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誤解
やがて、飽きもせずアルバートがシャーロットの所に通い詰めて三か月。当初に決めた通りの結婚の日が来た。
一度目の結婚は、ささやかなものだった。
式はしたけれど、準備の時間もほぼなく、出席者も極わずか。シャーロットの方に限っては、両親のみだった。
しかも、その後のお披露目会すらない。
式だけして解散のあっさりとしたもので、当事者のシャーロットですら『地味婚』どころか『極秘結婚』なのでは?と、疑ったくらいだ。
父が望んだ形だったらしいが、式の後、義母には嫡男の結婚式なのにあんまりだ、と散々嫌味を言われた。
そして今回。二度目の結婚は、式すらなかった。
目の前に突き出された婚姻届けに、サインして終わり。
あっさりどころではない。
それでも国王は「今は時期尚早だが、時が来たら式を盛大にやるんだ!」と張り切っているようだが、シャーロットとしてはこのくらいで丁度いいと思っていた。
都合のいい仮の花嫁なのだから、華やかな結婚式などかえって惨めなだけだ。
国王も弟の結婚だから張り切るのはわかるが、どうせやるなら、またアルバートに本当の人が現れた時にでもやって欲しい。
そんな気持ちで迎えた初夜。
お風呂から上がり、ドリーが手に持つバラ色のスケスケの夜着に、シャーロットは大きなため息を吐いた。
「その……いつものでいいから」
いつもの夜着は、着心地の良さのみで選んだ木綿のもの。ひざ丈のカボチャパンツの中に、上着の裾を全て入れ込むのが彼女の定番スタイルだ。
はっきり言って色気は皆無だが、お腹は冷えない。
「ですが、初夜にあの恰好ではあまりにも……」
「大丈夫よ。大体、一緒の部屋で寝るにしても、私とアルバートで何が起こるっていうの?」
形式上夫婦の部屋は一つで、ベッドも一つ。だからと言って、何が何でも一緒に寝なくてはいけない、なんていうルールなんてないのだ。
そうでなくても、アルバートには心に決めた人がいるのだから、シャーロットがこんな格好で寝室で待っていたら、警戒するかドン引きするかのどちらかだろう。
夫婦になるといっても、決してそんなつもりはないのだと。
そう言う彼の姿を、簡単に想像できる。
「……その方が私もいいし」
「お嬢様……」
シャーロットが情けなそうな顔で、眉尻を下げる。
彼に想い人がいるから、夜の行為は始まらない。
結婚したとしても、形だけのものだ。
それを少しだけ切なく思う気持ちの裏で、夜の行為がないことに安堵しているのも本当。
何故なら、シャーロットは夜の行為が苦手だった。苦手というか、嫌だと言ってもいい。
元夫とは、嫡子の事があるから義務として最低限付き合いはしてきたが、できれば一生しなくてもいいとさえ思っている。
彼との行為を思い出し、顔を顰める。だが、もうそれは終わった事だ。
気を取りなおし、彼女は心配そうに見つめるドリーに笑い返し、もう一度告げた。
「いつものでいいわ」
そうして着替えた後、二人の寝所へと向かう。
寝所として用意されたのは、品のいい調度品が飾られた大きな部屋で、中央にどーんと大きなベッドが置かれている。いかにも夫婦の寝室だ。
シャーロットとしては、自分の部屋があればそちらで寝ようと思っていたのだが、生憎個人の部屋は用意されていなかった。
最初は意地悪かと思ったが、当主であるアルバートの個室もないらしい。個人の部屋といえば、執務室が一つあるだけだと言っていた。
これだけ広い邸なのに?
疑問を直接ぶつけても、彼は目を細めて笑うだけ。
仕方なく、彼はミニマリストとか、そういう主義の人なのかな?と理解した。
室内はすでに明かりが抑えられ、いい香りのお香が炊かれ、ベッドは枕とシーツを見事に組み合わせ、巨大なリボンができている。
どうやって作ったのかしら?
