183 / 392
4[リア]
十三億円
しおりを挟む
アレンさんは一週間の特別訓練に出かけていった。
郊外の保養施設で自然に癒されながらの「リハビリコース」だと聞いたので、安心して送り出した。
ところが、周りの証言により、実際は山にこもって心身ともに鍛える地獄の訓練だということが判明。正しくは「パワーアップ」が主目的だと言う。
わたしが反対すると思って、だまして出かけたのだ。ひどすぎる……。
「ヘーキだよ。余裕余裕」
具合が悪かったときの彼を見てもいないのに、ヴィルさんは軽い調子で言った。
余裕とか余裕がないとか、そういう問題ではない。彼は病み上がりで普通の状態ですらないのだ。なのに、なぜ普通の人でも音を上げるような訓練に参加しているのか意味がわからない。
行き先が「保養施設」というのもウソだった。
実際は宿なんてあってないようなもので、大半は「テント」でキャンプ。お食事は「自分たちで作る野営料理」だそうだ。
山の大自然も、おそらくは癒しではなく脅かし担当に違いない。
困惑するわたしをミストさんが心配そうな顔で見ていた。
彼から何か聞いていないか尋ねると、彼女はいっそう深刻な表情になった。
「実は以前、少しだけ聞いたことはあるのですが」と言葉を濁すので、思わず身を乗り出した。
「何て言っていたの?」
「それが、一日で服がボロボロになるほど厳しいもので『初日にゲロ吐いて逃げ出す人がいる』という話で……」
イヤぁーーッ!(泣)
「ヴィルさんっ! 話が違うにもほどがあります!」
「まあまあ」
「どうして止めてくださらなかったのぉぉー!」
「いや、彼なら大丈夫だから」
「何が大丈夫ですかぁーっ、山の中で具合が悪くなっても助けに行けないのに。なんて無責任な! うキィィッ!」
「わかった。わかったから落ち着け」
あわや第二次ヴィル・リア戦争勃発か。
そんなタイミングで執事長がサロンに入ってきた。
何やら慌てた様子で「急な来客」だと言う。オーディンス侯爵の使者様が来ているとのことだ。
「……それって、アレンさんのパパですか? 先触れもなく?」
「ご用件は『お礼の品のお届け』とのことで」
アレンパパといえば、アルベルト・オーディンス総務大臣だ。
王宮へ行くと高確率で顔を合わせるので、こまめにコミュニケーションを取らせていただいている。
アレンさんがそのまま歳を重ねたような、ステキなオジサマだった。
オーディンス家は懐に入れる相手を慎重に選ぶところがあり、親しくなると全然印象が違う。
よそ行きのクールなイメージと、身内だけに見せる冗談好きで毒舌家な一面はギャップがあって面白い。
偉いオジサマから「リア様」と呼ばれることに抵抗があったわたしを、最初に「リアちゃん」と呼んでくださったのはパパ様だった。
「若様を助けていただいたお礼とのことです」と、使いの人は言った。
大きな箱ではあるけれども、男性が一人で運んできている。
箱のサイズと、前にパパ様と交わした会話とを踏まえて考えると、一つ思い当たるものがあった。
このズッシリ感……「最近ハマッている」と話していたブランデーケーキではないかしら。この宮殿の全員で楽しめるように、たくさんに発注してくださったのだわ♪
舶来物のお酒をたっぷり使ったシロップを、バターケーキに染み込ませた貴族ご用達の逸品で、冷やしてから生クリームを添えて食べるのがオススメだと聞いている。
「念のため、中身を確認してください」と言われたので、嬉々として開梱した。
「気を使わせてしまって、かえって申し訳ないですねぇ~」
さーて、紅茶にしようか珈琲にしようか。お三時が楽しみで顔がにやけてしまう。
「あらっ?」
ところが、開けてみるとお菓子ではなかった。
箱の中から、イケオジ陛下の絵がたくさんこちらを見ている。
「こ、これは……」
まさかの現ナマ。
まさかのキャッシュ。
まさかのお札束だ。
「きゃーッ! げげげ現金!? ちょっちょっ、お待ちください使者様! これは頂けません!」
慌てて振り返った。
「……あら? 使者様は!?」
使者がいない! こつぜんと消えている。
「え? まさか帰った? 帰ってしまったの? ウソでしょ?」
最初からこちらの反応がわかっていたのか、使者は逃げるように立ち去っていた。
軽くパニックに陥ったわたしは、大慌てで状況把握に乗り出した。
「今朝の新聞のチラシをっ!」
「肉屋のがありました」
「ありがとうミストさん。えーと、これはわたしの母国だと百三十円ぐらいですから、これとこれが同じ価値だとすると本日の為替レートは……」
「一シグが百五十八エンですね?」
「さすがです。お札束を数えましょう!」
届いたお金を数え、日本円に換算する。
出ました!
