眼中になかった同期とセフレになってみたら沼すぎて、初恋。

ぴょす

文字の大きさ
44 / 66

その最低な態度

しおりを挟む
♢翌日♢

オフィスの空気はいつも通りだった。
いや、少なくとも周囲にはそう見えていたはずだ。

俺はいつもと変わらぬ顔でデスクに向かい、資料を淡々と整理していた。パソコンのキーボードを叩く音と、上司の指示に応じる部下の声が一定のリズムで流れていく。

司は、笑っていた。楽しげに同僚と談笑し、資料を抱えて軽口を飛ばす。時折、誰かの肩を叩きながら大げさに笑う声が響く。

胸の奥で、ぐらりと何かが崩れる。
自分だけが失ったものに囚われて、眠れず、食欲もなく、仕事も手につかない。その一方で、司は何もなかったかのように、明るくそこにいる。

避けているわけでも、気を遣っているわけでもない。
ただ本当に、気にしていない。

俺とのことなんて……本当に、どうでもよかったのか?

吐き気に似た感情が喉を締めつけた。“無かったことにしてくれ”と言ったのは俺のほうだ。それなのに、ここまであっさりと忘れられるのは、想像すらしていなかった。

心の中、鼻で笑う。

司から逃げた直後、携帯には何十件もの着信と謝罪のメッセージが並んでいた。あれだけ必死に食らいついてきたのに、今朝になればぴたりと止まっている。

去るものは追わない。それがあいつの本性か。

一瞬、胸の奥がざわつく。苛立ちと、拗らせた未練のようなものが混ざり合う感覚に、自分で気付いてしまう。

……こんなもんだったんだろ

自分にそう言い聞かせるように、俺は視線を画面に固定した。司の笑い声が、少し離れた席で誰かと交わされる。聞こえてしまえば感情を乱される。


俺は逃げるようにその場を後にした。


会議室の扉を開けると、新人の女子社員が資料を抱えて右往左往していた。

「……大丈夫?」

思わず声をかけて、散らばった資料を拾い上げる。

「あ、すみません!ありがとうございます」

新人らしい緊張した笑顔。俺は手元の資料を整えながら、少しだけ肩の力を抜いてやろうと世間話を投げかけた。

とは言っても、本当は俺が司の事を考えたくなかった。

自分に言い聞かせるように。ほんの数分でも、何も考えずにいたかった。

だけど、

「お疲れ様。」

低い声とともに扉が開く。
そして、ぬるっと司が入ってきた。

「……っ…黒川…」

思わず声が漏れる。
しかし司は俺には目もくれず、すぐ近くの女子社員に視線を落とした。

「頑張ってるね。偉いじゃん」

何気ない口調。けれど、距離が近すぎる。女子社員は頬を赤らめて、小さく笑った。

「まだ慣れなくて……」
「いいよ、俺がフォローするから」

司はそう言って、さりげなく肩越しに覗き込む。視線を合わせるたびに、相手が意識しているのを知っていて、なお楽しんでいる。そんな顔だった。

……何やってんだよコイツ

俺の胸が急速に冷えていく。ただの上司の気遣いに見えなくはない。けれど、声のトーンも、笑みの柔らかさも、かつて自分に向けられていたものと同じだった。

俺は……勘違いしてただけか?

“特別”なんて思い込んで浮かれていた。選ばれたんだと、信じかけていた。それが今では、目の前で別の相手に同じ顔を見せられている。

「……」

手にしていた資料が震え、思わず強く握りしめた。情けなさが喉に込み上げて、言葉にならない。司は女子社員に向かって軽口を交わし続ける。その笑い声が耳に突き刺さるたびに、俺は自分の愚かさを突きつけられているようで、耐えがたく目を伏せた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...