14 / 14
14. イチカの冒険
しおりを挟むルールーはイチカの訓練の様子を見ながら、ぽつりと呟いた。
「そろそろ本格的な実践訓練を行っても大丈夫そうねぇ。」
ちなみに、ルールーの隣にいた男はその言葉を聞いて青ざめた。
まさか、あのガキどもに砦の外で訓練させる気なのか?
いくらなんでも無謀だろう。あいつらが魔獣に殺されちまう!
――イチカ。
ルールーが初めてイチカと出会ったとき、彼女の髪は老人のようにパサついた白髪だった。
あまりに酷い状態に、ルールーはイチカをこんな目に遭わせた人物を全員、その場でひねり潰してやろうかと思ったほどだ。
でも今は違う。白髪だった髪は、少しずつ艶のある黒髪へと戻ってきていた。
その姿は、イチカのご先祖である“あの人”を思い起こさせた。
数分間、感傷的な気分に浸っていたルールーだったが、すぐに記憶を現実《いま》に引き戻し、これから行う実践訓練の内容をどうするか、顎に手を当てて考え始めた。
訓練場の端では、イチカたちが一生懸命に剣の訓練をしていた。
「イチカ、今度は攻守交代して訓練しようぜ!」
ルールーに命じられてイチカと組んでいたベーは、両手に木剣を構えると、勢いよく斬りかかった。
「ベー、ずるいぞ! まだ私が攻撃する側のはず!」
「そんなことはない! 今度は俺の番だ!」
二人は怒鳴り合いながら、何度も攻守を入れ替えて戦闘訓練を続けていた。
その様子を遠くから見ていたルールーは、砦の外に意識を向けるように目を閉じ、探索魔法を放って魔獣の位置を探った。
――これくらいの数なら、あの二人でも大丈夫ね。
でも一応、数人は護衛につけておこうかしら。
そう独り言を呟いたルールーは、目の前で走り込みをしていた男たちの中から一人に視線を向け、手招きした。
「ルー様。何かご用でしょうか?」
男はルールーの前で両手を後ろに組み、背筋を伸ばして命令を待った。
「今、砦には何人の動ける兵士がいるかしら?」
「26名が常時動ける状態で常駐し、24時間体制で対応に当たっております。」
「26名ね。今の状態なら、4名抜けても問題ないわね?」
「もちろんです。抜けても問題ありません。」
「では、その4名とベーとイチカを1グループとして、外にいる魔獣の討伐に向かわせなさい。4名の選抜はあなたに任せるわ。」
「了解しました。」
男は直立不動のまま返事をすると、先ほどまで走っていた兵士たちのもとへ向かい、屈強な兵士を4名選び出して戻ってきた。
「ルー様。お呼びにより参りました。」
4名の男たちがルールーの前に整列した。
「じゃあ、これから1時間後に城門前に集合ね。」
ルールーの言葉に、4人の兵士は敬礼すると、すぐにその場を離れていった。
「まあ、最初はこんなものかしらね。」
ルールーは、まだ訓練を続けているイチカとベーのもとへ歩み寄った。
彼女が近づいてくるのに気づいた二人は、すぐに訓練をやめて剣を下ろし、ルールーに視線を向けた。
「これから二人には、魔獣討伐をしてもらうから。そのまま城門前に向かってね。」
「「魔獣討伐!?」」
思わず二人して声を揃えて叫んだ。
――今、“魔獣”って聞こえたけど……空耳よね?
イチカは隣にいるベーを見た。
ベーは青ざめた顔で固まっている。
――ハハハハハ……どうやら本気らしい。
魔獣討伐。
――ハハハハハ、ウソでしょ!
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
デネブが死んだ
ありがとうございました。さようなら
恋愛
弟との思い出の土地で、ゆっくりと死を迎えるつもりのアデラインの隣の屋敷に、美しい夫婦がやってきた。
夫のアルビレオに強く惹かれるアデライン。
嫉妬心を抑えながら、妻のデネブと親友として接する。
アデラインは病弱のデネブを元気付けた。
原因となる病も完治した。それなのに。
ある日、デネブが死んだ。
ふわっとしてます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる