ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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雪の降らない日々

たんじょーびぱーてぃー、ろく

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ケーキを食べ終えたら次はプレゼントだ。こんなに幸せでいいのだろうかなんて考えてしまう、若神子家に引き取られたこと自体夢なんじゃないかとさえ思えてくる。

「プレゼントは年功序列、僕から渡すよ」

曽祖父はピンク色の包装紙と赤いリボンの乙女っぽいプレゼントボックスを俺の前に置いた。人の頭がちょうど入りそうな大きさのそれを開くと、葉のない木のような黒い置物が現れた。

「んだこれ、オブジェ?」

「耳飾り飾り」

「あぁ、ピアススタンドか」

「首飾りとか指輪も飾れるみたいだよ」

枝にアクセサリーを引っ掛ければ宝石の木の実が成ったように飾れるのだろう。部屋に戻ったら早速國行に贈られたピアスを飾らなければ。

「ありがとうございます、活用させていただきます」

「……次は俺だな。お前の喜びそうな物が分からんかったから使用人に色々と聞いたぞ、全く手間をかけさせてくれる」

祖父には実父の絵画や國行のスマホを買ってもらった恩がある。それをプレゼントとしてくれてもよかったのに、随分と大きな箱を渡してくれた。中身は何だろう、使用人に欲しいものを話した覚えはないぞ。

「開けますね」

包装紙を剥がすと見慣れた社名が目に入った。

「にんてんっ……!? えっ、ぁ、うぉおっ!? マジか、マジですかおじい様!」

「真尋ぉ、それ何?」

「ゲーム機! 最新の! やっば……あぁあやったぁ! こ、これで……気になってたリメイクも続編も何でも出来る!」

「……おい、まだあるぞ。流石に二、三万の安物だけじゃ味気ないからな」

「え、僕のアレ五千円しないんだけど」

祖父は続けて小さなプレゼントを俺に渡した。CDシングルが入っているくらいの大きさと薄さだ。全く想像が付かないのですぐに開けてみた。

「何それ、紙? チケット? カード?」

「それ買うなら……何だったかな、オンライン? の追加パック付き? があるといいとか言っててな。ゲーム機ってのはそれ単体じゃ遊べなくて、えっと……ソフト? ってのを買わなきゃならないらしいんだが、めちゃくちゃ多くてな……雪也が勝手に好きなの買えるようにソフトをオンラインで買える……プリペイドカード? を何枚か」

「わやわやしてるねぇ」

「しょうがないだろゲームのことなんて全く知らねぇんだから!」

「はは、詳しいヤツが居てよかったな」

各ソフトのオンライン対戦はもちろん、過去ハードの名作を遊ぶことも出来るオンライン追加パック。俺が気になっていたソフトを全て買っても有り余るだろう合計額のプリペイドカード達。

「……ありがとう、ございます」

「おぅ、喜んでもらえて……って、おい、泣いてるのか?」

「全部出来る……これで、全部出来るっ」

「…………嬉し泣きだよな? あぁ……ちょっと引いたが、喜んでもらえてよかった。ゲームに熱中してもいいが、訓練と睡眠の時間はちゃんと取れよ」

今すぐにゲームを遊びたかったが、我慢して祖父からのプレゼントを脇に置き、雪風のプレゼントを受け取るための覚悟を決めた。

「よし、雪風、来い!」

「来いって……お前。なんか親父のプレゼントへの反応見たら自信失くしたんだよなぁ……」

「いつもの自信満々なお前を思い出せよ、俺が雪風から物貰って喜ばない訳ないだろ?」

「…………だよな! 俺も親父と同じで使用人に色々相談したし、お前がくれたプレゼントも参考にしたんだ。俺はいつだって完璧だよな!」

その通りだと雪風の自信を膨らませてやると、彼はドヤ顔をキメながらプレゼントを渡してきた。また箱だ、今回は箱が多いなぁ。

「注文した時期的には俺が一番早いと思うぞ」

「何だ?」

「ふっふっふ……驚いて死ぬなよ親父ぃ」

「誰がそんな理由で死ぬか」

包装紙を剥がし、無愛想な箱を開くと発泡スチロール。何なんだと思いつつ発泡スチロールを二つに分けると、その内側にフィギュアが在った。

「七分の一サイズ、俺、ガレージキット完全塗装品! なんか真尋が好きらしい絵描いてる人に俺を言い値で描いてもらい、真尋が好きらしいげんけーし? の人に札束を叩きつけて作ったこの世に一つしかない雪風さんフィギュアだ!」

「……お人形さん?」

「まぁ似たようなもんだな。着せ替えとかは出来ねぇけど。ちなみに型? は取っておいてもらってるから壊してもまた作ってもらえるぜ、安心しろよ真尋ぉ」

「…………御神体」

「はっはははっ! 拝むほどイイか! 親父に勝ったかもな!」

フィギュアとして違和感がない程度にアニメ調のディフォルメはされているが、間違いなく雪風だ。髪や服のシワの繊細さはもちろん、白い肌の下の赤い組織が透けているような彩色も素晴らしい。絵師も原型師も誰だか分かってしまった。

「富豪や……」

豪華な食事よりも華美なアクセサリーよりも分かりやすく、若神子家が大富豪だということを分からされてしまった。
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