チート魔王はつまらない。

碧月 晶

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89.彩種 sideルカ

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「大丈夫か」

 
赤い馬に興奮して真っ先に飛び出し、そして見事に後ろ足で蹴飛ばされたテオに手を差し出す。

 
「いってて。さっすが『高彩種』なだけあるわー」
「分かっているなら慎重に近づけば良かっただろう」

 
そうすれば少なくとも蹴飛ばされる事はなかっただろうに。

 
私が借りて来たこのアジルホースというモンスターは他と比べれば比較的大人しい類に分類されるが、その体毛によって気性が左右される生き物でもある。

高彩度の体毛をもつ個体ほど扱いにくく、低彩度の個体ほどその逆になる。

扱い易さと安価で言えば低彩度の個体だが、高彩度な個体ほどその機能は高くない。因みにここでいう機能とは『馬力』『体力』『俊足性』を指している。

 
「…な、なあ、あれ」
「何だ」

 
人の肩を至極驚いたという顔で興奮気味にバシバシと叩いてくるテオの手を掴んで、振り返る。

 






「ちょ、止めてってばっ。くすぐったいから」

 

甘えるような鳴き声を出して二頭がアメに擦り寄っている。

 

驚いた。

先程話したようにあの種はそう簡単に近付く事を許してくれるような気性ではない。テオが良い例だろう。

しかし。目の前で起こっている珍しい光景に見入っていたのも束の間、アメの様子が少しおかしい事に気が付く。

 
動きが少しぎこちない。「止めろ」と口にしている割にはその手は彷徨うように寄る辺なく動いている。

 
おかしい。彼の性格ならば鬱陶しいと感じれば即座に押し除けるだろうに。

 

「どうした。アメ」

 

疑問に思いつつも傍に行けば、目にも止まらぬ速さでアメは私の背中に隠れた。
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