94 / 392
2[ヴィル]
突入
しおりを挟む
「一体、なぜスルトが……」
言いかけた瞬間、ポケットの中の魔道具が震えた。
部屋の中からリアが助けを求めている。
「リア!」
すぐさま扉のノブに手を掛けた。
しかし、開いているはずの鍵が掛かっている。
扉が開かない。
ガチャガチャと動かすうち、手の平に魔法鍵の感触が伝わってきた。
「あのクソ野郎! 扉に細工をしやがった! アレン、開錠を手伝え!」
「了解」
「一班! イドレを捕らえろ!」
「はい!」
「四班! 左右の部屋が使えるか確認しろ!」
「承知しました!」
「五班と六班! 馬車を回して先に侍女と従者を乗せろ。リアを乗せたら直ぐ出発できるよう準備しておけ!」
「了解っ!」
後ろから声がした。
「団長、イドレがいません! 鞄などの荷物もありません」
「まだ遠くへは行っていないはずだ。周辺を捜索しろ!」
「了解!」
どこへ逃げようと、奴は既に隠密に追跡されている。
しかし、合法的な追跡で捕まるならそのほうが良い。
「第三騎士団の連絡係はまだ残っているか!」
「二名おります!」と野太い声が聞こえた。
「団長に伝令! 緊急配備を要請する。文官マヌエル・イドレを謀反の罪で生け捕りにしろ!」
「はっ!」
「フィデル! 各所に伝令を出せ!」
「分かった。第一騎士団より特務師団へ、第三と同内容で伝令!」
「はい!」
「第一騎士団より宰相へ、王宮内でスルト家による神薙襲撃事件発生中。イドレの謀反とあわせ、それぞれ一族の捕縛を要請する!」
「承知しました!」
「第一騎士団よりエムブラ宮殿へ……」
フィデルが次々と連絡を飛ばし始めた。
多少落ち着いてきていた胃の中が、再びグラグラと沸騰する。
魔法鍵が開錠できない。
アレンと二人掛かりで外そうとしても、猛烈にややこしい術式が幾重にも掛けられていた。
「くそっ、なんなんだこの鍵は!」
「団長、これは後で開けることを前提として掛けられた鍵ではなさそうです」
左右の部屋を確認しに行っていた団員が戻ってきて、両脇の部屋も同様に魔法鍵が掛かっていると言った。
「隣もめちゃくちゃな鍵です。開錠を試みますか?」
器用なアレンでも手こずるほどの魔法鍵は、時間稼ぎが目的だろう。
中で何をしようとしているか容易に想像がつく。冗談じゃない。
「開錠は無理だ。扉を壊す!」
扉を破壊する準備に取り掛かろうとしたとき、中から微かにリアの悲鳴が聞こえた。
「リア様!」
「リア!」
全身の毛が逆立ち、血が沸騰して逆流した。
途方もない怒りと共に、得も言われぬ後悔が押し寄せてきた。
「彼女を人質に取られる。俺は外から入ります! こちら側に注意を引きつけてください!」
「頼むから落ちるなよ。アレン、窓から突入して背後を突け! そこの三人、アレンの援護! 急げ!」
「はいっ!」
「四班、この部屋の窓の下で待機しろ。仮にアレンが落下しても死なせるな! 連絡係、万が一に備えて王宮医を呼び、四班と共に現場に待機させろ」
「了解しました!」
「皆、離れろ。爆破する!」
「待て、ヴィル! 後ろに警報機がある。魔法禁止区域だ。俺がやる!」
「構わん! 部下に罪を被らせるほど落ちぶれていない」
制止するフィデルを振り払い、右手に意識を集中した。
叔父がいれば「何が何でもリアを救え」と言うだろう。
俺が罰せられる分には構わない。
もともと向いていない仕事だ。クビになっても仕方がない。
しかし、下手に魔法を放って王宮を火の海にすれば本末転倒、逆にリアが危ない。
思い切り集中して繊細な操作をしてやれば、小さな範囲を燃やさず爆破できるはずだ。
幼い頃から嫌というほど魔力を絞る訓練ばかりしてきた。
「王族に失敗は許されない」という父の言葉が、今日も頭の中を駆け巡る。
詠唱を始めると魔法報知機が作動したのか、警報が鳴り始めた。
「くそったれな報知機め」
舌打ちした。
攻撃魔法にはすぐ反応するくせに、イドレの汚い魔法鍵には作動しない。使えないにもほどがある。
悪の本質が分かっていない人間の考えるものは、至るところで正義の力を弱体化させ、アホウにばかり有利なものや制度を生み出している。
