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第一章 ぶつかり合う感情
顔合わせ ~後は若者だけで
しおりを挟む「後は若い二人だけにしましょう。私達はあちらでお茶でもどうですか?」
「あら、それもそうね!私、紹介したい茶菓子がありますの。
ほら、ヨハムも行きますよ。折角ですからフォミュラス殿との打ち合わせも済ませて――」
バタバタと大人達は去っていき、ラーシュもお母様に手を引かれていたわ。
気を利かせたつもりかもしれないけれど、とても気まずいわ。
侍女達も遠くから見守るだけでこちらに来ないのだから。
さっきまではお母様達がひたすら話していたから、放り出された私達はどうしたらいいのかしら。
「とりあえず、中庭を散策しますか?」
「そうだね…。」
提案して中庭に足を踏み入れ、目につく植物について話を切り出したわ。
そしたら、思いの外互いに気になる事が出てきて、最近学んだ事や互いの父親の話を始めた。
正反対の父親を持つと、ないものが目に付くものなのかしら。ないものねだり、ね。
ふと話が途切れ、笑い疲れていると、視界に蜘蛛の巣に引っ掛かった蝶を見つけた。
巣の主である蜘蛛は見つからないが、不憫に思えて羽を糸から外してあげた。
「…おまえ、綺麗な羽を持っているのだから気を付けなくては駄目よ?」
しっかりと言い含めていると、何を思ったのか蝶はパタパタと羽ばたき、私の指に止まった。
人の言葉が分かるのかしらと思い、笑みがこぼれた。
そこで我に返った。
「あ、ごめんなさい。蝶と戯れたりして…恥ずかしいわ」
指を動かし蝶が飛んでいく様子を見てから居ずまいを正してみた。
ヴァーミリアン様が特に言葉を発しない事に疑問を持ち、振り返ったら――
口元を手で覆い、困った顔をされていましたわ。
「ど、どうしまして?」
「あ…いや、女性を不躾に見るものではありませんでしたね。申し訳ありません…」
様子がおかしいなと思いましたが、本人にも気にするなと言われたので、違う話題を振る事にしましたわ。うちは侯爵という地位だから、中庭で解説する物も多く、話題が尽きる事はありませんでした。
話もそこそこに戻ると、何故か戻れる雰囲気ではなく、中庭のベンチに座っての会話となりました。お母様とフィロメーラ様が話に花を咲かせていて、お父様とヨハム様もチェスをしながら真剣に話をしているんですもの。
弟はゲッソリとしていて、追及をしようものなら睨まれそうなので放置しました。
リクったら、不機嫌な時は毒舌がきついんですもの。
「ナーロレイ嬢」
「?はい」
「よ…よかったら、今度……」
ヴァーミリアン様はどうやら口下手らしく、こうやって言葉が途切れてしまうの。
だから私も辛抱強く待つようにしていますの。
「ん?」
「こ、今度…、私の家にも…来ません―――」
「え!いいんですの!?行きますわ!是非!」
「あ」
「…あ」
私ったら、言葉を遮ってしまったわ。はしたない事をしてしまいました…。
公爵邸に行きたいってあからさまだったわよね~…
「ふふ、そんなに喜んでくださるのなら、早速予定を立てませんか?」
あら、怒ってなかったのね。
「ええ、それなら一週間後の今日なんてどうかしら?…って、本当にいいんですの?
公爵様達のお許しをいただきませんと…」
「それなら大丈夫ですよ。私が案内する分には両親に確認するまでもありません!」
「よかったわ!では…―――」
思ったより気の合った私達は、そうやって会うたびに約束をするようになりました。
私も何だかんだで恵まれているわね。趣味が合う殿方が婚約者で。
順調にいっている二人ですが、奥手なヴァーミリアンは早くも異性として意識されていないですね。これからなのでしょうが、恋愛より趣味優先のナーロレイを振り向かせられるのか。
このままでは、父で宰相のヨハム様に好感度で負けてしまいますよ?
・・・まあ、頑張れ。少年。
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