眼中になかった同期とセフレになってみたら沼すぎて、初恋。

ぴょす

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裏切られても平気でいられるほど強くないから

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「荷物取りに来いって言ったの、司じゃん!いつならいいか聞いても返事もしないで、私の事馬鹿にするのもいい加減にして!」

「……忙しかったんだよ」

「そうやって、全部“忙しい”で済ませるのやめてよ! 忙しい忙しいって言って女と遊んでただけのくせに」

「ごめんって、とりあえず今日は帰って。荷物なら俺がまとめて送るから…」

「そういう態度が一番ムカつく。価値ないんだよ、あんたの"ごめん"なんて。」

投げやりな司の声と、苛立ちを隠さない女の声。普段の俺が知っている司とは全然違う。あの司が、こんなふうに誰かとやり合ってるのを初めて聞いて、胸の奥がざわざわして、耳を塞ぎたくなる。でも、塞げない。聞きたくないくせに、聞かずにはいられない。

……なんで今なんだよ。

さっきまであんなに甘えて、あんなに求め合ってたのに。俺の知らない司の顔が、扉の向こうにある。その現実が、急に怖くなる。

俺はベッドの上で、司に着せられたTシャツの裾を握りしめたまま硬直していた。それと同時にこのベットの上にいる自分が、とても滑稽に思えて恥ずかしくもなった。

扉の向こうの口論はさらに激しさを増し、女の声が一段高く跳ねる。

「荷物!寝室にあるの!クローゼットに入れてある。」

「俺が取ってくる」

「自分でやるからいい!」

「いいって」

「なんで!?」

「……」

「ああ、そういうこと?」

嫌な沈黙のあと、女の声が鋭くなる。

「またセフレでも連れ込んでんの?連絡返さないのも、忙しいなんて言い訳も全部嘘だもんね。結婚の約束までしといて浮気しまくってたもんね。」

「違うって」

「違う? あんたの“違う”なんて信じる要素ないんだけど。」

彼女の怒りは完全に解き放たれた。

「ヤれれば誰でも良かったってことでしょ!?私じゃなくてもよかったんだよね!?もういっそ……そう言ってよ……」

低く押し殺した声で始まったその台詞は、次第に熱を帯びていく。司はただ立ち尽くし、返事をするタイミングを見失っているように思えた。

「私がどんな気持ちで結婚の話したと思ってるの?」

「……落ち着けって、」

「司だって結婚考えてるって言ってくれたよね? あれ、どんな気持ちで言ったの?めんどくせーとか思ってその場凌ぎで言っただけ?なんで?なんでそんな……」

一歩踏み出すごとに、元カノの言葉は鋭さを増す。

「どの面下げて、私と結婚するつもりでいたの?」

「……待って」

司の喉が小さく動いたが、何も言葉は出てこない。

「初めから結婚する気なんてなかったくせに」

「……いや、そんなこと…は…」

「嘘つくなよ!!!」

彼女の声が玄関の空気を震わせる。きっと彼女は泣いていて、その悲痛な叫びが俺の心を冷たくしていくようで。

「……周りはみんな結婚したり、彼氏と幸せそうな子ばっかり。……私は? 私は今さら一人にされて……!」

「……」

「あんたは呑気に、女とセックスして楽しんでるんだもんね……!!許せるわけないでしょ!?やる事全部がクソなんだよ!」

吐き捨てるような最後の一言が、何故だか俺の胸に重く突き刺さった。彼女が言うように結婚なんて大切なこと、「なんとなく」しか考えていなかったのは事実で、浮気をしたのも……きっと本当なんだろう。

ドン、と何かが壁にぶつかる音。
次の瞬間、足音がこちらに向かって早まった。

「やめろ!」

司の制止が飛んだときには、もう遅かった。
寝室のドアが勢いよく開かれた。

視線がぶつかる。
目の前に立つのは、噂に聞いていた“元カノ”

整った顔が怒りで紅潮していたが、俺を見た瞬間、その表情がぴたりと止まる。

……男だと気付いたんだろう。

一瞬、何か言いかけて、でも言葉を飲み込み、顔をしゅんとさせる。

「あの、ごめんなさい……」

小さく謝ったのは、俺が男だから。俺がこいつに抱かれているなんて、きっと想像もしてない。胸が痛くて俺はそれを悟られないように必死だった。足早にクローゼットに向かう。俺は何も言えなくて部屋の隅に立ち尽くしている。彼女は荷物を乱暴に引き抜き、司の方に一度も視線を戻さないまま、靴音を響かせて玄関へ向かう。

去り際、低く、吐き捨てるように言った。

「最低だよ、あんたなんか……大っ嫌い」

玄関の扉が閉まった瞬間、家の中は嘘みたいに静かになった。

俺は、部屋の隅に立ち尽くしたまま動けなかった。今の一連の出来事の意味を、頭の中で必死に整理しようとする。でも、耳に残って離れないのはあの言葉だった。

"またセフレでも連れ込んでんの?"

胸が、ぐしゃりと潰れるみたいに痛い。好きになってしまったのが、よりによってこういう人間なんだって突きつけられた気がしたから。

司は、浮気や裏切りなんて、そんなことしない人間だと思ってた。いや……思いたかっただけなのかもしれない。

でも、あの投げやりな態度。否定しなかったこと。全部が、嫌な形で繋がっていく。だけど本当に少しだけ期待したんだ。全部元カノの勘違いであればいいって……

「……今の人…元カノ?」

司は短く息を吐いてから、視線を逸らし、低く答えた。

「……そう」

そのあまりに素っ気ない認め方が、逆に胸を締め付ける。

「……浮気…本当に……したのか?」

「……した」

その一言で、胸の奥がカサついた音を立てて崩れる。

「でも」

言い訳のような声が続く。

「セックスレスでさ、あっちが拒否してて……だからって、いいわけじゃないのは分かってるよ、ちゃんと」

「気持ちは分からなくもない」

自分でも驚くほど鋭い声が出た。司の言葉を、これ以上聞きたくなかった。

目を逸らし、顔を背ける。
司は何か言いかけたようだったが、結局黙り込んだ。

沈黙が、また部屋を満たす。
息の音と時計の針の音だけが、不自然に大きく聞こえた。

「分からなくないけど、俺もそうやって裏切られるのは嫌だ」

不安が、じわじわと胸の内側を侵食していくのが分かった。意を決して、もし付き合ったとしても、どうせいつかは女に流れるんだろう。あるいは浮気されて、捨てられて終わるんだろう。

「待って、慎……帰んないで…」

腕を掴まれたが、反射的に振り払った。

胸の奥で、恋心と嫌悪感がせめぎ合っている。司を失いたくないと思う一方で、触れられるのすら嫌だと感じてしまう自分がいる。

「……違うんだよ」

珍しく取り乱した様子で、司が言い訳を並べ始めた。

「浮気したのは、本気じゃなかった、あれはただ……気の迷いで……ダメな事なのは分かっ、」

「俺のことも、"本気じゃなかった"って飽きたら浮気すんの?俺をお前のものにしておいて、"気の迷いだった"って他の人にも同じ事するの?」

「そんな…っ」

「もういい。もう終わろ、全部なかったことにしよう。」

全部、耳に入れたくなかった。靴を引っ掛けるように履き、無言で玄関の扉を開ける。背中越しに司の声が追いかけてきたが……

俺はもう振り返らなかった。
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