眼中になかった同期とセフレになってみたら沼すぎて、初恋。

ぴょす

文字の大きさ
32 / 66

好きな人のことは知りたくなる

しおりを挟む
まだ少しふらつく足で、深夜に2人でコンビニだなんて。
まるで恋人みたいだと浮かれそうな自分を押し殺して、家を出ようとした瞬間、司の視線が俺の服に刺さった。

「……お前、それで外出る気?」

「ん?だめ?」

「ダメだろ。乳首が主張してんだよ、しかも足出し過ぎ。この辺の治安知らねーの?」

「お前だけだろ…そんなとこ見てんの。」

こっち着ろと押しつけられたのは司のパーカーとウエストがゆるめのジャージ。袖が少し余って、妙に落ち着かない。それにダイレクトに司の香りがするのがよろしくない。

「明らか事後じゃね?これ」

「良いじゃん、付き合ってるみたいで」

「そう……か?…………」

夜道、手は繋がないのに歩幅も距離もぴったり合って、肩が触れる。付き合ったらこんな感じなのかな、とまんまと想像してしまう。

信号が赤に変わり、立ち止まる。ふっと風が通って、ぼんやり空を見上げていたら

「……どこ見てんの」

言うが早いか、軽く唇が触れた。
こんな外で堂々とキスだなんて。

「……は、なにすんだよ」

「え?ちゅー」

「そういうことじゃなくて…」

「誰も見てないよ」

さも当然のように歩き出す司に、ペースを乱されっぱなしだ。コンビニに着けば、さりげなく買い物かごを持たれ、会計後の袋も全部持たれてしまうし。

「俺も持つって」

「いい。落とすじゃん。」

「落とさねぇよ」

「慎はこっち」

そう言って司は空いた手を俺に差し出す。

「……いいよ別に…誰かに見られたら困るだろ」

「困らないから言ってんの」

「いや、でも」

「慎の気持ちは?繋ぎたいの?繋ぎたくないの?」

言葉は簡単なのに、意味は重い。そんな風に言われたら素直になるしかなくて。繋いだ手は温かくて、力強くて、それだけで安心できる気がした。

やっぱり司の特別になりたい。

もうその気持ちに抗いたくない。

この手が、他の誰でもなく俺だけを選んでくれる存在でいてほしい。でも、司を「恋人」と呼んでいい資格が自分にあるとは思えないのはまだ変わらない。

司は普通だったのに、俺がこちら側に連れて来てしまった。俺を選ぶ可能性なんて、本当は限りなくゼロに近い。それを知っていながら、こうして繋いでしまえば、いつかその手が離れる瞬間が来る事が怖くて仕方ない。

もし司が最初からゲイだったら、
もし最初から俺を好きでいてくれたなら、
こんな遠回りもしないで、ちゃんと恋人になれたのかな。

たらればばかり浮かんで、胸が締めつけられる。でも、手を握り返す力だけは、どうしても緩められなかった。

玄関の前で、繋いだ手をなかなか離せなかった。

司も同じだったのか、ほんの一瞬、鍵を開けるのをためらったように見える。やっと靴を脱ぎ、手を放すと、指先に残った温もりがやけに名残惜しい。

部屋に入り、買ってきたおにぎりや惣菜をテーブルに並べる。お湯を沸かし、インスタントの味噌汁を用意して、ふたりで腰を下ろした。テレビはつけていない。箸を動かす音と、カップの湯気だけが静かに立ち上っている。

俺が司と付き合うことに踏み出せないのは、司の事を身体以外ほとんど知らないから、ってのもある。俺は、ご飯を口に運びながら探るように口を開いてみる事にした。

「……最近、いい人いないの?」

「いい人?」

司は眉を少しだけ上げて、あっけらかんとした声を返す。

「どう考えてもお前じゃん」

「じゃ、……じゃあ、セフレとは会ってんの?」

「さあな」

「……元カノは?ど…どんな感じの人?」

「色々いたしなー」

「結婚するとか言ってた元カノって同い年だったのか?」

「どーだったかな、忘れた」

何を聞いても、掴みどころのない返事しか返ってこない。それでも諦めきれず、最後の質問をぶつける。

「っす…………好きなタイプは?」

司は唐揚げを口に運びながら、ちらりと俺を見た。

「その質問意味ある?」

司は箸を止め、こちらをじっと見た。数秒の沈黙のあと、短く吐き出すように言う。

「急に何?俺ら初めましてだっけ?」

「いや…ごめん……うん」

「めちゃくちゃ好きアピールしてるのに、まだ伝わってないわけ?」

その声音は、笑っているわけでも怒鳴っているわけでもない。ただ、少しだけ苛立ちを含んでいる。俺は思わず視線を逸らし、もごもごと曖昧な言葉を探す。

「……いや、その……」

「じゃあさ、好きなタイプとか元カノの話とか、聞いたとして何が変わんの?」

言葉の刃先は、思ったより鋭く突き刺さる。

「聞いたところで、何がどうなんの?」

胸の奥がきゅっと縮まる。俺はただ、司がどんな人間なのかを知りたかっただけなのに。

何に笑って、何を嫌って、どんな恋をしてきたのかって。

でも確かに、それを聞いたところで、今の関係が変わるわけじゃない。いや、変えられない。不毛な質問だったな、と苦笑いがこぼれた。目の前で味噌汁を啜る司の横顔を、何も言えずに見つめていると、司もこちら見た。

「ま、女のタイプも大してないし、そもそも男を好きになったことなんてなかったから……タイプって言われても分かんないんだよな。」

司は軽く肩をすくめ、それから目線を逸らさずに続けた。

「でも、お前のことがこんなにも気になるってことは、俺のタイプは慎なのかもな」

一瞬、空気が柔らかくなる。俺はその余韻を逃すまいと、つい余計な口を開いた。

「なら、セフレから始まって、付き合ったことってある?」

司の箸が止まる。少しだけ考え込むような間があって、低い声が返ってくる。

「……ない」

その一言で、また空気が少し重くなった気がした。
けれど、司は続ける。

「でも俺たちはこういう始まりじゃなかったら、そもそも関わることすらなかったじゃん。」

箸を置き、ゆっくりと俺の方を向く。

「慎の可愛いとこも、健気なとこも、仕事してるだけのただの同期のままじゃ、絶対に知れなかった」

わずかに口角を上げる。何を言っても何か返してくれる、そんな司に俺はずっと甘えてしまってる気がする。

「だから……俺たちに限っては、セフレから恋人って展開があっても、おかしくないと思ってる。俺はね。」

突き放すような言葉を重ねられても、それでも司は俺の方を向いてくれる。その目は、俺を追い払おうとしているんじゃなく、試すように見つめている。そんな視線に、気づけば心はまた奪われていく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...