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第一章 ぶつかり合う感情
顔合わせの朝②
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鍛錬後の食事も早めに済ませ、侍女達に余所行きのドレスの準備を頼んだ。
今日は顔合わせがあるから、普段よりはめかし込まなくてはならない。
バルモンド公爵家嫡男ヴァーミリアン・エド・バルモンド様の婚約者になるのだから。
首から鎖骨までレース生地となっている、オフホワイト色のドレスに身を包み、白金色の髪は緩く編み込まれパールが散らばめられている。手首が隠れるほどのレース地の手袋も着けている。淡い白の装いの中、彼女の紫色の瞳は美しく映えていた。
出来上がり具合を鏡で確認し、侍女達に下がるよう伝えると、恐る恐る声を掛けられた。
「お嬢様、お茶をお持ち致しましょうか」
気を遣ってくれているのね。
私が緊張しているだろう、と。
「ありがとう。でも、今日は遠慮しておくわ。
ほら、せっかくの綺麗なドレスを汚す訳にはいかないもの。
後で柿の葉のお茶を用意してちょうだい。あれを見つけたという庭師には報酬をやらなくてはね…」
「承知致しました。その者にもお嬢様が大層お喜びだったとお伝えしておきます。」
侍女の一人であるクレミーがお茶目にそう言うものだから、笑ってしまったわ。
それで、緊迫した空気が和らいだからよしとします。
私の周りにいる侍女達は私の性分を分かっているから口煩く言わなくて助かっている。
私がこの婚約を名誉だと感じている事も、国に忠誠を誓っている事も。
一息ついて外を見やると、石畳で出来ているエントランスとその先の道が視界に入った。
約束の時間まで数十分あるけれど、そろそろ来るかなと思い、眺めてみる。
遠くから馬車の車輪が回る音と馬の蹄の音が聞こえてくる。
政略結婚とはいえ、私も顔合わせはそれなりに楽しみにしている。
バルモンド家の人間の顔を見た事がありませんもの。
王族との謁見の際も時間がずらしてあるため顔を合わせる機会がなかった。
それも当然と言える。彼らとは派閥が違うのだから。
馬の嘶く声が聞こえ、思わず席を立ちあがり、急いで部屋を出た。
逸る気持ちを抑えながら階段を降りていくと、両親と弟が既に出迎えるようにそこにいた。
私と目が合うと、両親は苦笑し、弟は少し不服そうな顔をした。
お父様の近くにいた執事長が扉を開き、私は両親の後に続いた。
陽が出てきていて、陽ざしに思わず目を細めた。
視界が開けて馬車の方に目線を向けると、礼服を着こなした少年と目が合った。
私は公爵家の方と縁が結べる事が素直に嬉しい。
だって、宰相様が集めてらっしゃる書物を見せていただけるかもしれないんですもの!
「ようこそいらっしゃいました、バルモンド公爵家の皆さま。」
満面の笑顔で出迎えると、馬車から降りた彼らは心底安心したような表情でこちらを見ていました。よかった、好印象ね!
ヴァーミリアン様も頬を紅潮させていますし、私と同じ心持でこの日を楽しみにしていたのね!是非とも同志にして頂きたいわ!
そんな気持ちも込めてお辞儀をすれば、彼もぎこちなくですが返してくれました。
「宜しくお願い致しますわ、ヴァーミリアン様。」
少女は息を呑むような微笑みで少年の心を射抜いていたのだが、本人は知る由もない。
少年もこれから末永く共に過ごす婚約者がこんなに魅力的な少女だと知らず、この想いをいつか伝えたいとその小さな胸の内で決意するのだった。
今日は顔合わせがあるから、普段よりはめかし込まなくてはならない。
バルモンド公爵家嫡男ヴァーミリアン・エド・バルモンド様の婚約者になるのだから。
首から鎖骨までレース生地となっている、オフホワイト色のドレスに身を包み、白金色の髪は緩く編み込まれパールが散らばめられている。手首が隠れるほどのレース地の手袋も着けている。淡い白の装いの中、彼女の紫色の瞳は美しく映えていた。
出来上がり具合を鏡で確認し、侍女達に下がるよう伝えると、恐る恐る声を掛けられた。
「お嬢様、お茶をお持ち致しましょうか」
気を遣ってくれているのね。
私が緊張しているだろう、と。
「ありがとう。でも、今日は遠慮しておくわ。
ほら、せっかくの綺麗なドレスを汚す訳にはいかないもの。
後で柿の葉のお茶を用意してちょうだい。あれを見つけたという庭師には報酬をやらなくてはね…」
「承知致しました。その者にもお嬢様が大層お喜びだったとお伝えしておきます。」
侍女の一人であるクレミーがお茶目にそう言うものだから、笑ってしまったわ。
それで、緊迫した空気が和らいだからよしとします。
私の周りにいる侍女達は私の性分を分かっているから口煩く言わなくて助かっている。
私がこの婚約を名誉だと感じている事も、国に忠誠を誓っている事も。
一息ついて外を見やると、石畳で出来ているエントランスとその先の道が視界に入った。
約束の時間まで数十分あるけれど、そろそろ来るかなと思い、眺めてみる。
遠くから馬車の車輪が回る音と馬の蹄の音が聞こえてくる。
政略結婚とはいえ、私も顔合わせはそれなりに楽しみにしている。
バルモンド家の人間の顔を見た事がありませんもの。
王族との謁見の際も時間がずらしてあるため顔を合わせる機会がなかった。
それも当然と言える。彼らとは派閥が違うのだから。
馬の嘶く声が聞こえ、思わず席を立ちあがり、急いで部屋を出た。
逸る気持ちを抑えながら階段を降りていくと、両親と弟が既に出迎えるようにそこにいた。
私と目が合うと、両親は苦笑し、弟は少し不服そうな顔をした。
お父様の近くにいた執事長が扉を開き、私は両親の後に続いた。
陽が出てきていて、陽ざしに思わず目を細めた。
視界が開けて馬車の方に目線を向けると、礼服を着こなした少年と目が合った。
私は公爵家の方と縁が結べる事が素直に嬉しい。
だって、宰相様が集めてらっしゃる書物を見せていただけるかもしれないんですもの!
「ようこそいらっしゃいました、バルモンド公爵家の皆さま。」
満面の笑顔で出迎えると、馬車から降りた彼らは心底安心したような表情でこちらを見ていました。よかった、好印象ね!
ヴァーミリアン様も頬を紅潮させていますし、私と同じ心持でこの日を楽しみにしていたのね!是非とも同志にして頂きたいわ!
そんな気持ちも込めてお辞儀をすれば、彼もぎこちなくですが返してくれました。
「宜しくお願い致しますわ、ヴァーミリアン様。」
少女は息を呑むような微笑みで少年の心を射抜いていたのだが、本人は知る由もない。
少年もこれから末永く共に過ごす婚約者がこんなに魅力的な少女だと知らず、この想いをいつか伝えたいとその小さな胸の内で決意するのだった。
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