八代学園の変わり者たち

夏風邪

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第一章

第12話 知らんヤツだらけの特進科

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 水、木、金曜日と三日間に分けて行われた前期中間考査。
 土日を挟んだ月曜日の今日はその結果が貼り出され、特進科では歓喜と落胆で落ち着かない空気が広がっていた。

 今時順位を公開するってどうなんだとも思ったがそれも特進科に限った話で、生徒間の競争を煽るためだとかなんとか。
 教師の思惑通り、プライドの高いエリートガリ勉たちが競争心を煽られているのだからその効果は抜群と言えよう。


「ほら都、見にいこ!」

「いや別に興味ないんだが…」

 朝、教室に入るなり早速見に行こうと旭に腕を掴まれ半ば強制的に連れて行かれた順位表の前。
 人が群がるところを颯爽と掻き分けていく旭に注がれる視線はなんとも刺々しい。

(さすがは上位常連生徒。敵視の視線が半端ないわね…)
 
 数ある視線をものともせずに人垣の中に消えていく猛者の背中を見送った都は、度の入っていないレンズ越しに順位表を見やる。
 見るのは中位以降。それより上を見る必要なはい。
 名前の羅列をざっと目で追っていく。

(………あ、あった。75位か)

 特進科は1クラス40人の3クラス構成だ。つまり一学年に120人ほどの生徒が在籍していることになる。
 その中で都の順位は75位。中の下といったところだろうか。

 上位には程遠いことを嘆くべきか、ガリ勉が多い中でも下位ではないことを喜ぶべきか。
 どちらにしろ人の学力にも自分の学力にも興味はないのだから関係ないことではある。


「「…くだらない」」


 溜め息混じりに落とした謗言が誰かの声と重なった。
 
 案外近く、声のした隣をチラリと見れば、同じようにこちらを見ていた人物とばっちり目が合った………ような気もしたが、都の目元は前髪と眼鏡でよく見えないだろうから気のせいだろう。

(……ほう、旭が咽び泣いて喜びそうな顔だな) 

 そこにいたのは、いわゆるイケメンと呼ばれるに相応しい端麗な男。
 順位表を見ているということおそらく同じ学年、同じ特進科の生徒なのだろう。
 すでに一年と少しを特進科で過ごしているが、これまで関わりのない他人に興味を持たなさすぎたことが災いしてか、この男のクラスも名前も記憶にない。なんなら顔も初めて見た気がする。


 ぱちりと一瞬目を瞠ったように見えた男は薄く笑みを浮かべた。

「順位、興味ねえの? 特進科なのに」

「どうでもいいわ。そういうあんたこそ興味なさげに見えるけど?」

「さてね。興味ないついでにお前何位だった?」

「なぜに見知らぬ男に教えなきゃならんのだ。ちなみに75位ですけどなにか?」

「ふはっ、教えてくれんだ。俺は73位だったな」

「そう。興味ないわね」

 とは言いつつ、自分だけ個人情報を知られるのも癪なので自分の名前の二つ上にある名前を確認する。
 その際、ちょうど人垣を抜けてこちらに向かってくる旭の姿が見えた。どうやら順位のチェックは終わったようだ。

「それじゃあごきげんよう」

「ああ、またな」

 すれ違い様、ふと思った。
 どうしてイケメンと呼ばれる野郎共はやたらといい匂いがするのだろうか。

 玲しかり、橘しかり、今の男しかり。
 美女の専売特許であろう要素を男が奪ってどうする。それとも今ではそれは美女限定のものではなく、容姿の優れた者全員に備わる要素にでもなったのだろうか。

(茜も旭もいい匂いするし……あれ? そういえば私の周りってそういうやつらばっかじゃない?)

 要らん情報で特に需要のない事実に気づいた都。
 だがそれも一瞬、それこそどうでもいいとばっさり切り捨てた。

(匂いに関しては私の中では虎之助一強だから。虎之助しか勝たんわ)

 思い出すのはグレーが混ざるふっかふかの白い毛並み。
 お昼寝する時なんかはそのキュートでチャーミングな腹やら頭やらに鼻先をくっつけて寝るのが一番の楽しみだ。

「……え、ちょっと都? なんでそんなに表情緩んでんの!?」

「やはり虎之助が最強よな。将来の伴侶はヤツしかおらんわ」

「誰か説明求む」

 結論、虎之助が一番かわいいし一番いい匂いがする。異論も反論も認めない。



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