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第一章
第四夜 . 望まない負荷
しおりを挟むまず目に入ったのは窓ガラスから差し込むまばゆい朝陽。
遥か遠く、地平線から昇ってくる太陽はどんな人間をも等しく照らし、ぬくもりをくれる。
しかし『黒吉原』に来てからというもの、俺は太陽という存在が嫌いになった。
あんなにも無垢で純粋で、どこまでも美しく輝く存在は俺には眩しすぎる。
自分が堕ちたことをこれでもかというほど突きつけられるような気がするから。
一瞬昔の思い出に耽りそうになったが、俺の本能がそれは愚行であると警告する。すぐさま光から目を逸らし現実を見なければならない。
今の自分の身の安全を考えるならば、それが最善の策なのだから。
「───…やっと来たか。朝霧ィ」
まるで条件反射だ。
無意識のうちに体が強張る。それを表に出さなかったことだけでも褒めて欲しい。
やけに耳に響く、妖しい甘さを孕む支配者の声。
ひとつ言っておこう。
この男の前で別の物事に意識を傾けるというのは自殺行為だ。
どうぞ食べてくださいと自ら身を捧げるようなもの。
大きなデスクの前でゆらゆらと椅子に腰掛けている男。
陽の光が逆光となりその顔に影を落としているため表情は窺えない。が、たぶん笑っている。
冷たい目で、薄く笑みを敷いて、綺麗なカオで笑っているはず。
「そう警戒するなァ。とりあえず座れ」
なにが愉しいのか。男の声は愉快そうに響く。
命令然とした口調には大いに反抗心が芽生えた。
しかしこんなところで逆らっても被害を被るのは自分自身だと理性で止め、大人しく指示に従う。
完全洋室の広々とした室内。
まるで高級オフィスの社長室のような部屋の中心へとゆっくり歩み寄る。
男と向き合う形でデスクの正面に置かれた一人掛けソファに腰を下ろす。
ギシッという音がやけに大きく聞こえる。いつも以上に自分が神経を尖らせている証拠だ。
「さァて本題に入ろうか。それに目を通せ」
それ、と言われ、目の前に視線を落とす。
傷ひとつない綺麗に磨かれたガラス製のローテーブルの上に伏せられた一枚の紙。
見なくともなにが書かれているかは分かっていが、一応言われた通り内容を確認する。
───ああ、忌々しい。
たった一枚のこの紙切れが、俺を『黒吉原』に縛り付け、いくら踠いても外れることのない強固な枷となる。
『借金返済証明書』。
そう書かれた紙には、今月分の返済額と未払金額がそれぞれ明記されていた。
今月支払った金額は約3000万円。たまたま上客が数人重なったために必要経費を差し引いても稼ぎは大きかった。
しかし問題は未払金のほう。
莫大な借金とそれに付随する莫大な利息。時間が経てば経つほどえげつないくらいに増えていく。
総額で見てもゼロ八個はくだらないだろう。
けれどもこれはあくまでも今の段階では、の話だ。今後どれだけ増えていくかなんて考えたくもない。
いくら実入りの良い仕事をしているからと言って、元々なんの財も持っていなかった一般人が支払うにはその額はあまりにも大きすぎる。
いつまでこの身体がもつか、いつまでこの身体で稼いでいけるかがわからない。
まだまだ若いが着実に負担が蓄積されていることは自分が一番わかっている。
身体が使い物にならなくなる前に、なんとかして完済の目処を立てておきたいところ。
「───不憫だなァ、朝霧よォ」
不意に、すぐそば、頭上から声が落とされた。
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