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予期せぬ再会?極上の洗脳キスに抗えない
しおりを挟むそうして、コースの終了を知らせるタイマーが鳴る。ホテルのエレベーターを降りて、ゆいさんと並んで自動ドアへ向かった。さっきまでのプレイの余韻が、まだ身体の奥に残っている気がして、なんともいえない妙な浮遊感を身体に残して。
「じゃあ、またね、まこちゃん」
ゆいさんは俺を見送るように背中に手を添えた。いつもこんな時どんな顔をするのが正解か分からなくて会釈をする。いつも通りに小さく会釈をして、ほんの数秒後。
「……え」
ホテル前に止まったタクシーから降りてきた人影に気づいたときには、もう遅かった。
だってそれはあまりにも見慣れた顔で。
できれば今は避けたい相手。
「黒川……?」
その隣には白いミニワンピにヒール、ぴったり寄り添う長い髪の女。わざとらしいほどに距離が近くて、指が絡み合ってる。そして黒川は、少しだけ視線を落として笑っていた。
……その顔が俺に気づいた瞬間、強張る。
「渡瀬?」
思考が凍った。
よりによってこんな場所で。
俺が完全に固まっている隣で、ゆいさんが俺の顔を覗き込む。
「え、あの子が黒川くん?」
「ゆいさん、……ちょっと静かに…」
「あ!初めましてー!えっとぉ~安心してくださいね、まこちゃんとはお仕事の相手ってだけで、彼氏とかじゃないので~」
「は?」
黒川の顔が厳しく歪み、横の女は怪訝な顔をする。そのすべてを置き去りにして、ゆいさんは無邪気に手を振りながら「またね」と笑顔で去っていった。
残るは沈黙。
俺と黒川、その間に流れる、とてつもなく重たい沈黙だ。
「……」
「…………」
黒川の顔が、酷く強張っていく。
その女の腕をほどきもせず、ただ、俺を見ている。
この2人、今から……
そう思ったらいたたまれなくなって、視線を外す。
「……」
「ねえ、早く行こ?」
女が甘えた声で黒川に抱きついた。結局は女がいいんだろう、というのを目の前に叩きつけられた気になる。
「……じゃあ、俺、これで」
と2人を追い越そうとした瞬間。
「帰れ」
その低く落ちた一言に、俺の背筋がゾクッとする。次の瞬間、黒川の手が女の手を振りほどき、直後には俺の腕を掴んでいた。
「は?ちょ、黒川…?」
何が起きたか分からないうちに、黒川は道路に向かって手を挙げ、やってきたタクシーに女を押し込む。
「帰って。お前とする気なくなった」
「はぁ!? ちょっとなに!? 意味わかんない!!」
女が怒鳴りながら抵抗するも、黒川はその肩を押して、ぐいっと更に車内に押し込んだ。運転手が「え?」と戸惑っているうちに、黒川が無言でドアをバタンと閉め、「発車で」とだけ言った。
呆然。
俺は口半開きで、それを見ていた。
だってこれは予想外。
女が消えて俺が残ったなんて。
「……おまえ、なにやってんの……」
そうは言うけれど、でも胸のどこかで喜んでいた。二度目なんてないと思ってたのに。こうやって、黒川がまた自分を見てることに期待してしまった。
少しだけ、ほんの少しだけ。嬉しいと思ってしまった。そんな自分が酷く情けない。
気まずい無言の中、恐る恐る顔を上げると、嬉しがる俺を他所に怒りを隠そうともしない瞳で俺を睨みつけてくる黒川と目が合ってしまった。
「……今の、誰だよ」
「え?」
「今、一緒にいたあの男。誰なんだよ」
「……いや、別に…誰とかじゃ…」
はぐらかそうとしたけど、黒川の勢いは止まらなかった。
「……ああいう奴が、好きなのかよ」
「違う。好きとかそういうんじゃ…」
「じゃあなんなんだよ」
黒川の声が夜に響いた。周りを気にする余裕なんて、こいつにはない。
「……なんなんだよ、渡瀬」
言葉のトーンが、怒鳴り声から低く抑えたものに変わる。だけどその分、心に刺さって辛い。
「今まで職場じゃ俺に話しかけてもこなかったのに、いきなりあんな関係持ち出してきたかと思えば……」
黒川の手がぐっと力を込めて、俺の腕を掴んだまま離さない。
「……たった一晩でいなくなって」
「……」
「俺は……」
声が震える黒川のことを、ちゃんと見れない俺はなんてダサい奴なんだろうか。
「俺はさ……昨日からずっと考えてた。仕事中も、今ここで会うまでも。……どうして俺だったのって。……渡瀬のこと、ずっと頭から離れなかったのに」
まっすぐな目は怒ってるのに、どこか泣きそうな、そんな顔で見てるこちらが居た堪れなくなる。
「まさか、翌日には平気で他の男とヤれるような奴だったとか。聞いてない……」
