【完結】異世界で急に前世の記憶が蘇った私、生贄みたいに嫁がされたんだけど!?

長船凪

文字の大きさ
5 / 13

まだあきらめないで。

しおりを挟む
 夜中にトイレに起きたついでに、城の図書室へ行った帰りの事。

 ゴホッ、ゴホ……ッ。
 廊下から苦しそうな咳の音が聞こえた。

 7歳くらいの女の子だ。使用人の子が風邪をひいているのかな?
 あ、ヒューヒューという喘鳴も聞こえた。
 て、事は、風邪というより喘息かな?

 冬は喘息持ちには辛いよね。冷たい空気吸い込むだけで咳が出るし。

「咳が辛そうね、あなたの部屋は遠いの?」

 ゴホゴホと咳込み、少女は頷いた。

「あ、あのお部屋灯りがついてて起きてる人がいるみたい。
あそこが近いし、暖炉の側にいさせて貰いましょう。
咳が和らぐ飲み物を持って来てあげる」

灯りの点いていた部屋は針子の部屋で、遅くまで縫い物をしていたようだった。

「ごめんなさい、ちょっとだけこの子、暖炉の側にいさせてあげて、急いで咳止めを持って来るから」

 ゴホゴホと涙ぐんでいる女の子を見て、針子も了承してくれた。

 私は走って離れのキッチンに戻り、牛乳を温めて、ホットミルクを作って針子の部屋に戻った。

「はい、温めた牛乳よ、湯気を吸い込みながら飲んでみてね」
「あ……ゴホッ!」
「無理して喋らなくていいから、ゆっくり、焦らずに飲んで」

 コクリ、静かにホットミルクを飲む子供の咳は落ち着いて来た。
 夜に子供が廊下を彷徨いていたのは、トイレに起きたのか、喘息の咳が苦しくて大人を頼りに来たのかな?

 前世にあったお薬のレルベ○でも持ってたらあげたいけど、無いしな。
 こっちの咳止め薬はどんな物かしら。
 今度お抱えのお医者に聞いておこう。

「あ、ありがとう。お手洗いに行ったら、咳が酷くなって」

 やっぱりトイレに起きたのか。

「大人になってもその咳が出るのが治らないようなら、貴方、将来は暖かい地域でお仕事するか、お嫁に行った方がいいかもね。
遠くに行くのは寂しいかもしれないけど……。
とりあえず早く温かいお部屋に戻りなさい。また咳が酷くなってしまう前に」

「……お姉さんも遠くから来たの? 寂しい?」
「いいえ、ここの人は故郷の人より優しいから、私は平気よ」

 お姉さん呼ばわりという事は、おそらくは私が辺境伯の妻になる為に嫁いで来た者だと気がついて無いようだ。
 
 私は自分が着ていた赤いショールを女の子に手渡した。

「これ、返さなくていいから、自分のお部屋まで着て行きなさい」
「わ……」

 女の子はショールの柔らかい感触に瞳を輝かせた。

「あ、可能ならお母さんに胡麻料理を毎日作って貰って食べなさい」
「ゴマ?」
「分からないなら大人に聞いてみて、厨房の人とか」
「はい」

 私は自分の肩にかけていた温かいショールを子供にかけてあげて、針子にもお礼を行って、離れに戻る事にした。

 昔見たTVに出てた喘息体質の人、大好きなゴマを食べまくってたら勝手に治ったって言ってたのよね。
 しっかりとしたエビデンスがあるかは分からないけど、どの道ゴマは健康にいいはず。
 咳に効かなくても、髪には黒ゴマがいいと見た事があるような。
 とにかくなんでも試してみたら、たまたま体質に合うのが見つかる可能性は有る。

 私で良ければあの子にゴマ料理を食べさせてあげたいけど、ああいった物は継続して食べないと多分無駄だから、親に用意してもらう方がいいよね。


 私は離れの玄関の扉を開けて、室内に戻った。

「奥様、こんな時間にどちらへいらしていたんですか?」

 やばい、バタバタしたせいでメイラを起こしちゃったかな。

「えっと、読み終えた、借りてた本を返して来て、新しい本を借りて来たの」

 私は腕にあるカゴバッグから本を取り出して見せた。

「何もこんな夜中にご自分で行かれずとも、命じてくだされば」
「お手洗いに行ったら寒くて目が覚めたついでなの」
「ああ、目が覚めたついでにでしたか。それにしてもそんなに薄着では風邪をひきますよ」

「さっきまでショールをしてたのだけど、咳をしてた使用人の子らしき女の子にあげちゃった。
この離れの棚に置いてあった赤いショールだったけど、まずかったかしら?」

「いいえ、奥様の為に用意された物ですから、ご自由にされて大丈夫です」

 私はテーブルの上のカゴを見て言った。

「カゴの中に暇つぶし用にか、毛糸も置いてあるから、またショールを編めばセーフ、いえ、いいわよね」

「ご自分で編まれなくても買ってもいいのですよ」
「それは……そうね」
「どちらかと言うと、貴族の女性は刺繍の方がいいのではありませんか?
旦那様に刺繍入り御守りのハンカチをお渡しになるとか……」
「ああ、なるほど」

