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九
しおりを挟む「…行くぞ」
「え、ちょ、八代君?」
白炎さんの姿が消えるや否や、八代君は俺の腕を掴んで歩き始めた。
先程よりも早くなった歩み。何か、様子がおかしい?
「ま、待ってよ八代君っ」
「………」
声を上げると漸く八代君は止まってくれた。が、一向にこちらを見ようとしない。
俺の腕を掴んでいる彼の手も、心なしか力が入っている気がする。
「…さっきの人は誰なの?」
その後ろ姿にそっと問いかける。八代君の様子がおかしくなった理由は分からないが、その理由を知るためには先程の白蛇さん──白炎さんの事をまず知らなければ、きっと話にならない。
「………」
「…八代君」
「………何じゃ」
間がありながらも返事をしてくれた事にほっとしながら、俺は改めて八代君の手を握り直した。
「大丈夫だよ」
「…何がじゃ」
「前にも言ったけど、俺は勝手に君を信じてる。だから、きっと大丈夫だよ」
ギュッと握る手に力を込める。大丈夫だと、安心して欲しいと言うように。
どれくらいそうしていたのだろう。不意に、八代君が細く息を吐き出した。
「八代君?」
「………本当に、お前はお人好し過ぎる」
「え?」
何て言ったんだろう?
ぼそりと八代君が何かを言ったようだったけれど、小さ過ぎて聞き取れなかった。
「何でもない。…時間がない。歩きながら話すぞ」
「! うんっ」
再び歩き始めた八代君の足取りに先程のような性急さは無くなっていた。
その事に安堵しながら、離す機会を逃してしまった手の事はわざと聞かずに八代君の後を着いていく。
「先程の白蛇の男じゃが、あやつはこの辺り一帯を管理している神の眷属じゃ」
「眷属?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「眷属とは、神に代わって神の意志を伝える動物が神格化されたものの事じゃ。神使とも呼ばれ、仕える神の守護などもしておる」
「へえ…」
そうなんだ。…って、あれ?
「じゃあ、八代君も眷属なの?」
「…そうじゃな」
? 何か、答えるまでにちょっと間があったような?
その事が気にはなったが、何となく聞いてはいけないような気がしたので別の事を聞くことにした。
「な、何か白炎さんと仲が悪そうに見えたんだけど、何かあったの?」
「昔、奴が売ってきた喧嘩を買っただけの話よ」
「え!?」
喧嘩!?
「無論、ワシが勝ったがの」
「そ、そうなんだ…」
あの如何にも強そうで大柄な白炎さんと喧嘩して勝ったんだ…
「す、すごいね」
「何も凄くはない。あやつがワシより弱かっただけの話じゃ」
「自分より弱い者に勝った所で嬉しくも何ともない」と言う八代君に、俺は内心で白炎さんに少しだけ同情した。
だって、あっちはあからさまに敵対視しているのに、当の本人は全く相手にしていないどころか歯牙にもかけていないのだから。これで同情するなという方が無理な話である。
「あー…えと、じゃ、じゃあさ。白炎さんが白蛇の姿のままで争おうとしてた事を注意してたのは何でなの?」
明らかに無理矢理話題を変えた俺に、八代君は何か言いたそうだったが特に何も言う事なく質問に答えてくれた。
「眷属は人間に近い姿と動物の姿、二つの形態になる事ができる。じゃが、基本的には人間に近い姿でいる事が義務付けられておる」
「え、何で?」
「動物の姿を晒す事が許されているのは、仕えている神の御前でだけだからじゃ。それ以外の場で動物の姿になれば、まあ…お主にも分かるように言えば『喧嘩を売っている』という意味になる」
「他にも意味はあるがの」と。
「えっ。じゃあ…」
白炎さんが最初白蛇の姿で現れたのって、八代君に喧嘩を売ってたからって事?
そう聞けば、八代君は「そうじゃ」と事もなげに答えた。
「そ、そうじゃって…」
「まあ、ワシの前で人型に戻ったところを見るに、あやつもこの百年でちいとは成長したようじゃな」
「えーっと、因みになんだけど…」
「何じゃ」
「白炎さんと喧嘩したのって、何年前の事なの?」
「確か…四百と少し前じゃったかの」
「…ついでに聞くけど、白炎さんっていつから存在してるの?」
「せいぜい八百年くらいじゃったと思うが…それがどうした」
うん。三百歳も先輩の眷属の方を負かした上に、自分より弱いって言い切れちゃうところが流石だなぁって思っただけです。はい、それだけです。
とは勿論言えないので、どう言おうか迷っていると
「えーっと…あ!」
そうだ!と思い出した事を聞いてみる。
「白炎さんが仕えてる神様からの伝言があったけど、あれってどういう意味だったの?」
「あれは………着けば自ずと分かる」
「着けばって…そういえばどこに向かってるの?」
「ここじゃ」
そう言って足を止めた八代君の視線を追うと、そこは広い野原だった。
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