チート魔王はつまらない。

碧月 晶

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151.妖精

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柱の陰から少しだけ顔を出して、つぶらな黒い瞳でこちらをじっと見ている一匹のフワモフ生物。

「君がリーダー?」

問いかけると、そのフワモフ生物は少し間はあったが「キュ」と鳴いて首肯してくれた。

「そう。俺は雨。一応、現魔王なんだけど…知ってる?」

一応フードを取って顔を見せてみたけど、ぶんぶんと首を左右に振られる。そっか、知らないか。ていうか、妖精って立ち位置的にはどこになるんだろう?

『こやつら妖精は気まぐれな者が多い。故に基本的には中立だ。まあ、それも気分次第で都度変わるがな』

イリゼが隠れていたローブの中からひょっこりと顔を出す。
それと同時に、リーダーくんはピャッと飛び上がって完全に柱の陰に隠れてしまった。

…もしかして、イリゼが怖いのかな? まあ、小型化してるけど(ルカ曰く)何か凄いらしい古代竜エンシェントドラゴンだもんね。

魔王の俺より恐れられてるのは少し引っかかるけど、別に彼らに怖がられたい訳じゃないし。まあ、いっか。

「で?この妖精くんたちは何ていう種族なの」
『こやつらは職人を手助けし、対価に菓子や鉱石を貰う種族でな。名をグレムリンという』
「ふーん」

やっぱりそうだったんだ。

モーニのおじさんから話を聞いた時、もしかしてって思ったけど当たってたみたい。

イリゼのお墨付きを貰い、ちらりとその姿を再確認。

グレムリンって言えば、あっちの世界では映画になってるけど…うん、全然違うね。あんまり動物を可愛いとか思った事ないけど、断然こっちの方が可愛いと思う。

何でそう思うんだろ?動物じゃなくて妖精だからとか?いや、あっちのグレムリンも架空の生き物だったし………ほんとに何でだろ?

一人首を傾げていると、イリゼに『どうした、主』と不思議そうにされたので「何でもない」と答えておく。

今はそんな事より、しなきゃいけない事がまだあるしね。

「おいで。大丈夫、イリゼは君たちを食べたりしないから」
『む、我に食事なぞ必要ないぞ?』
「だってさ。だからそんなに怖がらなくてもいいよ」
「………」

じっと俺とイリゼを見定めるように見つめてくる黒いつぶらな瞳と見つめ合うこと数秒。
漸く信じてくれたのか、グレムリンは柱の陰から出てきてくれた。

「じゃあ、改めて。俺は雨。こっちはイリゼ。宜しく」

手を差し出すと、グレムリンはひとしきりスンスンと匂いを嗅いでから肉球のある小さい手で俺の人差し指を握り返してくれた。

「ん、ありがと。じゃあ、あれ、皆で食べて良いよ」
「!!」

あれ、とお菓子と鉱石が入った袋を指差してそう言うと、グレムリンが目を輝かせる。
そして、天井裏に向かって

「をかし!」

と大きく鳴いた。

途端、わらわらと現れた無数のグレムリンたちが袋に群がって………って、ん?いま何て言った?

「…ねえ、イリゼ」
『何だ、主よ』
「今あのグレムリン『をかし』って言わなかった?」
『言ったな。それがどうかしたのか?』
「いや、だって今のって」

どう聞いても古語だよね?

『コゴ?何だ、それは?あれはグレムリンの鳴き声だぞ?』
「…は?」

鳴き声?あれが?

「…因みに聞くけど、他には何て鳴くの」
『そうだな…例えば、好物を食べると──』
「よきかな!」
『興奮してあのような鳴き声を発する』
「………」

…いや、やっぱり完璧に古語じゃん。絶対古語じゃん。

さっきまで可愛らしく「キュ」とかって鳴いてたのは何だったの?まさか猫被ってたの?

「うまし!」
「よきかな!」
「をかし!」

…まあ、いいか。喜んでるみたいだし。

ていうか『をかし』って、もしかして『お菓子』って意味?


*****


「こりゃあ一体…」

わらわらといるグレムリンの群れを目の前にして、モーニのおじさんたちがあんぐりと口を開ける。

グレムリンたちがお菓子を堪能した後、モーニのおじさんたちに会ってくれるか聞いたら、小っさい手で親指を立ててあっさり承諾してくれた。器用な手してるよね。

「妖精グレムリン。聞いた事ない?」
「聞いた事はあるが…」

あるんだ。けど、何でそんな驚いてるの?

疑問に思っていると、ルカがこっそりと教えてくれた。

「妖精グレムリンといえば、滅多に人前に現れず気難しい事で有名な存在だ。それがこんな大量に自分の工房にいたとなれば、驚くのも無理はないだろう」

ふーん、そうなんだ。…あれ?でも、そうなるとおかしくない?

存在は知ってたのに、誰も機械や道具に悪戯してたのがグレムリンだって気付かなかったの?

「え?」

首を傾げるモーニのおじさんたち。つられるように俺も首を傾げる。

え? 俺、何か変な事言った?

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