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二章 洋菓子作り
八話 偶然の出会い
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「さて、おーぶんを手に入れたことだし、次は菓子作りの材料だな。今度はどこに行けば良い?」
楽しそうな様子の翡翠に、
「次は百貨店かな。スーパーが見つかれば、そっちの方が安いから、いいとは思うんだけど……」
と、答える。
(このあたりにスーパーってあったかな?)
考え込みながらエスカレーターに乗り、一階へと戻る。出口へ向かって歩いていると、理美容のコーナーに見覚えのある後ろ姿を見つけ、美桜はビクッとして立ち止まった。
「このスチーマー欲しいなぁ。化粧水をセットしたらミスト状になって出てくるんだって!」
鼻についた声音で隣に立つ男性に甘えているのは、真莉愛だった。男性は社会人なのか、スーツを着ている。
「私、今、顔に傷あるの。だから、ケアしなきゃ」
「いとこに引っかかれたんだって?」
「そう。サイアク」
真莉愛と男性の話し声が耳に入り、美桜は硬直した。
「しかも、いとこって、その後、家を飛び出して行方不明なんだろ?」
「マジ、迷惑。学校と近所の手前、親が捜索願を出したけど、別にもう帰ってこなくていいし」
「ひどいなぁ。真莉愛ちゃん」
肩をすくめた真莉愛を見て「ひどい」と言いつつも男性は笑っている。
(真莉愛さんに謝らなきゃ。顔に傷をつけてごめんなさいって。家を飛び出して、迷惑をかけてごめんなさいって)
そうは思えども、美桜の体は動かない。
「美桜? どうした?」
急に足を止めた美桜を、翡翠が振り返った。美桜が顔をこわばらせていることに気がつき、表情が変わる。
「何があった?」
「な、なんでもない……」
翡翠に名を呼ばれ、罪悪感でいっぱいになっていた美桜は、我に返った。急いで首を振ったが、翡翠は誤魔化されなかったようだ。
「様子がおかしかった。大丈夫か?」
翡翠が美桜の顔をのぞき込んだ時、真莉愛と男性が歩き出した。男性は手に美容スチーマーの商品カードを持っている。これからレジへ行くのだろう。真莉愛が翡翠に気がつき、青銀色の髪と美貌に、驚いたようにこちらを向いた。その胸に翡翠の鱗でできたネックレスが下げられていて、美桜は息をのんだ。けれど、咄嗟に翡翠の体で身を隠し、俯いて、
(どうか、真莉愛さんが気づきませんように……)
と、内心で祈った。
真莉愛は、翡翠と、隣に立つ穂高をじろじろと見つめた後、
「今の人、モデルかな。めっちゃ綺麗な顔!」
興奮したように隣の男性に話しかけた。男性がやや気分を害したように、
「ああいう奴って、お高くとまっていて、性格悪いと思うよ」
などと言っている。どうやら二人とも、美桜のことは眼中になかったようだ。
(良かった……)
二人が歩き去った後、美桜は、ほっと息を吐いた。そんな美桜を見て、
「美桜、さっきの娘は知り合いだな。美桜が取られたと言っていた、俺の鱗を下げていた。あの娘が、美桜につらく当たっていたいとこ……そうだな?」
翡翠が問いかけてきた。小さく頷いたものの、俯いたまま顔を上げられないでいると、優しく頬を撫でられた。
「そんな顔をするな。自分を虐げていた人物を避けたいと思うのは、当然の反応だ」
(でも、私は真莉愛さんの大切な顔を傷つけた。謝らないといけない。それに、翡翠からもらったネックレスも返してもらわないと……)
真莉愛と翡翠、両方に申し訳なく、美桜は足先を見つめる。
「美桜。顔を上げろ。美桜はどんな表情をしていても愛らしいが、俺は笑顔が一番好きだ。美桜を悩ませる者からは、俺が必ず守ろう」
翡翠が両手で美桜の頬を挟み、ゆっくりと上向かせた。美桜は深い海色の瞳を見つめると、
「ごめんなさい。ごめんなさい……翡翠」
と、謝った。
「何を謝る必要がある。さあ、気分を変えて、買い物の続きをしよう。すぅぱぁとやらに行くのだろう?」
翡翠は美桜の手を取ると、軽く握って、導くように歩き出した。
(私が悪いのだから、泣いちゃダメ)
美桜は浮かびかけた涙を拭うと、少し無理をして笑顔を作り、
「翡翠、ありがとう」
と礼を言った。
楽しそうな様子の翡翠に、
「次は百貨店かな。スーパーが見つかれば、そっちの方が安いから、いいとは思うんだけど……」
と、答える。
(このあたりにスーパーってあったかな?)
