341 / 485
336.消えた記憶 sideヴィント
しおりを挟む
アルの意識が戻った。
それは本当に良かったと思う。
だが、どうしてあんな状態で倒れていたのかとその理由を聞くと
アルは「分からない」と小さく答えた。
「分からない?それはどういう…」
その先を聞こうとユアンが先を促すと、アルは少しの間考える素振りを見せた後
ゆっくりと話し始めた。
「分からないんです…何も。
どうして自分がこんな怪我をしているのか、どうしてそんな所に倒れていたのか…分からないんです」
「……そうですか」
ここで目覚める前までの事で最後に覚えているのは何だとユアンが尋ねると
アルは「昨日もヴァンが来て、他愛ない話をして帰った」と答えた。
それより先の事は何も覚えていない、と。
…つまり、あの日の
『関係ない』と俺の手を振り払って行ってしまった日の事も
アルは覚えていなかった────。
「…どう思う?」
アルの部屋を後にし、向かったのは俺の執務室。
その間ずっと考え込んでいたイグが不意にそう呟いた。
それに答えたのはユアンだった。
「恐らく怪我によるショックで、一時的に記憶が混乱しているのかと。
時が経てば自然に思い出せるようになると思います」
「だと良いんだが…」
イグの眉間に皺が寄る。
「記憶が無いのなら仕方ないが、出来るだけ早く思い出して貰わないとな…」
「そーですねぇ、じゃないと確かめようがありませんしね」
「………思い出したいと思ってくれれば良いのですが」
「どういう事だ?ユアン」
「アルさんの記憶が消えた原因が怪我によるショックなら一時的なのですが、
もし記憶を失くす前のアルさんが思い出したくないと…記憶を消してしまう程の辛い『何か』があったのなら戻る可能性は……」
「低い、か」
「はい…」
記憶を消してしまいたいと願う程の『何か』
「………もしそうだとしても、俺がやる事に変わりはない。
アルを守る。それだけだ。
…そのために、俺に力を貸してくれないか?」
拳を握りしめ、懇願する想いで見回した。
俺の自分勝手な我が儘に付き合わせてしまう事になる。
けれど、俺は弱い。
一人では何も出来ない。
嫌という程痛感した。
だが、三人はお互いに顔を見合わせた後
可笑しげに笑った。
そして、呆れたように口々に言った。
「何を今更」
「そんな顔、らしくないですよ?ヴァン様」
「そうですよ」
やれやれというような足取りで、三人は俺の前に一斉に跪(ひざまず)き、頭(こうべ)を垂れた。
「『この身は御身のために』」
「『御身は我らの光』」
「『どうぞ御心のままに』」
「「「『我らの契りと忠誠を』」」」
本当に、俺は恵まれていると思う。
「……ああ。頼りにしている」
眼の奥がジン…と熱くなった。
ありがとうな…
それは本当に良かったと思う。
だが、どうしてあんな状態で倒れていたのかとその理由を聞くと
アルは「分からない」と小さく答えた。
「分からない?それはどういう…」
その先を聞こうとユアンが先を促すと、アルは少しの間考える素振りを見せた後
ゆっくりと話し始めた。
「分からないんです…何も。
どうして自分がこんな怪我をしているのか、どうしてそんな所に倒れていたのか…分からないんです」
「……そうですか」
ここで目覚める前までの事で最後に覚えているのは何だとユアンが尋ねると
アルは「昨日もヴァンが来て、他愛ない話をして帰った」と答えた。
それより先の事は何も覚えていない、と。
…つまり、あの日の
『関係ない』と俺の手を振り払って行ってしまった日の事も
アルは覚えていなかった────。
「…どう思う?」
アルの部屋を後にし、向かったのは俺の執務室。
その間ずっと考え込んでいたイグが不意にそう呟いた。
それに答えたのはユアンだった。
「恐らく怪我によるショックで、一時的に記憶が混乱しているのかと。
時が経てば自然に思い出せるようになると思います」
「だと良いんだが…」
イグの眉間に皺が寄る。
「記憶が無いのなら仕方ないが、出来るだけ早く思い出して貰わないとな…」
「そーですねぇ、じゃないと確かめようがありませんしね」
「………思い出したいと思ってくれれば良いのですが」
「どういう事だ?ユアン」
「アルさんの記憶が消えた原因が怪我によるショックなら一時的なのですが、
もし記憶を失くす前のアルさんが思い出したくないと…記憶を消してしまう程の辛い『何か』があったのなら戻る可能性は……」
「低い、か」
「はい…」
記憶を消してしまいたいと願う程の『何か』
「………もしそうだとしても、俺がやる事に変わりはない。
アルを守る。それだけだ。
…そのために、俺に力を貸してくれないか?」
拳を握りしめ、懇願する想いで見回した。
俺の自分勝手な我が儘に付き合わせてしまう事になる。
けれど、俺は弱い。
一人では何も出来ない。
嫌という程痛感した。
だが、三人はお互いに顔を見合わせた後
可笑しげに笑った。
そして、呆れたように口々に言った。
「何を今更」
「そんな顔、らしくないですよ?ヴァン様」
「そうですよ」
やれやれというような足取りで、三人は俺の前に一斉に跪(ひざまず)き、頭(こうべ)を垂れた。
「『この身は御身のために』」
「『御身は我らの光』」
「『どうぞ御心のままに』」
「「「『我らの契りと忠誠を』」」」
本当に、俺は恵まれていると思う。
「……ああ。頼りにしている」
眼の奥がジン…と熱くなった。
ありがとうな…
1
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)は、見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良ワーウルフの悪友(同級生)まで……なぜかイケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、異世界学園BLラブコメディ!
毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~
液体猫(299)
BL
毎日AM2:10分に予約投稿。
【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】
アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。
次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。
巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。
かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。
やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。
主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ
⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌
⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる