辺境の女領主、王家から婿をもらう

しゃもん

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18.戦支度は密やかに

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「エム。」

「は。」

 エルは、窓の外に広がる雪景色を見つめながら、静かに言った。

「王都がシャルルを外交の駒にするというのなら、  
 こちらも“駒”を動かす時だ。」

「……ご命令を。」

「隣国との戦争の準備を始めろ。  
 このまま黙って奪われるつもりはない。  
 あの国ごと、落としてやる。」

 エムは一礼し、すぐに動き出した。

 

 数日後、砦の地下。  
 そこは、かつての戦で使われた兵站倉庫。  
 今は静まり返っていたが、エムの命で再び灯がともる。

「まずは、兵の再編成を。  
 前線経験者を中心に、冬季戦闘に耐えうる部隊を選抜。  
 補給線は、山岳地帯を避けて南回りに構築。  
 鍛冶場には、武具の増産を命じてください。」

「はっ!」

「民兵の訓練も再開します。  
 “防衛訓練”の名目で、週三回。  
 必要なら、シャルル様の顔も借りましょう。」

「了解!」

 エムは、淡々と指示を飛ばしながら、ふと立ち止まった。

(……エル様。あなたは、どこまで見えているのですか)

 

 その夜、エムはエルの執務室を訪れた。

「準備は順調に進んでおります。  
 ただし、冬の間は大規模な進軍は困難です。  
 実際の開戦は、春以降になるでしょう。」

「それでいい。  
 春には私も動けるようになっている。」

 エルは、丸くなったお腹をそっと撫でた。
「この子が生まれる頃には、すべてを終わらせる。  
 王都の思惑も、隣国の野心も、全部。」

「……承知しました。」
 エムは一礼し、静かに部屋を後にした。

 その背中には、冷静な副官としての顔と、  
 長年仕えてきた者としての、決意が宿っていた。
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