 テオドール様は魔獣退治とか危険な任務をされているから、御守りがあった方が……。
 いや、呪われて死にそうなのは私の方では?
 なんか縁起の良さそうな物でも縫ってみようかな。

 呪いというのはいつ頃発動するのかな?
 結婚式の後かしら……? 今のところなんとも無いあたり……。

 テオドール様、本人に呪いの事を聞くと心の傷を抉りそうであれだけど、使用人に聞いてみようか。

「そもそもなぜこの家門は呪われたのか、メイラは知ってる?」
「……え、あの……先代の辺境伯がこの国で悪さをしていた黒魔術師と魔女を倒したのですが……先に黒魔術師を倒したら……ま、魔女に呪われた……そうです」

 メイラは話しにくそうにしていたが、ちゃんと話してくれた。
 顔色は蒼白になってしまった。ごめんね、怖い事を聞いて。

「あー、魔女の呪いでしたか……」

 人間の女の怨念もバカに出来ないものね……。

「そ、それで、旦那様の奥様は気を病んでしまい、次々と儚くなってお亡くなりになったそうです。
これは前に奥様付きとして働いていたメイドから他のメイド間で伝え聞いた事で、私はその様子を、見ていないのですが」

「前に働いていたメイドさんは?」
「仕えていた奥様が気を病んで亡くなってしまったので、ショックを受けて、辞職したそうです」

 あ、もしやそれで最低限の使用人しか付けてないのかも。

 この離れ、実は私の直属メイドがメイラしかいない。
 辺境伯夫人になる人間の直属が少ないのがやや疑問だったんだけど、なんとなく分かったような気になった。

 主人を亡くしてダメージを受ける人は少ない方がいい的な意味で。
 本人には理由を聞いてないから想像でしかないけど。

 いや、一人で大抵の事は出来るから、少なくていいんだけどね。
 ヘアアレンジ系はやや難しいけど。
 アレンジしなければいい。
 パーティーに行く予定も無いから。


 * * 

 ついに結婚式の前日が来たので、テオドール様が夕食後に離れに尋ねて来た。
 人払いをした上で、深刻そうな顔をしている。

「もし、逃げるなら、今日が最後の機会だ、もし、其方が逃げたいのなら……この夜陰に乗じて」
「え? 王命ですよね。そんな簡単には逃げられないのでは」
「其方が死んだ事にすれば、捜索はされないだろう」
「でも王があなたの血をひく子を諦めなければ、また他の令嬢を送り込んで来るでしょう?」

 他の令嬢が生け贄になる。

「もう、妻が死ぬのを見たくない。そろそろ自分の娘を売り飛ばす貴族もいなくなったのではないかと」

「いやいや、甘いですよ、そんな親はいくらでもいますよ。
あまり人間の善性を信じ過ぎないでください。
困窮してる貴族もわりといるので。
正妻の子が難しくても、妾の子とか、色々いるでしょうし」

「やはり、ダメか、寝室を別にしようと離れを作っても、白い結婚にしても妻に侮辱するなと怒られただけで、結局呪いは発動した」

 あ、離れがあったのは、呪いから妻を守ろうとしたんだ。
 あの手この手で自分の妻を守ろうと、足掻いていたんだ。

 私を愛さない発言も、愛すと心に深刻なダメージを受けるからか。
 きっと……優しい人なんだ。

 それにしても、体を重ねない白い結婚でも、ダメだったとは……。
 婚姻の儀式だけで発動するのかも……。
 明日が結婚式だから、本当に今夜が逃げるなら、ラストチャンスなんだ。

「呪いは死ぬ前に魔女がかけたと聞きました。
呪いの相手が神ではないのなら、人であるなら、私もある程度争ってみようと思います」
「悪夢を見るぞ……」
「呪いは悪夢だけですか?」
「……いいや、他にも有る」

 ……まだそこまでは言えないみたい。

「でも、私は実家には帰りたくないので、ここで頑張りたいです。
せっかく優しい人にも出会えたので。私が死んでもあなたのせいではありません。
私が残ると決めたので」

「……随分、強い人だ」

「いっぱい、打たれて来たので」

 クソ家族にも踏みつけられてきました。

「……誇れる事では無いような」

 テオドール様は、眉間に深い皺を刻み、諦めたようにため息を吐いた。
 どうせ王命が発動すると、またどこぞの女性が送られてくるから、仕方ないよ。

「この領地の立場が悪くならないようにする為にも、私を置いておいた方がいいです」
「分かった……」

 テオドール様は悲しげな瞳をしてる。
 いつか、この人の晴れやかな笑顔も見てみたいな。
 夫婦間の愛など無くても、幸せにしてあげたいと思ってしまう。

 恋じゃなくても、心の穴を塞ぐような温かい何かが有ればいい。

 ──神様、どうか、私の願いを叶えてください……。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

処理中です...