約十三億二千五百三十万えーん! (テッテレー♪)
「こ、これ……どうすればいいのでしょう」
全身がガクガクブルブル震えた。
小さな国の国家予算みたいな金額を、宅配便のノリで送ってくる人は初めてだ。
「前の世界では貯金が趣味だったと言うくらいだ。ちょうどよかったね」
ヴィルさんが屈託のない笑みを浮かべて軽やかに言った。
「……は?」
ちょっと何言ってるかわからないのですけど。
もしかして、またわたしがおかしいの? 常識知らずみたいになってしまっている? ここの常識だと、息子を看病してもらったら十三億円をプレゼントするのですか?
そんなわけないでしょう! ああぁ~~~っ!
大変なことが起きているというのに、ヴィルさんはわたしの髪をなでたり巻きついたり、スンスンと匂いを嗅ぎまわっている。
ええい、あなたはさっきから何をしているの!? ベタベタスンスンお邪魔ですわーっ(泣)
郊外の保養施設で自然に癒されながらの「リハビリコース」だと聞いたので、安心して送り出した。
ところが、周りの証言により、実際は山にこもって心身ともに鍛える地獄の訓練だということが判明。正しくは「パワーアップ」が主目的だと言う。
わたしが反対すると思って、だまして出かけたのだ。ひどすぎる……。
「ヘーキだよ。余裕余裕」
具合が悪かったときの彼を見てもいないのに、ヴィルさんは軽い調子で言った。
余裕とか余裕がないとか、そういう問題ではない。彼は病み上がりで普通の状態ですらないのだ。なのに、なぜ普通の人でも音を上げるような訓練に参加しているのか意味がわからない。
行き先が「保養施設」というのもウソだった。
実際は宿なんてあってないようなもので、大半は「テント」でキャンプ。お食事は「自分たちで作る野営料理」だそうだ。
山の大自然も、おそらくは癒しではなく脅かし担当に違いない。
困惑するわたしをミストさんが心配そうな顔で見ていた。
彼から何か聞いていないか尋ねると、彼女はいっそう深刻な表情になった。
「実は以前、少しだけ聞いたことはあるのですが」と言葉を濁すので、思わず身を乗り出した。
「何て言っていたの?」
「それが、一日で服がボロボロになるほど厳しいもので『初日にゲロ吐いて逃げ出す人がいる』という話で……」
イヤぁーーッ!(泣)
「ヴィルさんっ! 話が違うにもほどがあります!」
「まあまあ」
「どうして止めてくださらなかったのぉぉー!」
「いや、彼なら大丈夫だから」
「何が大丈夫ですかぁーっ、山の中で具合が悪くなっても助けに行けないのに。なんて無責任な! うキィィッ!」
「わかった。わかったから落ち着け」
あわや第二次ヴィル・リア戦争勃発か。
そんなタイミングで執事長がサロンに入ってきた。
何やら慌てた様子で「急な来客」だと言う。オーディンス侯爵の使者様が来ているとのことだ。
「……それって、アレンさんのパパですか? 先触れもなく?」
「ご用件は『お礼の品のお届け』とのことで」
アレンパパといえば、アルベルト・オーディンス総務大臣だ。
王宮へ行くと高確率で顔を合わせるので、こまめにコミュニケーションを取らせていただいている。
アレンさんがそのまま歳を重ねたような、ステキなオジサマだった。
オーディンス家は懐に入れる相手を慎重に選ぶところがあり、親しくなると全然印象が違う。
よそ行きのクールなイメージと、身内だけに見せる冗談好きで毒舌家な一面はギャップがあって面白い。
偉いオジサマから「リア様」と呼ばれることに抵抗があったわたしを、最初に「リアちゃん」と呼んでくださったのはパパ様だった。
「若様を助けていただいたお礼とのことです」と、使いの人は言った。
大きな箱ではあるけれども、男性が一人で運んできている。
箱のサイズと、前にパパ様と交わした会話とを踏まえて考えると、一つ思い当たるものがあった。
このズッシリ感……「最近ハマッている」と話していたブランデーケーキではないかしら。この宮殿の全員で楽しめるように、たくさんに発注してくださったのだわ♪
