講座を開く。
「まず、躊躇と遠慮を捨てること。威嚇は一瞬でいい、すぐ殴れ、必ず先手を打つんだ。不意打ちでもいい。殴る時は全力、様子見パンチはダメだぞ。大怪我させるかなーとか思うな、殺す気でやれ。人間って意外と死なないから。お兄ちゃんもまだ一人も殺してないぞ」
「………………うん」
「國行は喧嘩しちゃダメだぞ? まだちっちゃいし弱いからな、お兄ちゃんが守ってやるからすぐ告げ口するんだぞ。お兄ちゃんに言いつけるぞってどんどん言ってけ、カッコ悪くないからな。俺はお兄ちゃんなんだから、お兄ちゃんの力はお前の力だぞ?」
「…………う、ん……? 分かった」
聞き分けのいい子で助かる。子供によくある「なんで?」「どうして?」攻撃を従弟は一切してこない、楽な子だ。
「ポチさん! はぁっ、はぁっ……急に走らないで欲しいんすけど!」
「お疲れ様でーす、駐車場までもっぺん走りますよ」
「はぁ!?」
「早く店から逃げないとまずいっしょ。蜂のように刺してゴキブリのように逃げる……が喧嘩の鉄則ですからね、そうやって俺は前科一犯で済んでるんですよ」
使用人は口をあんぐりと開けている。俺は構わず従弟にしっかりしがみつくよう言いつけ、走った。
「あぁもうっ……! もうちょいまともな人だと思ってたんすけどね! まぁ訓練で五連ヘッドバットかましてた時点で怪しいとは思ってたっすよ!」
大声を出しながらでも容易に着いてくるところ、使用人の身体能力が伺える。
「國行、知ってるか? 階段は真ん中下りるのが一番速いんだぞ」
俺は従弟をしっかりと左腕で抱え、手すりに右手をついて飛び越え、階段の中腹から中腹へと移った。それを繰り返し、最速で一階を目指す。
「ほら、もう着いたぞ國行。國行……?」
一階に到着、後は駐車場に急ぐばかり。その前に従弟から褒め言葉でももらおうと顔を見下げてみれば、彼は目を潤ませていた。
「……こ、わ……かった」
「え……ご、ごめんごめん。そんな怖がるとは……面白くなかったか?」
従弟はぶんぶんと激しく首を横に振り、俺の胸に顔を押し付けて本格的に泣き始めた。
「ふざけた下り方しないで欲しいっすポチさん! 下に人が居たらとか考えないんすか!?」
「二度としません……」
「えっ、ぁ……反省してるならいいんすよ」
使用人は落ち込んだ俺に遠慮して引き下がり、俺達は足早に車へ向かった。どこか高級感のあるデパートの紙袋と、俺とで従弟を挟む形で後部座席に座る。
「國行、ごめんな? そんな怖がるとは思ってなくてさ」
「…………うん」
「國行……お兄ちゃんな、今日帰んなきゃならないんだ」
「……っ! やだ……」
「ごめんな……また来るよ、いつになるか分からないけど」
「…………やだ」
従弟は俺の腕に抱きついて顔を隠してから、一言も話さなくなった。何度も話しかけたが返事すらしない。完全に拗ねさせてしまったなと俺も落ち込み、黙って頭を撫でる。
やがて寝息が聞こえてきた。ふて寝とは何とも子供らしい。工場が──彼の家が見えてきた頃なのに。このタイミングの悪さすら愛おしい。
「國行届けたらすぐ戻りますんで」
「うぃっす」
眠った従弟は起きていた彼よりも重く感じる。何故だか嬉しくて笑ってしまう。
「よっ……と」
従弟を抱えたまま布団を敷くのは難しいので、一旦ダイニングのソファに寝かせた。彼の私室に紙袋を置き、布団を敷き、改めて彼を運んだ。
「おやすみ、國行」
短い黒髪を撫でて部屋を出る。私室から顔を覗かせていた叔父を睨み付ける。
「じゃ、俺の國行を頼みますよ? お、じ、さんっ」
返事が舌打ちだったので勢いよく扉を閉めて押さえ付け、顔を挟んでやった。
「次来た時、國行が怪我してたり落ち込んでたりしたら……」
「わ、分かった分かった分かった!」
「お前が絶対見つけられない場所にカメラとマイク仕掛けといたからな」
「はぁっ……!? クソっ、分かったよ、國行にはもう何もしねぇ!」
カメラもマイクも嘘だが、若神子グループの財力と権力は素晴らしい。叔父は簡単に信用した。
「じゃ、さよなら叔父さん」
従弟とまた別れるのは寂しいが、邸宅に戻れば雪兎が居る。雪風もそろそろ休暇に入る。二人のことを考え始めると先程までの寂しさはどこへやら、俺は車までスキップをした。
「はぁー……疲れた」
「……にいちゃん、すごかった」
「ん? あぁ、四階程度の階段ダッシュなら國行抱えてても余裕だぞ」
「……そっちじゃなくて」
