復讐という料理は、冷えた時の方がおいしいのよ!

しゃもん

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62.だれ、ですって!

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 戦闘は、それから丸三日、休みなく続いた。

 私たちも、戦争が終結するまで、休憩しながら、彼らと一緒に戦った。

 ダン王子は、なんでか、私が出陣する度に、かなりご機嫌斜めになっていたが、私には、その理由がわからなかった。

 それに対して、同じように、この戦いに参戦していたヴォイとレッドは、魔法を使える私が加わることを、もろ手を挙げて、喜んでくれた。

 そしてもっとも、それを喜んでくれたのは、ストロング国の英雄であり、かつては、この国の王であった銀獅子様だった。

 彼の王と一緒に、私はたびたび前線に出て、ヴォイと二人で、魔法を派手に敵に飛ばした。

 前世でいう大砲並みの魔法を、交互に飛ばすことで、戦況はみるみるうちにこちら側に有利に動き、思った以上に、早く決着がついた。

 私たちは、三日後。

 敗走を始めた敵を蹴散らしながら、彼らが占拠していたマイルド国の王都に向け、その破竹の勢いで進軍した。

 敵は、私たちの前に、陣形を立て直して、反撃することもなく、すぐに諦めて王都を放棄した。

 私たちは、そのまま王都に入場した。

 敵は逃げる間際まで、略奪の限りを尽くしたようで、城壁の中の建物は、とても酷い状態だった。

 私たちは、そんな街中を通り過ぎ、王宮を目指した。

 そこも、一歩、建物の中に入ると、街と同じような状態で、壁の装飾すらも見事に剥ぎ取られていた。

 もっとすごいのは、街ではそれほど見なかった死体が、ここでは、そこらじゅうに山積みになっていた。

 その中には、この国の貴族や王族が無残に斬り殺されていた。

 王宮の奥に進むと、逃げようとしたのか、誰かを引きずったような血の跡が、べっとりと廊下についていて、その先には、見せしめに殺したのだろうか。

 常軌を逸したようなバラバラになった死体もあった。

 もう、王宮で生きているものは、残っていないのでは、と誰もが思った。

 それでも、そんな中、レッドとダン王子の指示の元、ストロング国の兵士は、助かったものがいないか、敵が潜んでいないかを、一部屋、一部屋、丁寧に調べていった。

 すると、誰も生き残った者がいないと思われていた王宮で、敵に乱暴されながらも、なんとか息のある女性を数人、見つけ出すことができた。

 慌てて、破壊をまぬがれた部屋に、急ごしらえの救護室を作ると、私とヴォイは、彼女たちの傷を魔法で治療し始めた。

 酷いケガだ。

 同じ女性としては、思わず、顔をそむけたくなるほどの無残な傷が、体中にあった。

 そうして治療をしていると、ざわざわとした兵士の声が、聞こえてきたかと思うと、奇跡的に、ほとんど無傷の男女が、ここに連れられてきた。

 思わず、その男女の顔を見てしまった私は、その場で固まった。

 なんで、あいつらだけが、無傷で生きているの?

 思わず立ち上がった私は、彼らの前に立ち塞がった。

 すると、二人のうち、王太子妃である彼女が、立ち塞がった私に目線を向けると、ぼんやりと見つめてきた。

 そして、不思議そうな顔で、一言。
「だれ?」

 誰ですって!

 あまりのことで、呆然とした。

 本当に覚えていないの?

 そんなわけは、ない。

 だって、私は、あれから、一度も忘れていないのだから。

 私が怒りのあまり、その場に棒立ちになっていると、寸前まで、私が治療していた女性が、私の後ろで立ち上がると、机に置いてあった治療用の短刀を手に取り、無傷の彼女に、突然襲いかかった。

「お前のせいで、お前のせいで、この国は襲われたのよ。それなのに、なんで、お前たちは、生きているの?」
 まだ傷だらけで、フラフラだったはずの女性とは思えないほどの力で、ミエ王太子妃に襲いかかり、馬乗りになると、彼女は手に持った治療用の短刀を、振り下ろそうとした。

 何度も何度も、喚きながら、それを振り下ろそうとするが、意外にも相手の抵抗が強くて、お互いもみ合いになった。

「おい、やめろ!彼女は、王太子妃なんだぞ。」
 傍にいた王太子が、慌てて助けに入ろうとするが、逆に彼女に短刀で斬りつけられた。

 頬に、真っ赤な血が飛び散った。

 ギャー!

 ものすごい悲鳴があがった。

「おい、何をしている?」
 私の脇にいた兵士が我に返って、短剣を傷だらけの女性の手から取り上げた。

 ちょっと虚をつかれて、動けないでいた私の代わりに、横からヴォイが、短剣を振りかざそうとした、女性に近づくと、彼女を魔法で眠らせ、ベッドに運ぶ。

 すぐに手を翳して、残っていた傷を、私の代わりに治療した。

 その間も、小さな傷を頬に負った王太子が、俺を先に治せと、傍で喚いていた。

 こんな男だったろうか?

 しばらく見ないうちに、私の中にあった王太子像は、かなり美化されていたようだ。

 改めて、本物を見て、ゲンナリした。

 そんなことを考えていた私の横で、ミエ王太子妃は、その女性を憐れんだ目で見ると、ポソリと呟いた。

「可哀想に、気が狂ってしまったのね。」

 彼女の他人事のなんだという言葉を聞いた私の方が、思わず、彼らに襲いかかりそうになるが、そこに現れたダン王子により、王太子夫妻は、別室に連れて行かれた。

 私は、復讐すべき二人を、別室に運んで行ったダン王子の後姿を、憎々し気に睨んだ。

 あいつらをどうすつもりなの?

 私は、彼が戻ってくると、”彼らをどうするつもりかと”思わず問いつめた。

 そんな私の肩を、ポンと叩くと、彼はどんでもないことを言いだした。

「それは秘密だ。だけど、明日には、びっくりすることが、わかるよ。」
 彼には珍しく、黒い笑顔を浮かべた。

 明日?

「明日に何があるの?」
 私は、何度もしつこく尋ねるが、意外に口が堅く、最後まで、教えてくれなかった。

 翌日、宣言通り、私は度肝を抜かれる怒涛の展開に、襲われることになった。
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