辺境の女領主、王家から婿をもらう

03.逃げ腰王子と猛獣系花嫁

　式は、シャルルが到着したその夜に行われた。

「ちょ、ちょっと待て！心の準備が……！」

「準備なら、もう整っている。お前は立っていればいい。」

「いや、そういう問題じゃなくてだな……！」

　シャルルの抗議もむなしく、辺境の古城で行われた婚礼は、あっという間に終わった。  
　気がつけば、彼は“辺境伯の婿”として、正式にこの地に組み込まれていた。

　そして、夜。

「さあ、夫よ。」

「ま、待て！俺はまだ……！」

「何を待つ必要がある？婚姻は済んだ。あとは、夫婦の務めを果たすだけだ。」

「いやいやいやいや、ちょっと落ち着こう！？ まずはお茶でも飲んで、自己紹介から始めようじゃないか！」

「お茶は明日でいい。今夜は……お前を味わう。」

「味わうって何！？ 俺は食材じゃないぞ！？」

　シャルルはベッドの端からじりじりと後ずさり、  
　エルは獲物を追う猛獣のような目で、ゆっくりと距離を詰めてくる。

「お前、逃げ足は速いのか？」

「やめてくれ！俺は繊細なんだ！王都ではもっと丁寧に扱われてたんだぞ！」

「ここは辺境だ。繊細な王子様には、少し荒療治が必要だな。」

「誰かー！アルー！助けてくれー！」

　扉の外で聞き耳を立てていたアルは、そっと耳を塞いだ。

「……シャルル様、がんばってください。」
　アルは祈るような気持ちで扉の前で両手を組んだ。
　神様、どうかシャルル様をお守りください。