炎のように

碧月 晶

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299.戒めの記憶─18

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ポタ、ポタと潰れた拳から滴り落ちる、血。


ピクリと、彼の呼び掛けに男は──リガイェンは肩を震わせ、振り返った。


「っ、」
「ひぃ!」


振り返ったその顔は、血がこびり付いていた。


「わ、わたし旦那様に…!」


転がるように駆けていく女を脇目に、二人はその場から一歩たりとも動こうとしない。


「…お前も逃げなくて良いのですか」


先に沈黙を破ったのは、リガイェンだった。


「なぜ…こんな事を」


彼は自分を落ち着かせるように、一度大きく息を吸い込んだ。

震える声は、恐怖なのか動揺なのか、それとも両方なのか。


絞り出した彼の質問に、リガイェンは暫く黙っていた。

けれど、


「…イグニート、私と共に来ませんか」
「…え?」


漸く返ってきた返答は質問に対するものではなかった。


「イグニート」
「! あ…」


血にまみれた手が近付く。

だが、彼は足を一歩下がらせてしまった。

その瞬間、二人は同時に驚きの色を示した。


「ち、違っ…」
「………………」


慌てて弁解しようとする彼を見る眼が、どんどん虚ろに据わっていく。



「…お前も、俺を拒絶するのか…」

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