舶来物のお酒をたっぷり使ったシロップを、バターケーキに染み込ませた貴族ご用達の逸品で、冷やしてから生クリームを添えて食べるのがオススメだと聞いている。
「念のため、中身を確認してください」と言われたので、嬉々として開梱した。
「気を使わせてしまって、かえって申し訳ないですねぇ~」
さーて、紅茶にしようか珈琲にしようか。お三時が楽しみで顔がにやけてしまう。
「あらっ?」
ところが、開けてみるとお菓子ではなかった。
箱の中から、イケオジ陛下の絵がたくさんこちらを見ている。
「こ、これは……」
まさかの現ナマ。
まさかのキャッシュ。
まさかのお札束だ。
「きゃーッ! げげげ現金!? ちょっちょっ、お待ちください使者様! これは頂けません!」
慌てて振り返った。
「……あら? 使者様は!?」
使者がいない! こつぜんと消えている。
「え? まさか帰った? 帰ってしまったの? ウソでしょ?」
最初からこちらの反応がわかっていたのか、使者は逃げるように立ち去っていた。
軽くパニックに陥ったわたしは、大慌てで状況把握に乗り出した。
「今朝の新聞のチラシをっ!」
「肉屋のがありました」
「ありがとうミストさん。えーと、これはわたしの母国だと百三十円ぐらいですから、これとこれが同じ価値だとすると本日の為替レートは……」
「一シグが百五十八エンですね?」
「さすがです。お札束を数えましょう!」
届いたお金を数え、日本円に換算する。
出ました!
約十三億二千五百三十万えーん! (テッテレー♪)
「こ、これ……どうすればいいのでしょう」
全身がガクガクブルブル震えた。
小さな国の国家予算みたいな金額を、宅配便のノリで送ってくる人は初めてだ。
「前の世界では貯金が趣味だったと言うくらいだ。ちょうどよかったね」
ヴィルさんが屈託のない笑みを浮かべて軽やかに言った。
「……は?」
ちょっと何言ってるかわからないのですけど。
もしかして、またわたしがおかしいの? 常識知らずみたいになってしまっている? ここの常識だと、息子を看病してもらったら十三億円をプレゼントするのですか?
そんなわけないでしょう! ああぁ~~~っ!
大変なことが起きているというのに、ヴィルさんはわたしの髪をなでたり巻きついたり、スンスンと匂いを嗅ぎまわっている。
ええい、あなたはさっきから何をしているの!? ベタベタスンスンお邪魔ですわーっ(泣)
87
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜
文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。
花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。
堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。
帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは?
異世界婚活ファンタジー、開幕。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
転生先は男女比50:1の世界!?
4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。
「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」
デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・
どうなる!?学園生活!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる