巻き込まれ転生

もふりす

文字の大きさ
19 / 30
1章 隠密令嬢(?)とリア充令息

嵐は去った。多分

しおりを挟む
散々弄られた頭も整理されて、瞼を押し上げたら、青年が静かにこちらを見下ろしていた。
彼の膝を借りていたようね。残念ながら眼福って気持ちより前にため息が出た。

「随分無茶をしてくれますね」

「そうかい?私を忘れていた君も悪いと思うけど」

「僕の状態を誰よりも知っていた貴方がそう言うって事は、相当苦労したんでしょうけど。家の方はどうなんですか?害虫排除はできたんですよね?」

「ああ、大丈夫だ。あの女と一部の使用人は隔離している。公爵家…いや私に忠実な部下達が監視しているから下手な事にならないね」

「…そう。ありがとう」

「君に感謝される事はしていないよ。私は後始末をしただけ…でも、その気持ちは受け取らせてもらう」


記憶を取り戻した事によって、目の前の彼の事も思い出した。
少なくとも今世で数少ない、私の味方とだけ言っておこう。

私達から漂う只ならぬ空気を察知して、痺れを切らしたユベールが問いかけてきた。

「…シリル、彼とはどういった関係なんだ?」

「ああ、彼はまあ…親戚のおにぃ―「兄だ、よろしく」

「そ、そうか。よろしく頼む。」

私の説明をぶった切った兄ことジョゼフ兄さんは神々しい流し目をしてらっしゃる。エフェクトの無駄遣いだわ。え?ファンタジーの世界ならアリ?そうね、令嬢方がいたら腰を抜かしたり貧血を起こしたり大変なことになりそうね!
連も”お前も公爵家かよ!マジで何があった!”ってツッコんでくれるな。おいそれと話せる内容じゃないんだよ!察しろ、この才女ッ!!

連の話から逃げるように思案していたら、謎の天の声が聞こえた。

「だ、大丈夫ですか!こちらで大きな魔法発動を感知したのですが、皆様お怪我はありま…――ひっ!?」


ジョゼフ兄さんの魔法を会場にいた魔法省の人が感知したようで、魔法省の関係者を数名連れてやってきた。正義感の強そうな、第一声を上げた彼は、王太子の悲惨な姿に悲鳴を漏らしてしまったようだ。正常な反応だよ。うん。

うんうんと頷いていたら、ジョゼフ兄さんは魔法省の一人に事情説明…大事にしないよう少しの情報で納得させていた。他の魔法省の方々は部屋全体を最新の撮影魔法で保存し修復させていった。連ことユベールは他の面子と王太子の記憶改ざんをとか何とか話している。おい、物騒だな。私も大賛成だけど。害にしかならなそうだもん、王子様。

私はというと、ライナスさんに残されて可哀想なお菓子を恵まれている。嬉しい事に、この身体太りにくいんだよね~。筋肉もそこそこあるし、ある意味チートかな。あ、このカヌレおいひい!前世でも食べた事ある!確か連のファンがバレンタインに買った有名な――って、いらん情報だな。


テーブルの上の菓子がなくなる頃には、片が付いていた。
王太子は担架で運ばれ(すっ転んで頭を打った事にした)、私達はジョゼフ兄さんのおかげで事情聴収に駆り出される心配もなく、その日は解散となった。

去り際に連とジョゼフ兄さんから呼び止められ、約束を取り付けられた。
同時に誘われて困ったけど、ジョゼフ兄さんが何か察したらしく、今週末に連と二人でラム公爵家の別邸にお邪魔する事になった。バロンさんにも伝えとこう。

連はまだ話したそうにしていて、挨拶した際に何か持たされた。
ん?これは、携帯…――マジ?
思わず連を見たらどや顔されたので一発デコピンした。多分繊細だろう頭は避けてあげたんだから感謝しなさい。前世のバラエティー番組で司会者とかがIQ200の天才児の頭を叩いたのを見た時はテレビを掴んで壊しそうになったな…懐かしい。連には苦笑されたっけ。決まって”藍らしいね。関係ない他人のために怒るなんて。”と言われていたな。私は何て返してただろう?
……。まあ、そのうち思い出すか。あ、それより!

「れッ…ユベール、これ…」
「ああ、今日帰ったら試してみて。すぐかけるから」

そんじゃ、と手を振って去る連に口をあんぐり開けていた。

「顎が外れちゃうよ、シリル」

「あ、バロンさん…」

セットされていた髪が少し乱れたのか、前髪を掻き上げるバロンさんは外行きの表情で私を見て、颯爽と抱え上げた。何で…と言わなくても、すぐに視界がぼやけてきた。ホントにいつもタイミングいいな。

帰りの馬車で、私を膝に乗せて抱きかかえたバロンさんは相当疲れていたらしく、愚痴っていた。中でも厄介なのが実家のグレンヴィル、姉夫婦が縁談の場をと多くの令嬢を今日会わせてきたらしい。バロンさんって優良物件だけど、本人は爵位に頓着しないし何なら独身貫こうとしているし、…あれ?私お邪魔では?

甘えてくるバロンさんに絆された私は、明日にでも聞こうと問題を先送りにした。
だが、翌日思いもよらぬ来客があり、聞く事はできなかった。噂をすれば何とやらですね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...