王宮はアホウドリの巣窟だ。
警報を聞きつけ、王宮の警備にあたっていた第三騎士団の一隊が駆けつけたが、残っていた伝令が神薙を救うところだと説明したようだ。
腹が立ちすぎて死にそうだった。
よくもリアに手を出してくれたな。ガラールだかスルトだか知らないが絶対に許さん。
「リア! 扉から離れていろ!」
厚さの分だけ歴史のある扉は、建て替える前の王宮から移築したものだった気がする。確かこの棟は全体が重要文化財だ。
もう知ったことではなかった。
王の建物を王の甥が壊して何が悪い。
罰したければあとでご自由にどうぞだ。
「皆、聞け! たった今より第一騎士団長のすべての権限をフィデル・ジェラーニに委譲する!」
扉を破壊すると、腰から剣を外し、フィデルに向かって放り投げた。
第一騎士団長が代々持っている国宝の剣だ。
「フィデル先輩、俺に万が一のことがあったら代わりを頼む」
「馬鹿野郎。こんな時に先輩なんて呼ぶな」
「お喋りをしてくる」
「ヴィル、ごく普通に、ゆっくり喋れ。すぐにアレンが来る」
「分かった。もし死にそうになったら、ちょっとだけ助けてくれると嬉しい」
「ちょっとだけと言わずたくさん助けるから心配するな」
「いつもありがとう」
俺は大馬鹿野郎だ。
もっと早くこうするべきだった。
神薙法も、見合いも、初めから全部ぶっ壊してしまえば良かった。
言いかけた瞬間、ポケットの中の魔道具が震えた。
部屋の中からリアが助けを求めている。
「リア!」
すぐさま扉のノブに手を掛けた。
しかし、開いているはずの鍵が掛かっている。
扉が開かない。
ガチャガチャと動かすうち、手の平に魔法鍵の感触が伝わってきた。
「あのクソ野郎! 扉に細工をしやがった! アレン、開錠を手伝え!」
「了解」
「一班! イドレを捕らえろ!」
「はい!」
「四班! 左右の部屋が使えるか確認しろ!」
「承知しました!」
「五班と六班! 馬車を回して先に侍女と従者を乗せろ。リアを乗せたら直ぐ出発できるよう準備しておけ!」
「了解っ!」
後ろから声がした。
「団長、イドレがいません! 鞄などの荷物もありません」
「まだ遠くへは行っていないはずだ。周辺を捜索しろ!」
「了解!」
どこへ逃げようと、奴は既に隠密に追跡されている。
しかし、合法的な追跡で捕まるならそのほうが良い。
「第三騎士団の連絡係はまだ残っているか!」
「二名おります!」と野太い声が聞こえた。
「団長に伝令! 緊急配備を要請する。文官マヌエル・イドレを謀反の罪で生け捕りにしろ!」
「はっ!」
「フィデル! 各所に伝令を出せ!」
「分かった。第一騎士団より特務師団へ、第三と同内容で伝令!」
「はい!」
「第一騎士団より宰相へ、王宮内でスルト家による神薙襲撃事件発生中。イドレの謀反とあわせ、それぞれ一族の捕縛を要請する!」
「承知しました!」
「第一騎士団よりエムブラ宮殿へ……」
フィデルが次々と連絡を飛ばし始めた。
多少落ち着いてきていた胃の中が、再びグラグラと沸騰する。
魔法鍵が開錠できない。
アレンと二人掛かりで外そうとしても、猛烈にややこしい術式が幾重にも掛けられていた。
「くそっ、なんなんだこの鍵は!」
「団長、これは後で開けることを前提として掛けられた鍵ではなさそうです」
左右の部屋を確認しに行っていた団員が戻ってきて、両脇の部屋も同様に魔法鍵が掛かっていると言った。
「隣もめちゃくちゃな鍵です。開錠を試みますか?」
器用なアレンでも手こずるほどの魔法鍵は、時間稼ぎが目的だろう。
中で何をしようとしているか容易に想像がつく。冗談じゃない。
「開錠は無理だ。扉を壊す!」
扉を破壊する準備に取り掛かろうとしたとき、中から微かにリアの悲鳴が聞こえた。
「リア様!」
「リア!」
全身の毛が逆立ち、血が沸騰して逆流した。
途方もない怒りと共に、得も言われぬ後悔が押し寄せてきた。
「彼女を人質に取られる。俺は外から入ります! こちら側に注意を引きつけてください!」
「頼むから落ちるなよ。アレン、窓から突入して背後を突け! そこの三人、アレンの援護! 急げ!」
「はいっ!」
