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その最低な態度
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♢翌日♢
オフィスの空気はいつも通りだった。
いや、少なくとも周囲にはそう見えていたはずだ。
俺はいつもと変わらぬ顔でデスクに向かい、資料を淡々と整理していた。パソコンのキーボードを叩く音と、上司の指示に応じる部下の声が一定のリズムで流れていく。
司は、笑っていた。楽しげに同僚と談笑し、資料を抱えて軽口を飛ばす。時折、誰かの肩を叩きながら大げさに笑う声が響く。
胸の奥で、ぐらりと何かが崩れる。
自分だけが失ったものに囚われて、眠れず、食欲もなく、仕事も手につかない。その一方で、司は何もなかったかのように、明るくそこにいる。
避けているわけでも、気を遣っているわけでもない。
ただ本当に、気にしていない。
俺とのことなんて……本当に、どうでもよかったのか?
吐き気に似た感情が喉を締めつけた。“無かったことにしてくれ”と言ったのは俺のほうだ。それなのに、ここまであっさりと忘れられるのは、想像すらしていなかった。
心の中、鼻で笑う。
司から逃げた直後、携帯には何十件もの着信と謝罪のメッセージが並んでいた。あれだけ必死に食らいついてきたのに、今朝になればぴたりと止まっている。
去るものは追わない。それがあいつの本性か。
一瞬、胸の奥がざわつく。苛立ちと、拗らせた未練のようなものが混ざり合う感覚に、自分で気付いてしまう。
……こんなもんだったんだろ
自分にそう言い聞かせるように、俺は視線を画面に固定した。司の笑い声が、少し離れた席で誰かと交わされる。聞こえてしまえば感情を乱される。
俺は逃げるようにその場を後にした。
会議室の扉を開けると、新人の女子社員が資料を抱えて右往左往していた。
「……大丈夫?」
思わず声をかけて、散らばった資料を拾い上げる。
「あ、すみません!ありがとうございます」
新人らしい緊張した笑顔。俺は手元の資料を整えながら、少しだけ肩の力を抜いてやろうと世間話を投げかけた。
とは言っても、本当は俺が司の事を考えたくなかった。
自分に言い聞かせるように。ほんの数分でも、何も考えずにいたかった。
だけど、
「お疲れ様。」
低い声とともに扉が開く。
そして、ぬるっと司が入ってきた。
「……っ…黒川…」
思わず声が漏れる。
しかし司は俺には目もくれず、すぐ近くの女子社員に視線を落とした。
「頑張ってるね。偉いじゃん」
何気ない口調。けれど、距離が近すぎる。女子社員は頬を赤らめて、小さく笑った。
「まだ慣れなくて……」
「いいよ、俺がフォローするから」
司はそう言って、さりげなく肩越しに覗き込む。視線を合わせるたびに、相手が意識しているのを知っていて、なお楽しんでいる。そんな顔だった。
……何やってんだよコイツ
俺の胸が急速に冷えていく。ただの上司の気遣いに見えなくはない。けれど、声のトーンも、笑みの柔らかさも、かつて自分に向けられていたものと同じだった。
俺は……勘違いしてただけか?
“特別”なんて思い込んで浮かれていた。選ばれたんだと、信じかけていた。それが今では、目の前で別の相手に同じ顔を見せられている。
「……」
手にしていた資料が震え、思わず強く握りしめた。情けなさが喉に込み上げて、言葉にならない。司は女子社員に向かって軽口を交わし続ける。その笑い声が耳に突き刺さるたびに、俺は自分の愚かさを突きつけられているようで、耐えがたく目を伏せた。
オフィスの空気はいつも通りだった。
いや、少なくとも周囲にはそう見えていたはずだ。
俺はいつもと変わらぬ顔でデスクに向かい、資料を淡々と整理していた。パソコンのキーボードを叩く音と、上司の指示に応じる部下の声が一定のリズムで流れていく。
司は、笑っていた。楽しげに同僚と談笑し、資料を抱えて軽口を飛ばす。時折、誰かの肩を叩きながら大げさに笑う声が響く。
胸の奥で、ぐらりと何かが崩れる。
自分だけが失ったものに囚われて、眠れず、食欲もなく、仕事も手につかない。その一方で、司は何もなかったかのように、明るくそこにいる。
避けているわけでも、気を遣っているわけでもない。
ただ本当に、気にしていない。
俺とのことなんて……本当に、どうでもよかったのか?
吐き気に似た感情が喉を締めつけた。“無かったことにしてくれ”と言ったのは俺のほうだ。それなのに、ここまであっさりと忘れられるのは、想像すらしていなかった。
心の中、鼻で笑う。
司から逃げた直後、携帯には何十件もの着信と謝罪のメッセージが並んでいた。あれだけ必死に食らいついてきたのに、今朝になればぴたりと止まっている。
去るものは追わない。それがあいつの本性か。
一瞬、胸の奥がざわつく。苛立ちと、拗らせた未練のようなものが混ざり合う感覚に、自分で気付いてしまう。
……こんなもんだったんだろ
自分にそう言い聞かせるように、俺は視線を画面に固定した。司の笑い声が、少し離れた席で誰かと交わされる。聞こえてしまえば感情を乱される。
俺は逃げるようにその場を後にした。
会議室の扉を開けると、新人の女子社員が資料を抱えて右往左往していた。
「……大丈夫?」
思わず声をかけて、散らばった資料を拾い上げる。
「あ、すみません!ありがとうございます」
新人らしい緊張した笑顔。俺は手元の資料を整えながら、少しだけ肩の力を抜いてやろうと世間話を投げかけた。
とは言っても、本当は俺が司の事を考えたくなかった。
自分に言い聞かせるように。ほんの数分でも、何も考えずにいたかった。
だけど、
「お疲れ様。」
低い声とともに扉が開く。
そして、ぬるっと司が入ってきた。
「……っ…黒川…」
思わず声が漏れる。
しかし司は俺には目もくれず、すぐ近くの女子社員に視線を落とした。
「頑張ってるね。偉いじゃん」
何気ない口調。けれど、距離が近すぎる。女子社員は頬を赤らめて、小さく笑った。
「まだ慣れなくて……」
「いいよ、俺がフォローするから」
司はそう言って、さりげなく肩越しに覗き込む。視線を合わせるたびに、相手が意識しているのを知っていて、なお楽しんでいる。そんな顔だった。
……何やってんだよコイツ
俺の胸が急速に冷えていく。ただの上司の気遣いに見えなくはない。けれど、声のトーンも、笑みの柔らかさも、かつて自分に向けられていたものと同じだった。
俺は……勘違いしてただけか?
“特別”なんて思い込んで浮かれていた。選ばれたんだと、信じかけていた。それが今では、目の前で別の相手に同じ顔を見せられている。
「……」
手にしていた資料が震え、思わず強く握りしめた。情けなさが喉に込み上げて、言葉にならない。司は女子社員に向かって軽口を交わし続ける。その笑い声が耳に突き刺さるたびに、俺は自分の愚かさを突きつけられているようで、耐えがたく目を伏せた。
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