「そ…それはお前だって、」
「俺は、渡瀬があんなひどい終わらせ方しないでくれたら渡瀬が良かった。でもそうさせてくれなかったんだろ、だから他で埋めようとしたんだよ。」
ぐさっと刺さった。言い返したかったけど、できなかった。図星だったから。
「勝手すぎんだよ、マジで。誘ってきたのも、終わらすのも、渡瀬が勝手に決めて。……俺だけずっと、考えさせられてる、今だって……」
静かな怒気と、抑えきれない感情の波がぶつかってくる。
“あの夜がよかった”とも、“黒川が忘れられない”と、言うならきっと今だ。でもそんなこと言ってしまえば、もっと面倒になるって分かってる。だから俺は、何も言わなかった。ただ、目を逸らして、黙って、立ち尽くしていた。そんな俺を見て、黒川が小さく息を吐いた。
「……なんか言えよ」
そう言われても、何も出てこない。俺ってなんでこんな面倒臭い奴なんだろうか。きっと黒川もそう思ったんだろう。
「ちょ、黒川……っ」
抵抗の声なんかお構いなしに、黒川は俺の腕を掴んだまま俺が今出てきたホテルの中に入る。そしてエレベーターに乗り込む…そこまでがえらく短く感じた。
ホテルのエレベーターが静かに上昇する中、俺は必死に言葉を探すのに、攻撃的な言葉しか出てこない。
「……お前、なにしてんの。俺もうそんなつもりないんだけど……」
「だったら逃げればよかっただろ、あの場で」
言い返された言葉に詰まる。
そう、逃げられた。けど、逃げなかったのは俺の意思で。黒川の手を、振り払えなかったのも俺の弱さだった。
沈黙が落ちた狭いエレベーターの中。この後に及んでまだ口を開こうとした瞬間、黒川が俺の背中を壁に押し付けた。
「っ、……!」
そして何の前触れもなく唇を奪われる。
「ん……っ…」
強引なキスだった。
けど、唇が触れた途端、頭が真っ白になった。
この感じ、知ってる。
あいつの熱。昨夜、何度も味わった感覚。
逃げなきゃって頭では思ってるのに、身体が微動だにしない。むしろ、どこかでまたこの感じを待ってた自分がいるのが、最悪だった。
キスが離れた。黒川が見下ろしてくる。
「……黙ったってことは、嫌じゃないんだろ」
掠れた声で囁かれ、俺は目を逸らすしかなかった。
エレベーターの扉が静かに開き、黒川がまた俺の腕を掴む。逃げられないまま、部屋まで連れて行かれる。ドアが閉まり、鍵がかかる音がやけに響いた。もう、なんの言い訳も効かないところまできてしまった。
そのままベッドに押し倒され、黒川の顔がすぐ近くにくる。
「絶対、満足させるから。……もう一回抱かせろよ」
俺が無理やり終わらせたのに。
本当は、終わらせたくなんてなかったくせに。
黒川に、どこまでも夢中になってくのが怖い。もう手放したくないと思ってる。理性が、悲鳴をあげてる。このまま離れてほしくないっていう、どこまでも情けなくて、強欲な俺の気持ちのやり場が見つからない。
ああ、もういい。もうどうでもいい。
これ以上、冷静なフリなんてできっこない。
黒川の両手が俺の肩を荒々しく押さえつけ、ベッドの柔らかなマットレスに背中が沈み込む。抵抗などする間もなく、司の身体が重く覆い被さってきた。
美形ともてはやされる美顔が、今は狂ったように貪欲で、汗ばんだ額の髪が乱れ、色気が濃厚に滲み出している。
あぁもう
他の人で、なんて無理だった。
他の男に逃げてみたけど、それが無意味だった事が容赦なく突き刺さってくる、そんな視線を向けられている。
黒川の唇が俺の唇に激しくぶつかり、肉を噛むような勢いで押しつぶした。リップ音が耳を犯すように、くちゅくちゅと粘つく。
舌が強引に侵入して……熱くて……ざらざらした舌の表面が俺の舌を荒々しく絡め取る。
唾液の混ざる感じ……
ぬるぬるとした卑猥な感触……
こんな下品なキスを、俺は知らない。
慎の頭を片手で固定し、唇を貪るような深いキスを俺たちは一体どれほどするのだろうか。唇を離すたび、つぅと唾が垂れ落ち、俺の顎を濡らし首筋まで伝う。
「俺は……お前のことが忘れられないんだよ…」
「っう゛………」
俺の息を完全に奪い、耳元で繰り返すのはそんな言葉。その言葉は、曖昧な関係を無視するように、俺の心を洗脳する呪文のようだ。
司の力強い手が俺をさらに強く押さえつけ、体重をかけて動けないように捩じ伏せてくる。必死に司の背中を掴もうとしても、それを払いのけ、俺の両手首をベッドに押しつけて固定した。
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