自分たちは相思相愛のカップルではないのだから、こんな演出は不要だ。それでも見事は造形に興味を惹かれ、傍で見ようとベッドに上りかけた時、軽いノックの音と同時に部屋の扉が開かれた。
シャワーを浴びて来たのか、少し湿り気を残した髪。
完璧すぎて、一見冷たそうに見えるけれど、ほんの少しだけ目尻が垂れ気味で。完璧な中のちょっとしたズレが、彼を人間にしている。
それが色っぽいのよね。
それに……。目が自然に顔から下に移動する。
前を開けたままのパジャマから見える、鍛えられた腹筋。骨ばった大きな掌……。
あの胸に抱かれたら……。
思わず不埒な事を想像しそうになって、シャーロットは慌てて頭を振った。
「どうしたの?」
「あ、な、何でもない」
眩暈がするほど頭を振った後、彼女は背筋を伸ばして座りなおし、アルバートと向き合った。
再会した時から上にずっと上げていた前髪が、濡れて落ちてまるで5年前の彼を見ているよう。それを懐かしく思い出しながらも、コホンと一つ咳ばらいをし、彼女は口を開いた。
「あ、あのね?その……。結婚したんだけど、それだけだから。えっと、無理しなくてもいいから!」
「無理?」
首を傾げるアルバートに、彼女はあたふたとベッドのマットを叩いた。
「わ、私こっち側使っていい?公爵様はあっちで。ね、寝相は自分で言うのも良いから、越境はしないと思うから安心してね」
ベッドの真ん中に指で線を引き、「こっち」と「あっち」を指し示す。
「な、なんなら私の方が小さいから、ソファを使ってもいいんだけど」
「シャーロット、落ち着いて」
言いながらも早、腰を上げるシャーロットを、彼が止める。
「大事な君をソファなんかに寝かせられないだろう?風邪でも引いたらどうするの」
「あ、でも」
「第一、新婚初日に新婦をベッドから逃がすと思っているの?」
彼は彼女を後ろから羽交い絞めする感じで抱きしめ、その耳に甘く囁く。まるで猛毒を注ぐように。
その毒が効いたのか、一瞬思考と動きを止めたシャーロットだったが、すぐにいかん、いかんと首を横に振った。
流されて、どうするの!
彼からしたら、きっとこういう場で新婦の立場を慮ってくれているだけなのに。初夜から一人寝させられたなんて事が周囲に漏れたら、きっとシャーロットが恥をかくと思って。
そんな気遣いは無用なのに。
彼女はそれを伝えるべく、じたばたと手足を動かし、彼の腕から逃れた。そうして、ベッドの上で正座をした状態で、改めて彼に向き直る。
「その……。私が言う事ではないと思って、ずっと言えなかったんですけど。クラルス様の事……本当にお気の毒でした」
「シャーロット?」
「公爵様が彼女の為に、結婚を拒んでるって話は聞いていました。今回、何かの事情があって私と結婚したのだろうけど……。その……そこまで無理はしなくていいと思うの」
彼が彼女を想っているのは、わかっているから。
形だけの夫婦になったからって、無理に体を繋ぐ必要なんてない。
「……結婚したけれど、それは表向きだけで、って事?」
アルバートの問いに、シャーロットがこくりと頷く。
「大丈夫。表向きはちゃんとした夫婦に見えるように頑張るから。だから……」
その気がないのに、無理に自分を抱く必要はない。
そう言うと、暗い室内でもはっきりとわかるほど、アルバートの目が吊り上がった。
「何で?私じゃダメだという事?」
「は?」
ギラギラと光る目が、シャーロットを追い詰めてくる。
「前の旦那に操立てでもしているって事?あんな……!」
「え?違う、違う!そういうのじゃなくて!」
一体どこからその話が出てくるのか。
シャーロットはただ、無理に夜を一緒にしなくていいし、子供だってできてしまったら、彼が次の恋に行きづらくなるから、と思っていただけなのに。
困惑しつつ、彼女は説明の言葉を探した。
「こ、公爵様こそ嫌でしょう?私、クラルス様じゃないし」
正直に言って、彼女に似ている個所なんて一つもない。
髪の色も目の色も、身長や体つきだって違う。
