チート魔王はつまらない。

碧月 晶

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149.発案

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「な、なるほど?」

目をぱちくりさせながら、自分たちが寝ている間に起こった事の説明をルカから聞く赤毛とスイカ頭。

にしても、起きたばっかの時はうるさかったなー。どうなっただのドラゴンはどこへ行っただの、質問攻めで。思わず腹パンしちゃったよ。

「経緯は分かったけどさ。一つ聞いてもいい?」
「ああ」
「何で、ルカとアメくんにはその…イリゼ様の声が聞こえる訳?」
『何だ、そんな事か』

イリゼが石像から俺の肩の上へと飛び移る。

『主の魔力と我の魔力の波長が合うからだ。そこの…ルカと言ったか。そやつも聞こえるのは主の体の一部を摂取したからだろう』
「体の一部?」

言われて、思い付いたのは俺の唾液だった。そういえば、よく俺の食べかけをルカが食べてくれたっけ。

『恐らくそれだろう』

赤毛とスイカ頭にそう伝えると「へぇー」と感心していた。

「で?これからどうすんの?」

赤毛の言葉に一斉にイリゼに視線が集中する。

『む?我がどうかしたか』

どうしたもこうしたも。

「イリゼ殿、姿を変える事が可能だという事ですが、それは他の竜種にも変身可能ですか」
『無論だ』
「では、レッドドラゴンに姿を変えて頂きたいのですが」
『レッドドラゴンに?容易いが…そんな低級のものに変身させて我に何をさせたいのだ』

…あー、なるほどね。ルカの言いたい事が分かって、ルカに目配せすると肯定するように頷きが返ってきた。

へぇ、一芝居打とうって訳だ。

けど、意外だな。騙すなんて事、勇者のルカなら一番嫌いそうな事なのに。

…ま、いっか。どうでも。俺には関係ない事だしね。


*****


「こちらでお待ち下さい」

赤い絨毯が敷かれた長い廊下を進み、案内された部屋に入る。

部屋の中央に設置されたソファーに腰掛け、お菓子を頬張りながら待っているとその人物はやって来た。

「お待たせして申し訳ない。勇者殿」
「いえ」

ルカが立とうとしたのを手で制した七三分けの男は、俺達の向かいのソファーにニコニコと笑みを浮かべて腰掛ける。

「それでは改めて。レール市長のサミルダです」
「ルカです」
「…アメ」

本当ならこんな笑顔の胡散臭いやつなんかに名乗りたくないけど、ルカに釘を刺されてるからしょうがなく名乗ってやる。

「ルカ殿にアメ殿ですね。いやあ、それにしても凄かった!あのレッドドラゴンを追い払ってしまうとは!お二人の戦いぶりは目を見張るものがありましたよ」
「いえ、自分は当たり前の事をしただけですから」
「またまたそんなご謙遜を。まさか、レッドドラゴンが地下に巣食っていて土地の魔力を吸収していたとは…それに行方不明者を何人も探し出して下さって、本当にお二人には感謝しかありませんよ」

その後も七三分け市長は、約三十分に渡って賛辞を呈し続けた。

その間、俺は何をしてたかって?ルカは真面目に聞いてたけど、俺はフードで顔が見えないのをいい事に居眠りしてたよ。

「つきましては、感謝のしるしに何かお礼をしたいのですが…何かご要望はありますか?」

やっとか。その言葉、待ってました。

「では、工房の見学をさせて頂きたいのですが」
「…え?工房の見学、ですか?」
「はい」

ルカの提案に驚いたように目を見開く七三市長。

「勿論、見聞きした事は他言致しません。…やはり難しいでしょうか」
「い、いや、難しいという事はないですが…本当にそんな事で宜しいのですか?ここはレールですよ?」

七三市長の言わんとしている事は分かる。だって、レールは一流の職人が揃う工業都市だ。そこの市長にお願いすれば、彼らが作る一流の武器や防具、装飾品をタダで貰えるかもしれない。こんなチャンスみすみす逃す奴はいないだろう。…ルカを除けば、ね。

「そんな事、ではありませんよ。噂に名高いレールの鍛冶技術を間近で見られる機会などそうありませんから」
「そ、そうですか…。まあ、ルカ殿がそう仰るのであれば尽力しますが…」
「ありがとうございます」

それから、いくらか話して部屋を後にした。

「あー、つっかれたー」

迎賓館から出て、晴れた青空の下、伸びをする。お行儀よく座ってたから肩こっちゃった。

「お。おかえりー」
『む、戻ったか。主よ』

迎賓館から少し離れた所にある宿の一室、そこで待っていた赤毛とイリゼと合流する。

スイカ頭はどこ行ったかって?さあね。市長に呼び出される前までは赤毛といたけど、その後は知らない。

「で、どうだった?上手くいったか?」
「ああ」

この計画を考えた張本人であるルカが力強く頷く。

よくもまあ、あのルカがこんな計画考えたよね。

計画のシナリオはこうだ。
まず、イリゼがふんするレッドドラゴンが突如鉱山の地下から街に出現する。それを追ってきた(ふうに装った)俺とルカが対峙し、戦闘の末にレッドドラゴンを追い払ったように見せかける。
で、その後は人命救助したり、人助けしたりして。あとは、まあ七三市長と話した通りだよ。

え?工房見学の話もルカが考えたのかって?違う違う。それは完全に俺の要望です。

だってさあ、この街に来た時にドワーフの鍛冶技術を見られると思ったのに、どこもまさかの見学NGだったんだよ?ここまで来てそれはないでしょ。

…宝探し大会なんかに出たのは…まあ、ルカが珍しく楽しみにしてそうだったからってのもあるけど……どうせ参加するなら狙うは優勝したら『何でも一つ欲しいものが貰える』っていう権利をゲットできたら良いなって感じだっただけで深い意味はない…はず。

…多分。

でもまあ、何はともあれ当初の目的だった工房見学ができるっていうなら過程はどうあれ俺に異論はないね。

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