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30.お小言と愚痴と提案
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トントントントン。
グツグツグツ。
トントントントン。
グツグツグツ。
ガタッ。
パッタン。
「ああいい匂いね、ショウ。」
シェルは濡れた髪をタオルで拭きながらダイニングテーブルの中央に置かれた椅子に腰を降ろした。
コトン。
すぐにシェルの前にカップに入ったコーヒーが置かれた。
シェルは置かれたコーヒーの香りを嗅いでから一口飲んだ。
「うーん。でも香りが今一歩よ、ショウ。」
「なら飲むな。」
克也はテーブルに三人分の朝食を用意するとシェルから一番遠い椅子に座ってからお箸を手に取って食べ始めた。
「そう言えばシータはまだ起きてこないの?」
「ああ、ピクリともしない。」
克也はそういうと湯気が立っているお味噌汁を飲んだ。
「まあ、あれだけの人数を治療したのだから仕方ないかしら。あら、いやだ。」
克也がシェルの声に顔をあげるといきなり何かが飛んできた。
思わず条件反射でそれを受け取った瞬間その塊から怒鳴り声が聞こえた。
「バッカモーン。なんで何日も連絡を寄越さんのだ。儂があれほど定時連絡をしろと言ったのに、なんで連絡してこない。おい、シェル。聞いているのか?」
ズッズズズズー。
いつの間に食事に手を付けたのかシェルはお味噌汁を飲み干していた。
すぐに空になったお椀を克也に渡してお代わりと告げた。
「俺はメイドじねぇー。」
克也はブツブツ言いながらも受け取った塊をシェルに渡すと席を立って台所からお代わりを持って来た。
「シェル。儂がどれほど勇者の剣と伝説の杖を持った人物の訓練に苦労しているのわかっておるのか?王都にも大分魔獣が増えて来て討伐する数が一気に増えておる。それなのにあいつら二人はいくら訓練してもいまだまったく魔力を扱うことがほとんどできてないんじゃ。むしろ最初より内容は悪化の一路を辿っている。だからじゃな・・・。」
ブラッドリイのお小言はいつの間にか二人の覚えの悪さへの愚痴に変化していた。
二人がブラッドリイの愚痴をBGMに食べ終えた頃やっとシェルが”北の砦”での魔獣殲滅の件をブラッドリイに報告した。
「お主の見解では魔獣の発生原因は何だと思うんだ?」
「私の意見は”黒の書”で作った魔力に感応した人間が変化した憑依現状ではないかと考えています。」
「戻すことは可能だと思うか?」
「ゼロではないと思いますがかなり難しいものではないかと考えています。」
「・・・。そうかわかった。」
二人の会話が終わった所で克也は二つブラッドリイに提案した。
「俺から一つお願いなんですが今回の件を裕也と朱里に言わないんでほしいです。」
「ほう理由は?」
「あいつらのことですから相手が魔獣じゃないと分かった時点で攻撃出来ないどころか・・・。」
「治そうとすると言いたいのか?」
「そうです。それと訓練必要ないと思いますよ。」
「はぁー何を言っとるんじゃ!」
物凄い声がダイニングに響き渡った。
「裕也の性格からして訓練じゃ絶対本気出せないし、むしろ朱里と一緒に最前線に放り込んだ方がすぐに剣を扱えるようになりますよ。」
「あら、なんでかしら?」
「あいつの中で守らなきゃならない人間は 朱里ですから彼女が危ないと分かれば本能でなんとかするからその方が剣の力を引き出せるんじゃないですかね。」
「でもそんなことすれば下手すれば瀕死の重症を負うかもしれないぞ。」
「それも心配してませんよ。二人の傍にはこの世界屈指の治癒士がいるんですからね。」
「ほう。いい案かもしれないな。」
ブラッドリイは自分の治癒士としての腕を褒められまんざらでもない声で髭を撫でた。
「ではブラッドリイ様。あとで”北の砦”に修復用の資材と人員の補充の準備もお願いします。」
「ああ、わかった。だがその件は王都を襲っている魔獣が片付いてからだ。」
「ええ、わかってます。」
三人の会話はそこで終わった。
克也は二人分の食器を片付け終えるとシェルに目の前にドンと籠に山盛りになったパンを渡された。
「じゃあこれを昨日のお子ちゃま達に届けて頂戴。」
「なんで俺なんだ?」
「だって午後にはここを出て王都に向かわないといけないでしょ。」
「それならシェルがいっても同じだろ。」
「だってまだ彼らは私の好みにはちょっと小さすぎるし、こわーい顔した女の子もいるじゃない。」
克也はブツブツ言い始めたシェルに諦め顔でパンが詰まった籠を持つと引き戸を開けてテントを出た。
今日はけっこういい天気だ。
気持ちよく馬を飛ばせそうだ。
そんなことを考えながら昨日彼らに出会った場所に向かった。
ほどなく克也がそこに近づくと小さな影に囲まれた。
「ほら、持っていけ。」
モーテと呼ばれた少年に克也は籠を渡した。
渡し終えて戻ろうとしてふとモーテの背中に声をかけた。
「もう食料がないなら北の砦があった方向に行け。今はもう魔獣はいないからな。」
ビクリとモーテの背中が克也の声に反応して後ろを振り向いた。
「それと落ちてる肉は食べるなよ。」
克也はそれだけ言うとその場を離れた。
彼等には何も聞こえなかったが上手く”北の砦”に辿り着けるといいなとその背に呟いた。
克也たちはそれからすぐにそこを離れ王都に向った。
途中幾つかの町を通ったがそれらはすでに魔獣に喰い尽くされていた。
克也たち三人は王都に向く途中に出会った魔獣はすべて殲滅した。
グツグツグツ。
トントントントン。
グツグツグツ。
ガタッ。
パッタン。
「ああいい匂いね、ショウ。」
シェルは濡れた髪をタオルで拭きながらダイニングテーブルの中央に置かれた椅子に腰を降ろした。
コトン。
すぐにシェルの前にカップに入ったコーヒーが置かれた。
シェルは置かれたコーヒーの香りを嗅いでから一口飲んだ。
「うーん。でも香りが今一歩よ、ショウ。」
「なら飲むな。」
克也はテーブルに三人分の朝食を用意するとシェルから一番遠い椅子に座ってからお箸を手に取って食べ始めた。
「そう言えばシータはまだ起きてこないの?」
「ああ、ピクリともしない。」
克也はそういうと湯気が立っているお味噌汁を飲んだ。
「まあ、あれだけの人数を治療したのだから仕方ないかしら。あら、いやだ。」
克也がシェルの声に顔をあげるといきなり何かが飛んできた。
思わず条件反射でそれを受け取った瞬間その塊から怒鳴り声が聞こえた。
「バッカモーン。なんで何日も連絡を寄越さんのだ。儂があれほど定時連絡をしろと言ったのに、なんで連絡してこない。おい、シェル。聞いているのか?」
ズッズズズズー。
いつの間に食事に手を付けたのかシェルはお味噌汁を飲み干していた。
すぐに空になったお椀を克也に渡してお代わりと告げた。
「俺はメイドじねぇー。」
克也はブツブツ言いながらも受け取った塊をシェルに渡すと席を立って台所からお代わりを持って来た。
「シェル。儂がどれほど勇者の剣と伝説の杖を持った人物の訓練に苦労しているのわかっておるのか?王都にも大分魔獣が増えて来て討伐する数が一気に増えておる。それなのにあいつら二人はいくら訓練してもいまだまったく魔力を扱うことがほとんどできてないんじゃ。むしろ最初より内容は悪化の一路を辿っている。だからじゃな・・・。」
ブラッドリイのお小言はいつの間にか二人の覚えの悪さへの愚痴に変化していた。
二人がブラッドリイの愚痴をBGMに食べ終えた頃やっとシェルが”北の砦”での魔獣殲滅の件をブラッドリイに報告した。
「お主の見解では魔獣の発生原因は何だと思うんだ?」
「私の意見は”黒の書”で作った魔力に感応した人間が変化した憑依現状ではないかと考えています。」
「戻すことは可能だと思うか?」
「ゼロではないと思いますがかなり難しいものではないかと考えています。」
「・・・。そうかわかった。」
二人の会話が終わった所で克也は二つブラッドリイに提案した。
「俺から一つお願いなんですが今回の件を裕也と朱里に言わないんでほしいです。」
「ほう理由は?」
「あいつらのことですから相手が魔獣じゃないと分かった時点で攻撃出来ないどころか・・・。」
「治そうとすると言いたいのか?」
「そうです。それと訓練必要ないと思いますよ。」
「はぁー何を言っとるんじゃ!」
物凄い声がダイニングに響き渡った。
「裕也の性格からして訓練じゃ絶対本気出せないし、むしろ朱里と一緒に最前線に放り込んだ方がすぐに剣を扱えるようになりますよ。」
「あら、なんでかしら?」
「あいつの中で守らなきゃならない人間は 朱里ですから彼女が危ないと分かれば本能でなんとかするからその方が剣の力を引き出せるんじゃないですかね。」
「でもそんなことすれば下手すれば瀕死の重症を負うかもしれないぞ。」
「それも心配してませんよ。二人の傍にはこの世界屈指の治癒士がいるんですからね。」
「ほう。いい案かもしれないな。」
ブラッドリイは自分の治癒士としての腕を褒められまんざらでもない声で髭を撫でた。
「ではブラッドリイ様。あとで”北の砦”に修復用の資材と人員の補充の準備もお願いします。」
「ああ、わかった。だがその件は王都を襲っている魔獣が片付いてからだ。」
「ええ、わかってます。」
三人の会話はそこで終わった。
克也は二人分の食器を片付け終えるとシェルに目の前にドンと籠に山盛りになったパンを渡された。
「じゃあこれを昨日のお子ちゃま達に届けて頂戴。」
「なんで俺なんだ?」
「だって午後にはここを出て王都に向かわないといけないでしょ。」
「それならシェルがいっても同じだろ。」
「だってまだ彼らは私の好みにはちょっと小さすぎるし、こわーい顔した女の子もいるじゃない。」
克也はブツブツ言い始めたシェルに諦め顔でパンが詰まった籠を持つと引き戸を開けてテントを出た。
今日はけっこういい天気だ。
気持ちよく馬を飛ばせそうだ。
そんなことを考えながら昨日彼らに出会った場所に向かった。
ほどなく克也がそこに近づくと小さな影に囲まれた。
「ほら、持っていけ。」
モーテと呼ばれた少年に克也は籠を渡した。
渡し終えて戻ろうとしてふとモーテの背中に声をかけた。
「もう食料がないなら北の砦があった方向に行け。今はもう魔獣はいないからな。」
ビクリとモーテの背中が克也の声に反応して後ろを振り向いた。
「それと落ちてる肉は食べるなよ。」
克也はそれだけ言うとその場を離れた。
彼等には何も聞こえなかったが上手く”北の砦”に辿り着けるといいなとその背に呟いた。
克也たちはそれからすぐにそこを離れ王都に向った。
途中幾つかの町を通ったがそれらはすでに魔獣に喰い尽くされていた。
克也たち三人は王都に向く途中に出会った魔獣はすべて殲滅した。
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