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第一章
第18話 一方その頃
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「なんだったんだ……?」
高笑いしながら前を行く二人とそれを追う三人の背中を見送った進藤は、ポツリとそう漏らした。
女子生徒と曲がり角でぶつかってからその後ろ姿を見送るまでのほんの数十秒、結局は何も理解が追いつかないまま、気づけばすべて過ぎ去っていた。
「……え、マジでなに?」
「いやー、この学園に不良がいることは知ってたけど修羅場ってるところは初めて見たな。追いかけられてたほう、ありゃ不良じゃねえだろ」
同じく一部始終を見ていた小柳に進藤も頷く。
髪と眼鏡であまり顔が見えなかった地味めな女と、芸能科でもなかなかお目にかかれない端正な男。並べば異色というか違和感のある二人は見るからに不良ではない。
女のほうはなかなかに見た目と中身が乖離していたが。
「なんかヤバそうな雰囲気だったけど……マジで誰にも言わなくていいのか? 暴力沙汰とかになってたら危なくね?」
「それはまあ確かに……」
危険な香りを放つ案件を目撃してしまい、どうしたものかと頭を悩ませる進藤と小柳だったが。
「別にいんじゃねぇの? 大事にはしたくないって言ってたんだし」
五人が走り去っていった廊下の先を見ていた玲がそう言った。
その視線もすぐに外れ、携帯を取り出してなにやら操作し始める。
そんな何気ない仕草ひとつとってもなんと様になっていることか。
同性でさえ思わず見惚れてしまうのだから、異性が彼にとことん夢中になるのも頷ける。
「だな。学校にはまだ教師も警備員も残ってることだし、騒ぎになりゃ駆けつけてくれんだろ」
「んー……まあ本人がいいって言ってたんだからいいか。早く綿やんのとこ行って俺たちも帰らねえとな。あの人音楽室にいんのかな」
芸能科の生徒が絶大な信頼を寄せる音楽教師の姿を思い浮かべた進藤だったが、そういえば、とふと疑問が過ぎった。
(……あの子、仮にも国宝級イケメンって言われる現役モデルが二人もいたのにまったく興味を示さなかったような……。こいつらを前にしてあそこまでスルーする女の子とか初めて見たかも……)
ちらりと彼らの顔を盗み見た進藤。やはり同性ながら見惚れてしまうなと、彼らの容姿の良さを再認識したのだった。
トーク画面を閉じてスマホをしまった玲は、内心大きな溜め息を吐いていた。
(とりあえずこれでいいか。なにもしてくれるなって顔に書いてあったし……てかミヤのやつ、不良ども煽りまくってなにやってんの? 喧嘩できねぇくせに)
すれ違い様に送られた片割れの視線の意をやはり正確に受け取っていた玲。
それでも万が一のためにと『なんかあったら連絡しろ』とメッセージだけは入れておいた。
あとは自分でなんとかするだろうと放置し、隣へと視線をやった。
「なに、樫野」
「なにって?」
「さっきからずっと俺のこと見てんだろ」
「ああ、ごめん。無意識だった」
そう言ってにこりと笑みを浮かべるのは、数多の女性を虜にする男。
玲の友人兼仕事仲間である彼は聡い。そして心のうちの読めなさには定評がある。
(ミヤとの関係に勘づいたか? 別にそこまでして隠したいわけじゃねぇからいいんだけどな)
玲も都も自分からは打ち明けないだけで、それぞれが双子の片割れだということを必死に隠しているわけではなかった。
バレた時は校内でもそれなりに騒がれるだろうし、一般人である都の方が不利益は大きいかもしれないが、そうなればその時考えれいいというのが互いの一致した見解だった。
(一応状況だけミヤに伝えとけばいいだろ……あ、虎之助に缶詰買って帰るか)
先のことよりも今は今晩の虎之助の食事だ。
そろそろ虎之助のご飯がなくなると言っていた都の言葉を思い出し、帰りにホームセンターに寄ることにした。
* * *
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