八代学園の変わり者たち

夏風邪

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第一章

第17話 馬鹿な不良は果たしてモテるのか

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 完全なる独断と偏見により「ああ、こいつら馬鹿だ」と瞬時に思ってしまった顔を三つ確認したところで、都と橘は駆け出した。

「…っ待てやゴラァァ!!」

「逃げ切れると思ってんのかァ!!」

 背後から飛ぶ怒声。
 追いかけてくる足音は喧しいの一言に尽きる。

「……今日は厄日ね。ひとまず逃げるに限る」

「だな」

 遭遇してしまったのは学園に生息する野生の不良たちだった。
 緑、ピンク、赤となんともカラフルな髪を乱しながら追いかけてくる様は軽くホラーだ。

 直線だとこちらの姿を捉えられるので、なるべく曲がり角や階段を利用して複雑な経路を選びながらとにかく走る。

「…ったく、クソ面倒くさいな! あいつらってこの前部室に乗り込んできた不良共だっけ?」

「ああ、返り討ちにあってお前が大爆笑してたヤツらだな」

 たしか三下じみた台詞を吐いた挙句、夏目の攻撃を顔面に食らって無様に逃げ去った輩たちだ。
 最初に見た時から噛ませ犬感が半端ないと密かに都の中で笑いの種にされていた哀れな不良たちでもある。

「…ぶはっ、やば……思い出したら笑いがっ…!!」

「笑ってる場合か」

 階段を駆け下り、目の前の角を曲がる。
 今が部活終了後だというのが悔やまれる。とにかく人がいない。生徒はもうほとんど帰っているだろうし、教師の多くも職員室にいるか帰り支度を済ませている頃だろう。
 誰かいればあの不良たちの抑止力にもなるかもしれないが、この状況ではそれも望めない。

「あの馬鹿共でも人目のない時間を狙うって頭はあったのかしら」

「馬鹿がそんなことまで考えるか? 誰かの入れ知恵だろ」

 彼らが本当に馬鹿かどうかは知らないが、二人の間ではすでに『あの三人組=馬鹿』の等式は確定事項なのであった。


 静かな廊下にはこちらの姿を見失ったであろう彼らの声と足音が微かに響いていた。
 あともう少し。撒ける。

 そうして次の角を曲がった時、ドンッ、と体に強い衝撃が走った。

「わっ……!」

「おわ……!」
 
 誰かにぶつかった。 
 そう理解したときには勢いのままに体が後方に投げ出されていた。
 
 ああ、これは全身打撲確定コースだなと他人事のように数秒後の自分を憂う都だったが、倒れる前に前方から腕を引かれ、何が何やら人の体温に包まれていた。

「おい、大丈夫か!?」

 心配そうに都の顔を覗き込んできたのは見知らぬ男だった。
 おそらく今しがた曲がり角でぶつかってしまった相手だろう。都の腕を咄嗟に掴んで助けてくれたようだ。

「ええ、ありがと……う」

 礼を言いながら顔を上げて、思わず言葉が止まった。
 その理由は都を助けてくれた男、ではなく、その後ろで驚いたようにこちらを見ていた人物と目があい、同じように驚いたから。

(……おお、まさか学校で遇うとはな…)

 ダークブラウンの地毛を染めて若干色を変えたアッシュブラウンの髪。国宝級だなんだと誉めそやされるよく見慣れた顔。生まれてこの方たぶん誰よりも同じ時間を過ごしてきた男。
 学校では互いに意図して関わりを避けてきた双子の片割れ、雨宮玲がいた。

「本当に大丈夫か! 怪我は?」

「……ありがとう大丈夫よ。あんたこそ怪我はない?」

「え、あ、俺は全然大丈夫!」

「そう。よかった」

 ぶつかってしまった男は間違いなくイケメンに分類される顔。玲と一緒にいることから考えてもおそらく芸能科の生徒だ。
 商売道具に傷をつけたとなっては申し訳なさが先立つので安堵の息を吐いた。

 もう一度礼を言って支えてくれた男から離れる。
 その際ちらりと見た相手方には、玲と助けてくれた男の他にあと二人いた。顔面偏差値の高さから考えても全員芸能科なのだろう。

「……お前、前見て走れよ」

「見てただろうがよ。曲がった先に人がいるなんて思わなかったんだから仕方ないでしょう」

 ぶつかった拍子に落ちてしまった鞄を橘から受け取る。
 心外なことに心底呆れた顔をされたが、こっちは武術の達人でもなんでもないので人の気配なんてわからない。ましてや逃げることに半分意識を持っていかれていたのだからなおさら無理だ。


 そうこうしている間にも背後から足音は迫ってくる。

「見つけたぞコラァ!」

「テメェら逃げてんじゃねえぞ!!」

 カラフル頭の不良三人組に見つかってしまったようだ。

「……チッ、鬱陶しい。いい加減諦めたらどうかしら。人もいることだし、今日は引いたほうが身のためじゃない?」

「るっせぇブス。今さら怖気付いたところで遅ェんだよ」

「ギャハハハ! んだよ、ビビってんのか?」

「あーあー物騒ですこと。野蛮な男はモテなくてよ? ねぇ橘」

「ああ、可哀想に…」

「なっ…!」

「…っ、テメェら…!!」

「ナメてんのか…!」

 目を伏せてなんとも痛ましそうな顔をつくる橘。
 普通の男ならまだしも、正真正銘ガチでモテるイケメンにそんな憐れんだ目を向けられては彼らのプライドもズタズタだろう。

 三人組が怒り心頭に発してプルプル震えているうちに数歩下がり、置いてきぼりの通りすがり四人に声をかける。

「ワケのわからないことに巻き込んでしまってごめんなさい。私たちのことは気にしなくていい。誰かに知らせる必要もないから」

「え、でも教師くらいには…」

「大事にはしたくないし本当に気にしなくていいから。ああ、それと、ぶつかって悪かったわね。助けてくれてありがとう」

「お、おう!」

 不良三人組とは距離にして5メートルほど。
 上手く校舎の構造を利用すればまた引き離すことも可能だろう。

「…い、いい加減にしろよテメェら……! …俺は、俺はなっ、別に女なんて興味ねえんだよォォ!!!」

「ふは、あははははっ! モテない男の負け惜しみは愉快だねぇ!」

「んだと、……待てやッ!!」

 そうして二対三の鬼ごっこは第二ラウンドを迎えたのだった。



 * * *

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