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四章 条件
七話 賭け
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芙蓉は部屋の中に入って来ると、隣に座り、美桜に向かって笑いかけた。スズナは「頑張って」と声を出さずに口だけ動かし、襖を閉めて去って行く。
芙蓉が浅葱に向き直る。そして、
「お久しぶりです。浅葱様」
と、畳に手をついて頭を下げた。
「突然の訪問、お許し下さい」
「構わない。あなたは将来、青龍の一族に入る娘だからな」
鷹揚に頷いた浅葱に、芙蓉は少し困ったように微笑むと、
「お母様からの文を預かって参りました」
と言って、折りたたまれた書状を差し出した。
「白蓮から、文?」
首を傾げた浅葱の手に、芙蓉が書状を渡す。浅葱は、ぱらぱらと書状をめくると、さっと目を通し、眉間に皺を寄せた。そして、芙蓉の顔を見つめると、
「あなたまで婚約解消を言い出したのか」
と、厳しい声で問いかけた。
「はい。元々、私と翡翠の間に恋愛感情はありません。私たちは兄妹、親友……そういった間柄です。今回、翡翠が婚約を解消したいと言い出してくれて、私はむしろ良かったと思っています」
芙蓉が淡々と話す。
「お母様にも、その旨、お話しました。お母様は、浅葱様が了承されるのなら、考えると言っております」
「確かにそう書いてある」
美桜はハラハラした気持ちで、浅葱と芙蓉のやり取りを見守った。
しばらくして、浅葱が、
「白蓮と芙蓉までがそう言うのなら……私だけが意固地になるのも滑稽な話だ」
と、溜め息をついた。
「それでは父上」
前のめりになった翡翠を、浅葱は手のひらで制し、
「だが、お前の相手は人間の娘だ。私は人間は嫌いだ」
と、切って捨てるように言った。面と向かって嫌いと言われ、美桜の胸がズキンと痛む。
「美桜は他の人間とは違います。俺に必要な女性です」
翡翠がきっぱりと言い切る。そして、
「では、父上。一つ、賭けを致しましょう」
と、ふっと口角を上げた。
「賭け?」
「はい。――一週間後、この屋敷で、東西南北の統治者が集まる会合があるそうですね。その際に、茶会を開くことになっていると、先程、母上から聞きました。その席に出す菓子を、美桜に作らせてみてはどうですか?」
「えっ?」
翡翠の唐突な提案に、美桜は驚いた。
「美桜の菓子が、統治者たちを唸らせたら、俺たちの勝ちです。結婚を認めてもらいます」
「では、その菓子がまずいと判断されれば、結婚を諦めるということだな」
浅葱が人の悪い笑みを浮かべる。
美桜は困惑した。茶会の菓子と言えば、和菓子だ。美桜が作るものは洋菓子。抹茶には合わないのではないだろうか。
困っている美桜の手を、翡翠がぎゅっと握った。「美桜なら大丈夫だ」と、美桜にだけ聞こえるように囁く。
「茶会は一週間後だ。皆を満足させる菓子を持ってこい。そうしたら、認めてやろう。私に恥をかかせるなよ」
ここで首を横に振る選択肢は、美桜にはなかった。
美桜は心を決めると、
「分かりました。お父様と龍神の皆様のお口に合うお菓子を作ってみせます」
と、胸に手を当て、宣言をした。
芙蓉が浅葱に向き直る。そして、
「お久しぶりです。浅葱様」
と、畳に手をついて頭を下げた。
「突然の訪問、お許し下さい」
「構わない。あなたは将来、青龍の一族に入る娘だからな」
鷹揚に頷いた浅葱に、芙蓉は少し困ったように微笑むと、
「お母様からの文を預かって参りました」
と言って、折りたたまれた書状を差し出した。
「白蓮から、文?」
首を傾げた浅葱の手に、芙蓉が書状を渡す。浅葱は、ぱらぱらと書状をめくると、さっと目を通し、眉間に皺を寄せた。そして、芙蓉の顔を見つめると、
「あなたまで婚約解消を言い出したのか」
と、厳しい声で問いかけた。
「はい。元々、私と翡翠の間に恋愛感情はありません。私たちは兄妹、親友……そういった間柄です。今回、翡翠が婚約を解消したいと言い出してくれて、私はむしろ良かったと思っています」
芙蓉が淡々と話す。
「お母様にも、その旨、お話しました。お母様は、浅葱様が了承されるのなら、考えると言っております」
「確かにそう書いてある」
美桜はハラハラした気持ちで、浅葱と芙蓉のやり取りを見守った。
しばらくして、浅葱が、
「白蓮と芙蓉までがそう言うのなら……私だけが意固地になるのも滑稽な話だ」
と、溜め息をついた。
「それでは父上」
前のめりになった翡翠を、浅葱は手のひらで制し、
「だが、お前の相手は人間の娘だ。私は人間は嫌いだ」
と、切って捨てるように言った。面と向かって嫌いと言われ、美桜の胸がズキンと痛む。
「美桜は他の人間とは違います。俺に必要な女性です」
翡翠がきっぱりと言い切る。そして、
「では、父上。一つ、賭けを致しましょう」
と、ふっと口角を上げた。
「賭け?」
「はい。――一週間後、この屋敷で、東西南北の統治者が集まる会合があるそうですね。その際に、茶会を開くことになっていると、先程、母上から聞きました。その席に出す菓子を、美桜に作らせてみてはどうですか?」
「えっ?」
翡翠の唐突な提案に、美桜は驚いた。
「美桜の菓子が、統治者たちを唸らせたら、俺たちの勝ちです。結婚を認めてもらいます」
「では、その菓子がまずいと判断されれば、結婚を諦めるということだな」
浅葱が人の悪い笑みを浮かべる。
美桜は困惑した。茶会の菓子と言えば、和菓子だ。美桜が作るものは洋菓子。抹茶には合わないのではないだろうか。
困っている美桜の手を、翡翠がぎゅっと握った。「美桜なら大丈夫だ」と、美桜にだけ聞こえるように囁く。
「茶会は一週間後だ。皆を満足させる菓子を持ってこい。そうしたら、認めてやろう。私に恥をかかせるなよ」
ここで首を横に振る選択肢は、美桜にはなかった。
美桜は心を決めると、
「分かりました。お父様と龍神の皆様のお口に合うお菓子を作ってみせます」
と、胸に手を当て、宣言をした。
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