終の九生

碧月 晶

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十五

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『あは、びっくりした?』

にっこりと笑うその顔は相田さんだけれど、雰囲気が、気配が、存在感が全くの別物だ。

そして、俺はこの禍々まがまがしい存在感を知っている。間違えはしない。こいつは…

「…九重」
『うん、みんなの九重だよー? なぁんてね。あははは!わーい、上手くいったー』

ぴょんぴょんと子どものように飛び回り、無邪気にはしゃぐ九重。

「っ、どういう事だ!相田さんをどうした!」
『んー?相田ぁ?ってこの魂の事?いいよぉ、いま気分がいいから答えてあげる。この魂にはね、ぼくの式神の一部を仕込んでおいたんだぁ。まあ、上手くいくかは分かんなかったけど、実験は大成功!無事悪霊化してぼくの式神の核になってくれたからねー。こうして乗っ取れた訳だよ』
「…イかれてやがるな」
『何か言ったぁ?そこの白蛇くん』
「悪趣味だって言ったんだよ」
『あは、ありがとー。お褒めに与りこーえーでーす』
「おい、あいつお前の知り合いだろうが。あのふざけた態度、どうにかならないのか」
「なるなら、とうにしておるわ」
『なになに?二人で内緒話?ぼくも入れて…って言いたい所だけど、お客さんが来たみたいだね』

九重が意味深に笑みを深め、そう言った瞬間。

「───これは一体どういう状況ですか?」

森から黒い着物を着た人が現れた。

「!?」

音もなく突如現れた存在。だが、それに驚いたのは俺だけで。俺以外の全員は大して驚いた様子もなく平然としていた。

誰だとまじまじと見ていると、ふと気が付いた。その人の額に二本の角がある事に。

まさか、鬼…?

「やっと迎えに来たのかよ。相変わらずお役人は仕事が遅ぇな」
「やめよ白炎。無礼じゃぞ」

『お役人』と呼ばれたその人…いや鬼(?)の人は白炎さんの言葉に特に反応を示さずに、改めて八代君に「これは一体どういう状況ですか?」と問うた。

「本日貴方が回収するはずであった『相田聡』の魂ですが、九重によって悪霊化し式神の核となりました」
「そうですか。では『相田聡』の魂は回収不可となったと報告させて頂きます」

淡々と、まるで事務処理をこなすかのような話し方。その声からは感情というものが全く感じ取れない。

そんな事を思っていると、バチリと鬼の人と目が合った。

「ああ、あなたが例の人間ですか。初めまして、私は鬼羅きらと申します。見ての通り、鬼です」
「は、初めまして。俺は久住宗介です」
「ふむ…この時代の人間にしては礼儀正しいですね」
「あ、ありがとうございます?」

丁寧な物言いだけど、何だか掴みどころがない人だな…

『ねえちょっと、ぼくの事忘れてない?そんな雑魚鬼なんか放っといて、ぼくと遊ぼうよー。さっきはまさか白蛇くんたちと共闘するなんて思ってなかったから後れを取ったけど、今度は負けないよ?』
「…聞き捨てなりませんね。誰が雑魚鬼ですか?」
『君の事に決まってるじゃん!そんな事も分からないの?頭悪いんだねぇ』

明らかに挑発している九重の物言いに、鬼羅さんの眉がピクリと動く。

しつけがなっていませんね。まだ駄犬の方が賢いというものですよ」
『はぁ?ぼくが駄犬以下だって言いたい訳?』
「そうですね」
「うーわ、ムカつく。死んでよ」

九重がにっこりと笑ってそう言った瞬間、その姿が一瞬にして消えた。
かと思えば、瞬く間に鬼羅さんの背後に移動した九重が彼の後頭部目掛けて拳を振り下ろす。

「危ない…!」

思わず、叫んでしまう。けれど、直ぐにその心配は杞憂だったと知る。

『やっぱ、そう簡単には殴らせてくれないかぁ』

何故なら、鬼羅さんを守るように現れた赤い膜がバチッバチッという音を立てながら、九重の拳を防いでいたのだから。

『ちぇ、これだから鬼は嫌いなんだよねぇ』

九重も最初から防がれると分かっていたのか、さっさと距離を取ると、赤い膜に触れた手をひらひらと振る。痛かったのだろうか。

だが、よくよく見ればその手がボロリと崩れて。

『あーあ、せっかく新しい玩具で遊ぼうと思ったのにもう壊れちゃった。今回はここまでかぁ』

どろりと九重の足元が底なし沼のように変化して、その身体がずぶずぶと沈んでいく。

「待て、九重!相田さんを返せ!」
『やだよー、もうこれはぼくのものだもん。返して欲しいなら、その力を使いこなす事だねー』

…え? 力を、使いこなす?

それがどういう意味なのか問おうとするより早く、九重は『ま、無理だろうけど。じゃあ、またねー』と言ってトプンと赤黒い沼の中へと消えていったのだった。
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