考え込みながらエスカレーターに乗り、一階へと戻る。出口へ向かって歩いていると、理美容のコーナーに見覚えのある後ろ姿を見つけ、美桜はビクッとして立ち止まった。
「このスチーマー欲しいなぁ。化粧水をセットしたらミスト状になって出てくるんだって!」
鼻についた声音で隣に立つ男性に甘えているのは、真莉愛だった。男性は社会人なのか、スーツを着ている。
「私、今、顔に傷あるの。だから、ケアしなきゃ」
「いとこに引っかかれたんだって?」
「そう。サイアク」
真莉愛と男性の話し声が耳に入り、美桜は硬直した。
「しかも、いとこって、その後、家を飛び出して行方不明なんだろ?」
「マジ、迷惑。学校と近所の手前、親が捜索願を出したけど、別にもう帰ってこなくていいし」
「ひどいなぁ。真莉愛ちゃん」
肩をすくめた真莉愛を見て「ひどい」と言いつつも男性は笑っている。
(真莉愛さんに謝らなきゃ。顔に傷をつけてごめんなさいって。家を飛び出して、迷惑をかけてごめんなさいって)
そうは思えども、美桜の体は動かない。
「美桜? どうした?」
急に足を止めた美桜を、翡翠が振り返った。美桜が顔をこわばらせていることに気がつき、表情が変わる。
「何があった?」
「な、なんでもない……」
翡翠に名を呼ばれ、罪悪感でいっぱいになっていた美桜は、我に返った。急いで首を振ったが、翡翠は誤魔化されなかったようだ。
「様子がおかしかった。大丈夫か?」
翡翠が美桜の顔をのぞき込んだ時、真莉愛と男性が歩き出した。男性は手に美容スチーマーの商品カードを持っている。これからレジへ行くのだろう。真莉愛が翡翠に気がつき、青銀色の髪と美貌に、驚いたようにこちらを向いた。その胸に翡翠の鱗でできたネックレスが下げられていて、美桜は息をのんだ。けれど、咄嗟に翡翠の体で身を隠し、俯いて、
(どうか、真莉愛さんが気づきませんように……)
と、内心で祈った。
真莉愛は、翡翠と、隣に立つ穂高をじろじろと見つめた後、
「今の人、モデルかな。めっちゃ綺麗な顔!」
興奮したように隣の男性に話しかけた。男性がやや気分を害したように、
「ああいう奴って、お高くとまっていて、性格悪いと思うよ」
などと言っている。どうやら二人とも、美桜のことは眼中になかったようだ。
(良かった……)
二人が歩き去った後、美桜は、ほっと息を吐いた。そんな美桜を見て、
「美桜、さっきの娘は知り合いだな。美桜が取られたと言っていた、俺の鱗を下げていた。あの娘が、美桜につらく当たっていたいとこ……そうだな?」
翡翠が問いかけてきた。小さく頷いたものの、俯いたまま顔を上げられないでいると、優しく頬を撫でられた。
「そんな顔をするな。自分を虐げていた人物を避けたいと思うのは、当然の反応だ」
(でも、私は真莉愛さんの大切な顔を傷つけた。謝らないといけない。それに、翡翠からもらったネックレスも返してもらわないと……)
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翡翠が両手で美桜の頬を挟み、ゆっくりと上向かせた。美桜は深い海色の瞳を見つめると、
「ごめんなさい。ごめんなさい……翡翠」
と、謝った。
「何を謝る必要がある。さあ、気分を変えて、買い物の続きをしよう。すぅぱぁとやらに行くのだろう?」
翡翠は美桜の手を取ると、軽く握って、導くように歩き出した。
(私が悪いのだから、泣いちゃダメ)
美桜は浮かびかけた涙を拭うと、少し無理をして笑顔を作り、
「翡翠、ありがとう」
と礼を言った。
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