ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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お盆

せんじょう、いち

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行きはよいよい帰りは怖い……とある童謡の歌詞を思い出す。
行きの獣道で体力を削られ、滝行で体温と体力を削られ、ついでに幽霊らしきものに足を引っ張られるという恐怖を与えられ、そして帰りの獣道──疲れた。シンプルに足が痛い、息が上がっている。

「雪也くん、大丈夫?」

舗装された道路まで戻ってこられた。待機していた黒い高級車からしよう人が降りてくる。

「すいません、なんか……すごく疲れて。このくらい大丈夫なはずなんですけど」

「神域だからね、仕方ないよ。にしても……あんなに怪異出ないなら秋夜くん連れて行ってもよかったかなぁ、退屈だったよ」

「はは……」

曽祖父に乾いた笑いを返し、使用人からバスタオルと着替えを受け取る。濡れた髪と身体を拭いてまた使用人の制服を着る。

「この服もちょっと小さい……ユキ様? 大丈夫ですか?」

相変わらずスラックスはぴっちりと肌に張り付き、シャツは胸元のボタンが留められなかった。着替えを終えてバスタオルを頭に被せ、雪兎の方を振り向くと彼は目を右手で目を押さえていた。

「ん、大丈夫……目が、ちょっと疲れて」

「目?」

「雪兎くんが怪異追い払ってたんだもんね、そりゃ疲れたよねぇ、いっぱい居るもんここ。なのに全然会わなかった、気配すらなかったもん。索敵も頑張ったんだね、すごいすごい」

雪兎が怪異を追い払うのは俺のためだ、雪兎の想いは嬉しいが俺のために雪兎が疲れるのは忍びない。

「……ありがとうございました、ユキ様」

「僕からもありがとうだよ雪兎くん。僕道具使っても怪異討伐系の仕事出来なかったもん。交渉は得意だけどこの辺のは言葉通じないのが多いからなぁ……近寄られたら全滅だったかも、なんてね。ふふっ、早く帰ろう」

車に乗り込むと雪兎は俺に目隠しを渡し、自分は蒸気で目を癒すアイマスクを着けた。暗闇の中感じる車の振動はとても恐ろしく、嫌な思い出が蘇ってきたけれど、雪兎と手を繋いでいたおかげでどうにか正気を保っていられた。

「着いたよ、雪兎くん雪也くん」

車が止まり、曽祖父の声と開いたドアから吹き込む外気に到着を知らされる。すぐに目隠しの布を外して外に出る、圧倒的な解放感を浴びて無意識に深呼吸をしていた。

「……家だ。はぁー……なんか、もう、一週間くらい出かけてた気がしますよ。ユキ様? あぁ……それ十五分のヤツなんですね、じゃあ俺が運ばせていただきます」

雪兎がアイマスクを着けっぱなしで車から降りてきたので彼を抱き上げる。右腕を椅子にさせ、左手で支え、首に腕を回させ、雪兎の私室に向かう。

「俺のために頑張っていただけて、俺本当に嬉しいです。でもちょっと申し訳なくて……こうしてユキ様を運ぶと少し恩返ししているような気分になりますね、もちろんこれだけじゃ返せないほどの恩なんですけどね」

雪兎は無言だ。

「今日は……いえ、これからもたくさんご奉仕させていただきます」

部屋の扉を開いて雪兎を下ろし、アイマスクを外す。ぱっちりと開いた赤紫の瞳が真っ直ぐに俺を射抜く。

「…………今日は君に上書きしてあげる日だよ」

「そうでしたね」

「ねぇ……それ、僕が君にあげた服じゃないよね? いつまでもそんなの着てないでよ」

雪風はピチピチのスーツ姿を「エロい」と評していたから雪兎も喜んでくれているかと思っていたが、むしろ機嫌を損ねてしまうようだ。

「ええ、すぐに脱ぎます」

赤紫の視線にゾクゾクとした快感を覚えながらボタンを外し、袖から腕を抜く。羞恥心に頬を紅潮させつつベルトを緩め、口元も緩めながらスラックスを脱ぎ捨てた。
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