「だから、何でそこでテルースの話が………ってそうか!」
「公爵様?」
彼はシャーロットの言葉に何か気づいたのか、ハッとした顔になり、次にうなだれたかと思うと、すぐにその場でベッドを下り、彼女足元に膝をついた。
足元に美青年がいて、その人が見上げてくる。それだけでシャーロットの心臓が跳ね上がる。
だが、そんな彼女の状態も知らず、アルバートは彼女があの時に捻った足首に触れて尋ねる。
「一つ聞くけど。従兄弟殿から何も聞いていない、とか?」
「お父様?」
「テルースの事とか。あの時何があったのか、とか」
「?いいえ」
彼女がどうしたのだろう。
アルバートに振られてすぐにブレンダンに嫁いだシャーロットには、あの後の彼らの事はよくわからない。婚家に馴染むのに集中していたし、彼らの事は意識的に避けていた。極僅かに漏れ聞いた噂で、卒業後すぐに彼女が亡くなったらしいという事を知っただけだ。
シャーロットは首を横に振り、それを見たアルバートは「ああ」というかすれた声と共に、項垂れ、自分の手で顔を覆った。
「じゃあ今まで、本当に何の説明もしてくれていなかったのか……。マジ、殺す」
「公爵様?」
「アルバートだ!昔みたいに名前で呼んでくれ」
少し大きめの声で否定され、シャーロットの肩が揺れる。
「でも、ただの幼馴染の間で、名前で呼ぶのは……」
「ただの幼馴染?冗談じゃない!君は私の妻だ!君が望むと望まざるとにかかわらず、君は私のものだ!」
彼女の声を遮り、アルバートが大きな声を出す。
「………どうしたの?」
何がそんなに彼を苛つかせているのか。
わからなくて問うと、彼は自分の首にかけていたネックレスを乱暴に外した。
銀色の鎖。その先についているのは、青い石のついた特徴のある指輪だった。
その指輪を鎖から外し、アルバートがシャーロットに差し出す。
「君に」
結婚指輪という事だろうか。
だが、彼の手の中のそれを見た瞬間、彼女は息を飲んだ。
魔よけのダイヤを咥える二匹の竜。十字のモチーフの中にはめられた、深い青の石。
一目でわかる。これは彼個人を表す紋章と同じイメージで作られたのだ。
そして、シャーロットはこの指輪を噂で知っていた。
彼がクラルスの為に作った指輪。
卒業イベントのあの日、彼女の指を飾っただろうそれを見て、シャーロットは悲しく思う。
こんなの……貰えない。
一度目の結婚は、ささやかなものだった。
式はしたけれど、準備の時間もほぼなく、出席者も極わずか。シャーロットの方に限っては、両親のみだった。
しかも、その後のお披露目会すらない。
式だけして解散のあっさりとしたもので、当事者のシャーロットですら『地味婚』どころか『極秘結婚』なのでは?と、疑ったくらいだ。
父が望んだ形だったらしいが、式の後、義母には嫡男の結婚式なのにあんまりだ、と散々嫌味を言われた。
そして今回。二度目の結婚は、式すらなかった。
目の前に突き出された婚姻届けに、サインして終わり。
あっさりどころではない。
それでも国王は「今は時期尚早だが、時が来たら式を盛大にやるんだ!」と張り切っているようだが、シャーロットとしてはこのくらいで丁度いいと思っていた。
都合のいい仮の花嫁なのだから、華やかな結婚式などかえって惨めなだけだ。
国王も弟の結婚だから張り切るのはわかるが、どうせやるなら、またアルバートに本当の人が現れた時にでもやって欲しい。
そんな気持ちで迎えた初夜。
お風呂から上がり、ドリーが手に持つバラ色のスケスケの夜着に、シャーロットは大きなため息を吐いた。
「その……いつものでいいから」
いつもの夜着は、着心地の良さのみで選んだ木綿のもの。ひざ丈のカボチャパンツの中に、上着の裾を全て入れ込むのが彼女の定番スタイルだ。
はっきり言って色気は皆無だが、お腹は冷えない。
「ですが、初夜にあの恰好ではあまりにも……」
「大丈夫よ。大体、一緒の部屋で寝るにしても、私とアルバートで何が起こるっていうの?」
形式上夫婦の部屋は一つで、ベッドも一つ。だからと言って、何が何でも一緒に寝なくてはいけない、なんていうルールなんてないのだ。
