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335.だからせめて
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イグニートさん達は、俺がどういう経緯でここへ運ばれたのか
事細やかに教えてくれた。
「…そう、だったんですか」
俺が覚えているのは、アイツらからどうにか逃げてきて
あの森に辿り着いたところまで。
「あの…すみませんでした」
突然、頭を下げた俺に驚いているのが分かった。
その辺りの記憶が無いにしても、沢山の迷惑を掛けてしまった事に変わりはないのだ。
非礼を詫びるべきだろう。
「謝る必要はない。…それよりも、何があったのか、それを聞かせてくれないか?」
「え………」
『ナニガ』アッタノカ……?
理由を聞かれているのだと理解したのは、少し間をおいてからだった。
普通に考えれば、大怪我をした人間に何が原因でそれを負う事になったのか
聞かない方がおかしいだろう。
でも、俺には
その言葉は聞き慣れない、言われる事がないと思っていた言葉で
傷付いても、傷付けられても
血反吐を吐こうが、肉が裂けようが
どうして、なんて聞かなくても
俺がそんな風にされる事は当たり前の事で
馬鹿にするように、戯(たわむ)れに吐き捨てられる事はあっても
……誰も、俺を『案じて』なんて言わない言葉だった。
だから、こんな風に、当然の如く聞いて貰える事が信じられなかった。
ドクンと、胸が苦しくなった。
今、手を伸ばせば掴んでくれる。
拒まれない。
すがりたい。
また、あの心地良い安らぎを与えてほしい。
「そ、れは…」
俺を見下ろす4人の視線が注がれる。
「………っ」
けれど、過ぎった考えに
俺は声を詰まらせた。
…それを、言っても良いのか?
言って、どうなる?
言って、どうする?
それは、この人達には関係の無い事なんじゃないのか?
俺の問題に、また巻き込むのか?
嫌だ。
また、失いたくない。
知られたく…ない
大事なんだ。
傍にいるだけで安心感を感じられるほどに
いつの間にか俺の中でのその存在が大きくなってしまっていた。
小さく芽生えたこの思いは、大きく大きく成長して
『大切』よりももっと強く、太く育ってしまったこの思いを
何と言い表せば良いのだろう。
特別になればなる程、失った時が怖くて堪らない。
あの時、俺は
自分が知らない自分になってしまいそうで怖かった。
未知の感情に振り回されたくなくて、埋め尽くされてしまう前に
俺のせいで壊してしまう前に離れてしまいたかった。
…でも、今はそれだけじゃない。
もっと一緒にいたい。
傍にいたい。
笑っているのを、近くて見ていたい。
消しても消しても、欲は滲み出してきて
そんな事言える訳ないのに
望む権利なんて無いのに
思いは止まることを知らない。
…いい加減身の程を知れ。
「…………分かりません」
俺には受け取る資格も、勇気も無い。
…俺は、ここにいちゃいけない。
ああ、頭が痛い。
事細やかに教えてくれた。
「…そう、だったんですか」
俺が覚えているのは、アイツらからどうにか逃げてきて
あの森に辿り着いたところまで。
「あの…すみませんでした」
突然、頭を下げた俺に驚いているのが分かった。
その辺りの記憶が無いにしても、沢山の迷惑を掛けてしまった事に変わりはないのだ。
非礼を詫びるべきだろう。
「謝る必要はない。…それよりも、何があったのか、それを聞かせてくれないか?」
「え………」
『ナニガ』アッタノカ……?
理由を聞かれているのだと理解したのは、少し間をおいてからだった。
普通に考えれば、大怪我をした人間に何が原因でそれを負う事になったのか
聞かない方がおかしいだろう。
でも、俺には
その言葉は聞き慣れない、言われる事がないと思っていた言葉で
傷付いても、傷付けられても
血反吐を吐こうが、肉が裂けようが
どうして、なんて聞かなくても
俺がそんな風にされる事は当たり前の事で
馬鹿にするように、戯(たわむ)れに吐き捨てられる事はあっても
……誰も、俺を『案じて』なんて言わない言葉だった。
だから、こんな風に、当然の如く聞いて貰える事が信じられなかった。
ドクンと、胸が苦しくなった。
今、手を伸ばせば掴んでくれる。
拒まれない。
すがりたい。
また、あの心地良い安らぎを与えてほしい。
「そ、れは…」
俺を見下ろす4人の視線が注がれる。
「………っ」
けれど、過ぎった考えに
俺は声を詰まらせた。
…それを、言っても良いのか?
言って、どうなる?
言って、どうする?
それは、この人達には関係の無い事なんじゃないのか?
俺の問題に、また巻き込むのか?
嫌だ。
また、失いたくない。
知られたく…ない
大事なんだ。
傍にいるだけで安心感を感じられるほどに
いつの間にか俺の中でのその存在が大きくなってしまっていた。
小さく芽生えたこの思いは、大きく大きく成長して
『大切』よりももっと強く、太く育ってしまったこの思いを
何と言い表せば良いのだろう。
特別になればなる程、失った時が怖くて堪らない。
あの時、俺は
自分が知らない自分になってしまいそうで怖かった。
未知の感情に振り回されたくなくて、埋め尽くされてしまう前に
俺のせいで壊してしまう前に離れてしまいたかった。
…でも、今はそれだけじゃない。
もっと一緒にいたい。
傍にいたい。
笑っているのを、近くて見ていたい。
消しても消しても、欲は滲み出してきて
そんな事言える訳ないのに
望む権利なんて無いのに
思いは止まることを知らない。
…いい加減身の程を知れ。
「…………分かりません」
俺には受け取る資格も、勇気も無い。
…俺は、ここにいちゃいけない。
ああ、頭が痛い。
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