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しおりを挟む「あ~腹減ったー…」
真琴の呟きを皮切りに、各々鳴り始める腹の虫。
「お腹空いたねぇ。もう日も暮れるし、そろそろお開きにしよっか。続きはまた明日って事で」
「さんせー!」
途端に元気よく手を挙げる真琴に「現金な奴…」と砂酉が呟く。
それに祭月が苦笑する。
「お疲れ様、マコちゃん。はいこれ、頑張ったマコちゃんにはご褒美をあげてしんぜよう~」
クッキーの小包を差し出され、真琴の目が輝く。
「おおーかたじけない!」
「どういたしまして」
「うんまぁあ!」
「はい、那月君も。コーヒー味だからあんまり甘くないと思うよ」
「え、ああ…」
受け取って、そういえば前に甘いものが得意ではないと言った事を思い出す。
…覚えてたのか
そんな些細な事を覚えていてくれた事に好意を感じると共に、さっき祭月に俺が何が好きなんだと聞いた時に嬉しそうに笑っていたのが唐突に思い出されて
ああ、こういう事かと思った。
言わなくても自分を知っていてくれる、理解していてくれる。
そして、そうあるために自分の事を聞いてくれる。
それはとても心地良くて、嬉しいと、感じた。
「じゃ、また明日なー」
「うん、バイバーイ」
黒田さんが運転する車の後部座席から手を振って遠ざかっていく真琴と、仏頂面ではあるが軽く手を挙げていた砂酉を
マンションの下で祭月と共に見送った。
車が角を曲がって見えなくなると、隣りからポソリと呟きが落とされる。
「…良かった」
何が、なんて聞かなくても
祭月がそういう風に思う奴なんて一人しかいなくて。
目が合って、祭月は「今日はありがとうね」と言って柔らかく笑った。
「…前から思ってたけど」
「ん?」
「お前、アイツの事よく知ってんだな」
この前の休日も、普段も、今日の事も。
思い返せば砂酉の言動をフォローするように、誤解がないように立ち回っている事が多かった。
「そうかな」
「そうだろ。今日だって真琴がアイツの事を嫌わないようにしてただろ」
「…イッちゃんはね、ほんとに優しいんだよ。だから誤解されちゃうのは悲しいし、勿体ないでしょ?」
「……………………、まあ」
「いま凄い長い間だったね」
仕方ないだろ。最初の頃がああだったんだから。
渋い顔をしていたのだろうか、祭月がくすくすと笑った。
「イッちゃんとは中学の時に初めて会ったんだけど、学校は一緒じゃないんだよ」
「え」
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