そうでなくても、アルバートには心に決めた人がいるのだから、シャーロットがこんな格好で寝室で待っていたら、警戒するかドン引きするかのどちらかだろう。
夫婦になるといっても、決してそんなつもりはないのだと。
そう言う彼の姿を、簡単に想像できる。
「……その方が私もいいし」
「お嬢様……」
シャーロットが情けなそうな顔で、眉尻を下げる。
彼に想い人がいるから、夜の行為は始まらない。
結婚したとしても、形だけのものだ。
それを少しだけ切なく思う気持ちの裏で、夜の行為がないことに安堵しているのも本当。
何故なら、シャーロットは夜の行為が苦手だった。苦手というか、嫌だと言ってもいい。
元夫とは、嫡子の事があるから義務として最低限付き合いはしてきたが、できれば一生しなくてもいいとさえ思っている。
彼との行為を思い出し、顔を顰める。だが、もうそれは終わった事だ。
気を取りなおし、彼女は心配そうに見つめるドリーに笑い返し、もう一度告げた。
「いつものでいいわ」
そうして着替えた後、二人の寝所へと向かう。
寝所として用意されたのは、品のいい調度品が飾られた大きな部屋で、中央にどーんと大きなベッドが置かれている。いかにも夫婦の寝室だ。
シャーロットとしては、自分の部屋があればそちらで寝ようと思っていたのだが、生憎個人の部屋は用意されていなかった。
最初は意地悪かと思ったが、当主であるアルバートの個室もないらしい。個人の部屋といえば、執務室が一つあるだけだと言っていた。
これだけ広い邸なのに?
疑問を直接ぶつけても、彼は目を細めて笑うだけ。
仕方なく、彼はミニマリストとか、そういう主義の人なのかな?と理解した。
室内はすでに明かりが抑えられ、いい香りのお香が炊かれ、ベッドは枕とシーツを見事に組み合わせ、巨大なリボンができている。
どうやって作ったのかしら?
自分たちは相思相愛のカップルではないのだから、こんな演出は不要だ。それでも見事は造形に興味を惹かれ、傍で見ようとベッドに上りかけた時、軽いノックの音と同時に部屋の扉が開かれた。
シャワーを浴びて来たのか、少し湿り気を残した髪。
完璧すぎて、一見冷たそうに見えるけれど、ほんの少しだけ目尻が垂れ気味で。完璧な中のちょっとしたズレが、彼を人間にしている。
それが色っぽいのよね。
それに……。目が自然に顔から下に移動する。
前を開けたままのパジャマから見える、鍛えられた腹筋。骨ばった大きな掌……。
あの胸に抱かれたら……。
思わず不埒な事を想像しそうになって、シャーロットは慌てて頭を振った。
「どうしたの?」
「あ、な、何でもない」
眩暈がするほど頭を振った後、彼女は背筋を伸ばして座りなおし、アルバートと向き合った。
再会した時から上にずっと上げていた前髪が、濡れて落ちてまるで5年前の彼を見ているよう。それを懐かしく思い出しながらも、コホンと一つ咳ばらいをし、彼女は口を開いた。
「あ、あのね?その……。結婚したんだけど、それだけだから。えっと、無理しなくてもいいから!」
「無理?」
首を傾げるアルバートに、彼女はあたふたとベッドのマットを叩いた。
「わ、私こっち側使っていい?公爵様はあっちで。ね、寝相は自分で言うのも良いから、越境はしないと思うから安心してね」
ベッドの真ん中に指で線を引き、「こっち」と「あっち」を指し示す。
「な、なんなら私の方が小さいから、ソファを使ってもいいんだけど」
「シャーロット、落ち着いて」
言いながらも早、腰を上げるシャーロットを、彼が止める。
「大事な君をソファなんかに寝かせられないだろう?風邪でも引いたらどうするの」
「あ、でも」
「第一、新婚初日に新婦をベッドから逃がすと思っているの?」
彼は彼女を後ろから羽交い絞めする感じで抱きしめ、その耳に甘く囁く。まるで猛毒を注ぐように。
その毒が効いたのか、一瞬思考と動きを止めたシャーロットだったが、すぐにいかん、いかんと首を横に振った。
流されて、どうするの!
彼からしたら、きっとこういう場で新婦の立場を慮ってくれているだけなのに。初夜から一人寝させられたなんて事が周囲に漏れたら、きっとシャーロットが恥をかくと思って。
そんな気遣いは無用なのに。
彼女はそれを伝えるべく、じたばたと手足を動かし、彼の腕から逃れた。そうして、ベッドの上で正座をした状態で、改めて彼に向き直る。
「その……。私が言う事ではないと思って、ずっと言えなかったんですけど。クラルス様の事……本当にお気の毒でした」
「シャーロット?」
「公爵様が彼女の為に、結婚を拒んでるって話は聞いていました。今回、何かの事情があって私と結婚したのだろうけど……。その……そこまで無理はしなくていいと思うの」
彼が彼女を想っているのは、わかっているから。
形だけの夫婦になったからって、無理に体を繋ぐ必要なんてない。
「……結婚したけれど、それは表向きだけで、って事?」
アルバートの問いに、シャーロットがこくりと頷く。
「大丈夫。表向きはちゃんとした夫婦に見えるように頑張るから。だから……」
その気がないのに、無理に自分を抱く必要はない。
そう言うと、暗い室内でもはっきりとわかるほど、アルバートの目が吊り上がった。
「何で?私じゃダメだという事?」
「は?」
ギラギラと光る目が、シャーロットを追い詰めてくる。
「前の旦那に操立てでもしているって事?あんな……!」
「え?違う、違う!そういうのじゃなくて!」
一体どこからその話が出てくるのか。
シャーロットはただ、無理に夜を一緒にしなくていいし、子供だってできてしまったら、彼が次の恋に行きづらくなるから、と思っていただけなのに。
困惑しつつ、彼女は説明の言葉を探した。
「こ、公爵様こそ嫌でしょう?私、クラルス様じゃないし」
正直に言って、彼女に似ている個所なんて一つもない。
髪の色も目の色も、身長や体つきだって違う。
「だから、何でそこでテルースの話が………ってそうか!」
「公爵様?」
彼はシャーロットの言葉に何か気づいたのか、ハッとした顔になり、次にうなだれたかと思うと、すぐにその場でベッドを下り、彼女足元に膝をついた。
足元に美青年がいて、その人が見上げてくる。それだけでシャーロットの心臓が跳ね上がる。
だが、そんな彼女の状態も知らず、アルバートは彼女があの時に捻った足首に触れて尋ねる。
「一つ聞くけど。従兄弟殿から何も聞いていない、とか?」
「お父様?」
「テルースの事とか。あの時何があったのか、とか」
「?いいえ」
彼女がどうしたのだろう。
アルバートに振られてすぐにブレンダンに嫁いだシャーロットには、あの後の彼らの事はよくわからない。婚家に馴染むのに集中していたし、彼らの事は意識的に避けていた。極僅かに漏れ聞いた噂で、卒業後すぐに彼女が亡くなったらしいという事を知っただけだ。
シャーロットは首を横に振り、それを見たアルバートは「ああ」というかすれた声と共に、項垂れ、自分の手で顔を覆った。
「じゃあ今まで、本当に何の説明もしてくれていなかったのか……。マジ、殺す」
「公爵様?」
「アルバートだ!昔みたいに名前で呼んでくれ」
少し大きめの声で否定され、シャーロットの肩が揺れる。
「でも、ただの幼馴染の間で、名前で呼ぶのは……」
「ただの幼馴染?冗談じゃない!君は私の妻だ!君が望むと望まざるとにかかわらず、君は私のものだ!」
彼女の声を遮り、アルバートが大きな声を出す。
「………どうしたの?」
何がそんなに彼を苛つかせているのか。
わからなくて問うと、彼は自分の首にかけていたネックレスを乱暴に外した。
銀色の鎖。その先についているのは、青い石のついた特徴のある指輪だった。
その指輪を鎖から外し、アルバートがシャーロットに差し出す。
「君に」
結婚指輪という事だろうか。
だが、彼の手の中のそれを見た瞬間、彼女は息を飲んだ。
魔よけのダイヤを咥える二匹の竜。十字のモチーフの中にはめられた、深い青の石。
一目でわかる。これは彼個人を表す紋章と同じイメージで作られたのだ。
そして、シャーロットはこの指輪を噂で知っていた。
彼がクラルスの為に作った指輪。
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