フードコートで中学生を殴ったことを言っているようだ。
「…………にいちゃん、昔から喧嘩強かった」
「おぅ、コツ教えてやろうか?」
少し躊躇いつつも頷いた従弟の頭を撫で、使用人がまだ追いついていないのをいいことに喧嘩講座を開く。
「まず、躊躇と遠慮を捨てること。威嚇は一瞬でいい、すぐ殴れ、必ず先手を打つんだ。不意打ちでもいい。殴る時は全力、様子見パンチはダメだぞ。大怪我させるかなーとか思うな、殺す気でやれ。人間って意外と死なないから。お兄ちゃんもまだ一人も殺してないぞ」
「………………うん」
「國行は喧嘩しちゃダメだぞ? まだちっちゃいし弱いからな、お兄ちゃんが守ってやるからすぐ告げ口するんだぞ。お兄ちゃんに言いつけるぞってどんどん言ってけ、カッコ悪くないからな。俺はお兄ちゃんなんだから、お兄ちゃんの力はお前の力だぞ?」
「…………う、ん……? 分かった」
聞き分けのいい子で助かる。子供によくある「なんで?」「どうして?」攻撃を従弟は一切してこない、楽な子だ。
「ポチさん! はぁっ、はぁっ……急に走らないで欲しいんすけど!」
「お疲れ様でーす、駐車場までもっぺん走りますよ」
「はぁ!?」
「早く店から逃げないとまずいっしょ。蜂のように刺してゴキブリのように逃げる……が喧嘩の鉄則ですからね、そうやって俺は前科一犯で済んでるんですよ」
使用人は口をあんぐりと開けている。俺は構わず従弟にしっかりしがみつくよう言いつけ、走った。
「あぁもうっ……! もうちょいまともな人だと思ってたんすけどね! まぁ訓練で五連ヘッドバットかましてた時点で怪しいとは思ってたっすよ!」
大声を出しながらでも容易に着いてくるところ、使用人の身体能力が伺える。
「國行、知ってるか? 階段は真ん中下りるのが一番速いんだぞ」
俺は従弟をしっかりと左腕で抱え、手すりに右手をついて飛び越え、階段の中腹から中腹へと移った。それを繰り返し、最速で一階を目指す。
「ほら、もう着いたぞ國行。國行……?」
一階に到着、後は駐車場に急ぐばかり。その前に従弟から褒め言葉でももらおうと顔を見下げてみれば、彼は目を潤ませていた。
「……こ、わ……かった」
「え……ご、ごめんごめん。そんな怖がるとは……面白くなかったか?」
従弟はぶんぶんと激しく首を横に振り、俺の胸に顔を押し付けて本格的に泣き始めた。
「ふざけた下り方しないで欲しいっすポチさん! 下に人が居たらとか考えないんすか!?」
「二度としません……」
「えっ、ぁ……反省してるならいいんすよ」
使用人は落ち込んだ俺に遠慮して引き下がり、俺達は足早に車へ向かった。どこか高級感のあるデパートの紙袋と、俺とで従弟を挟む形で後部座席に座る。
「國行、ごめんな? そんな怖がるとは思ってなくてさ」
「…………うん」
「國行……お兄ちゃんな、今日帰んなきゃならないんだ」
「……っ! やだ……」
「ごめんな……また来るよ、いつになるか分からないけど」
「…………やだ」
従弟は俺の腕に抱きついて顔を隠してから、一言も話さなくなった。何度も話しかけたが返事すらしない。完全に拗ねさせてしまったなと俺も落ち込み、黙って頭を撫でる。
やがて寝息が聞こえてきた。ふて寝とは何とも子供らしい。工場が──彼の家が見えてきた頃なのに。このタイミングの悪さすら愛おしい。
「國行届けたらすぐ戻りますんで」
「うぃっす」
眠った従弟は起きていた彼よりも重く感じる。何故だか嬉しくて笑ってしまう。
「よっ……と」
従弟を抱えたまま布団を敷くのは難しいので、一旦ダイニングのソファに寝かせた。彼の私室に紙袋を置き、布団を敷き、改めて彼を運んだ。
「おやすみ、國行」
短い黒髪を撫でて部屋を出る。私室から顔を覗かせていた叔父を睨み付ける。
「じゃ、俺の國行を頼みますよ? お、じ、さんっ」
返事が舌打ちだったので勢いよく扉を閉めて押さえ付け、顔を挟んでやった。
「次来た時、國行が怪我してたり落ち込んでたりしたら……」
「わ、分かった分かった分かった!」
「お前が絶対見つけられない場所にカメラとマイク仕掛けといたからな」
「はぁっ……!? クソっ、分かったよ、國行にはもう何もしねぇ!」
カメラもマイクも嘘だが、若神子グループの財力と権力は素晴らしい。叔父は簡単に信用した。
「じゃ、さよなら叔父さん」
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