「四班、この部屋の窓の下で待機しろ。仮にアレンが落下しても死なせるな! 連絡係、万が一に備えて王宮医を呼び、四班と共に現場に待機させろ」
「了解しました!」
「皆、離れろ。爆破する!」
「待て、ヴィル! 後ろに警報機がある。魔法禁止区域だ。俺がやる!」
「構わん! 部下に罪を被らせるほど落ちぶれていない」
制止するフィデルを振り払い、右手に意識を集中した。
叔父がいれば「何が何でもリアを救え」と言うだろう。
俺が罰せられる分には構わない。
もともと向いていない仕事だ。クビになっても仕方がない。
しかし、下手に魔法を放って王宮を火の海にすれば本末転倒、逆にリアが危ない。
思い切り集中して繊細な操作をしてやれば、小さな範囲を燃やさず爆破できるはずだ。
幼い頃から嫌というほど魔力を絞る訓練ばかりしてきた。
「王族に失敗は許されない」という父の言葉が、今日も頭の中を駆け巡る。
詠唱を始めると魔法報知機が作動したのか、警報が鳴り始めた。
「くそったれな報知機め」
舌打ちした。
攻撃魔法にはすぐ反応するくせに、イドレの汚い魔法鍵には作動しない。使えないにもほどがある。
悪の本質が分かっていない人間の考えるものは、至るところで正義の力を弱体化させ、アホウにばかり有利なものや制度を生み出している。
王宮はアホウドリの巣窟だ。
警報を聞きつけ、王宮の警備にあたっていた第三騎士団の一隊が駆けつけたが、残っていた伝令が神薙を救うところだと説明したようだ。
腹が立ちすぎて死にそうだった。
よくもリアに手を出してくれたな。ガラールだかスルトだか知らないが絶対に許さん。
「リア! 扉から離れていろ!」
厚さの分だけ歴史のある扉は、建て替える前の王宮から移築したものだった気がする。確かこの棟は全体が重要文化財だ。
もう知ったことではなかった。
王の建物を王の甥が壊して何が悪い。
罰したければあとでご自由にどうぞだ。
「皆、聞け! たった今より第一騎士団長のすべての権限をフィデル・ジェラーニに委譲する!」
扉を破壊すると、腰から剣を外し、フィデルに向かって放り投げた。
第一騎士団長が代々持っている国宝の剣だ。
「フィデル先輩、俺に万が一のことがあったら代わりを頼む」
「馬鹿野郎。こんな時に先輩なんて呼ぶな」
「お喋りをしてくる」
「ヴィル、ごく普通に、ゆっくり喋れ。すぐにアレンが来る」
「分かった。もし死にそうになったら、ちょっとだけ助けてくれると嬉しい」
「ちょっとだけと言わずたくさん助けるから心配するな」
「いつもありがとう」
俺は大馬鹿野郎だ。
もっと早くこうするべきだった。
神薙法も、見合いも、初めから全部ぶっ壊してしまえば良かった。
49
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜
文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。
花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。
堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。
帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは?
異世界婚活ファンタジー、開幕。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
転生先は男女比50:1の世界!?
4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。
「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」
デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・
どうなる!?学園生活!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる