4 / 5
第四章:迫る群れ、揺れる砦
しおりを挟む
夜半。
砦の鐘が、けたたましく鳴り響いた。
その音は、訓練生も騎士も、眠りを忘れて駆け出すほどの緊急性を帯びていた。
「魔獣の群れが、南の森から出現! 数は不明、しかし…規模が…いままでみたことがないくらいの数です!」
見張り台からの報告に、砦中がざわめく。
レイはすでに鎧を身にまとい、砦の中央広場に立っていた。
そのとき、馬の蹄音が響く。
泥にまみれた伝令兵が、息を切らしながら駆け込んできた。
「辺境伯閣下より伝令!
“南方の第二防衛線が突破された。魔獣の主群が北上中。
砦は持ちこたえよ。援軍は三日後に到着する”――以上!」
「三日後…!?」
誰かが叫ぶ。
「そんなに持つわけないだろ! こっちは訓練生と予備兵ばっかだぞ!」
「静かにしろ。喚いてもなにも変わらん。」
レイの声が、全員の動揺を断ち切った。
「砦は落とさせない。ここが崩れれば、背後の村が危ない。
私たちが、止めぞ」
その言葉に、訓練生たちは息を呑んだ。
だが、すぐに別の声が飛ぶ。
「おい、王都の貴族様たちはどうするんだ?
まさか逃げるんじゃねぇだろうな?」
ガルドの視線が、アレクたちに突き刺さる。
「逃げるつもりなら、今のうちに言えよ。
足手まといは、いらねぇからな。」
アレクは一歩前に出て、静かに剣の柄に手をかけた。
「我が剣は、王国のためにある。
この砦が落ちれば、王都も無事では済まぬ。
ならば、ここで戦うのが当然だ。」
「へぇ、やっと本気出す気になったか。」
ミヒャエルがにやりと笑う。
「じゃあ俺も、隊長の横で暴れさせてもらうよ。」
「……勝手に決めないでほしいなぁ。」
レイが呆れたように言うが、その声に棘はなかった。
「私の指示に従うというなら、歓迎しよう。
だがこれは“訓練”じゃない。生きるか死ぬかの戦いだと肝に銘じろ。」
そのとき、ティナが駆け寄ってきた。
「隊長、負傷者のための治癒班は、私がまとめます。
でも…お願いです、誰も死なせないでください。」
レイはティナを見つめ、物騒な笑みを浮かべた。
「誰も死なせるなか。なかなか難しい注文だな。だが剣に最善を尽くすと誓おう。では行くぞ。」
「おう」
集まった訓練生と予備軍たちがレイの声にこたえてこぶしを上げた。
砦の空に、再び警鐘が鳴り響く。
遠く、森の向こうから、地鳴りのような咆哮が聞こえた。
魔獣の群れが、迫ってきた。
砦の鐘が、けたたましく鳴り響いた。
その音は、訓練生も騎士も、眠りを忘れて駆け出すほどの緊急性を帯びていた。
「魔獣の群れが、南の森から出現! 数は不明、しかし…規模が…いままでみたことがないくらいの数です!」
見張り台からの報告に、砦中がざわめく。
レイはすでに鎧を身にまとい、砦の中央広場に立っていた。
そのとき、馬の蹄音が響く。
泥にまみれた伝令兵が、息を切らしながら駆け込んできた。
「辺境伯閣下より伝令!
“南方の第二防衛線が突破された。魔獣の主群が北上中。
砦は持ちこたえよ。援軍は三日後に到着する”――以上!」
「三日後…!?」
誰かが叫ぶ。
「そんなに持つわけないだろ! こっちは訓練生と予備兵ばっかだぞ!」
「静かにしろ。喚いてもなにも変わらん。」
レイの声が、全員の動揺を断ち切った。
「砦は落とさせない。ここが崩れれば、背後の村が危ない。
私たちが、止めぞ」
その言葉に、訓練生たちは息を呑んだ。
だが、すぐに別の声が飛ぶ。
「おい、王都の貴族様たちはどうするんだ?
まさか逃げるんじゃねぇだろうな?」
ガルドの視線が、アレクたちに突き刺さる。
「逃げるつもりなら、今のうちに言えよ。
足手まといは、いらねぇからな。」
アレクは一歩前に出て、静かに剣の柄に手をかけた。
「我が剣は、王国のためにある。
この砦が落ちれば、王都も無事では済まぬ。
ならば、ここで戦うのが当然だ。」
「へぇ、やっと本気出す気になったか。」
ミヒャエルがにやりと笑う。
「じゃあ俺も、隊長の横で暴れさせてもらうよ。」
「……勝手に決めないでほしいなぁ。」
レイが呆れたように言うが、その声に棘はなかった。
「私の指示に従うというなら、歓迎しよう。
だがこれは“訓練”じゃない。生きるか死ぬかの戦いだと肝に銘じろ。」
そのとき、ティナが駆け寄ってきた。
「隊長、負傷者のための治癒班は、私がまとめます。
でも…お願いです、誰も死なせないでください。」
レイはティナを見つめ、物騒な笑みを浮かべた。
「誰も死なせるなか。なかなか難しい注文だな。だが剣に最善を尽くすと誓おう。では行くぞ。」
「おう」
集まった訓練生と予備軍たちがレイの声にこたえてこぶしを上げた。
砦の空に、再び警鐘が鳴り響く。
遠く、森の向こうから、地鳴りのような咆哮が聞こえた。
魔獣の群れが、迫ってきた。
0
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる