神殿ぶっ壊したら、前世ごと忘れました

しゃもん

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第五章:戦闘の第一波 ――“黒い影”

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 夜明け前。  

 空はまだ暗く、霧が地を這っていた。  
 だが、森の向こうから聞こえる“地鳴り”が、確実に近づいてくる。

「来るぞ――全員、配置につけ!」

 レイの号令と同時に、砦の防壁に火が灯る。  
 弓兵が矢をつがえ、魔法兵が詠唱を始める。  
 訓練生たちも、震える手で剣を握りしめていた。

 そして――

 森の影から、**黒い波のような魔獣の群れ**が現れた。  
 狼のような四足獣、羽根の生えた蛇、甲殻に覆われた巨体の虫――  
 そのどれもが、目を赤く光らせ、狂気の咆哮を上げて突進してくる。

「第一列、矢を放て!」

 レイの声が響き、矢の雨が夜空を裂いた。  
 数体の魔獣が倒れるが、群れは止まらない。

「第二列、魔法展開! 火属性、前方に集中!」

 炎の奔流が放たれ、前線が一瞬だけ明るく照らされる。  
 だが、炎をものともせず突っ込んでくる魔獣もいる。

「接近戦、始まるぞ! 剣を構えろ!」

 砦の門前で、ついに激突の音が響いた。

 砦の門前で待ち構えていたガルドは背中の剣を抜いた。
「来いよ、化け物どもォ!!」

 ガルドは大剣を振り回し、扉の門から入ってくる魔獣を次々となぎ倒していく。  
 その背後からは、先ほど食堂にいた訓練生たちが続いた。

「ガルド、右から来てます!」

「分かってる! そっちは任せた!」

 彼の動きは粗削りだが、実戦慣れした迫力があった。

 
 砦の北側の門の近くでティナの護衛をしていたミヒャエルは、空から降りてくる魔獣に気が付いた。
 
「ティナ、後ろに下がれ!」

 ミヒャエルは双剣を抜き、風の魔法で加速しながら降りてきた魔獣をしたから切り裂いた。  
 一撃で仕留められない魔獣には、風の」斬撃で羽を切り裂いて動きを封じる。

「隊長、左翼が薄い!俺が 援護に行く!」
 アレクはレイにそういうと駆け出した。

「いいだろう。だが無理はするな。」
 聞いていないな。
 レイはかけていくアレクの背中をみながら、今回の王都組はなかなかいい人材がいるなと感心していた。

 今まで辺境にきた王都組は魔獣に対戦するまでに早くても一か月以上かかっていた。
 それに比べて彼らはほとんどついたばかりなのに魔獣に臆することなく対峙できている。

 最悪、彼らを庇いながら戦闘することになると思っていたので、いい意味の誤算だ。

 ゴォー

 黒い魔獣の気が風に乗ってさらに強く流れてきた。

 大物がいるな。
 3人組を気にするんじゃなく目の前の敵に神経を集中させなければ。
 レイは持っていた剣をぎゅっと握りなおした。


 ーーー  ティナの覚醒

 負傷者が次々と運び込まれる中、ティナは必死に治癒魔法を使い続けていた。  
 だが、ある瞬間――

「うっ……!」

 彼女の手から、**淡い金色の光**があふれ出す。  
 その光は、触れてもいない兵士の傷を癒し、周囲の者たちを驚かせた。

「な、なんだこの魔力…!」

「ティナ、無理するな!」  
 ミヒャエルが駆け寄る。

「大丈夫…私、もっとできる。もっと、癒せる…!」

 その瞳に宿る光は、まるで“神の祝福”のようだった。

 ーーー 

 そして、砦の中央では――  
 レイは、黒い剣を手に、魔獣の中でも異質な気配を持つ“黒い気配”と対峙していた。

「……お前は、魔獣なのか」

 その“黒い気配”は、まるで人のような目でレイを見つめ、低く唸った。

「……知っているぞ。お前はお前の過去を知っている。」

 レイの瞳が見開かれる。

「……ほう、“黒い気配”だけのくせに何をわけにわからんことを。」

 だが、“黒い気配”からは答えは返らない。  
 “黒い気配”は咆哮とともに跳びかかってきた。

 レイは剣を構え、静かに息を吐いた。

「なら、斬るしかない」

 黒い剣が、夜の闇を裂いた。
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