59 / 66
第7話『優しい手』
(057)【1】まだ見ぬ境界(4)
しおりを挟む
(4)
同じ頃、ネオの去ったオルファース本館の前に昼食を済ませたばかりのギルバートが食堂から歩いて来る。
ゆったりとしたローブを揺らして普段どおり余裕のある態で、年齢以上の貫禄を漂わせていた。
ロビーで案内嬢に話しかけ、すぐに最上階へと向かう。
オルファース総監、デリータ・バハス・スティンバーグの執務室。
ギルバートはまたしても──というべきか──呼び出されたのである。
呼び出される理由は大方見当がついている。例の大火の犯人とアルフィードの事だろう。だが、それは昨日、アルフィードと共に「魔術師姉弟の遺体」を持って報告を終えている。
それに加え、まだ何かあるのだろう。
巨大な樫の扉を開くと、以前のように部屋の中央にその総監は立っていた。相変わらずぴんと伸びた背筋と知性きらめく瞳は老いを感じさせない。
普段と違うのは、この部屋へ入った瞬間に感じた微かな違和感位であろうか……。
デリータは「こちらへ」と告げた。
普段よりも表情が硬い気がするが……。
ギルバートはデリータの正面二歩の距離まで近寄る。ある程度で止まるよう言われるかと思ったが、制止はなかった。改めてデリータの顔を見たが、やはり多少緊張した面持ちがあるような気がする。
「アルフィードはどうしていますか?」
本題へ入る前の軽い話題だろう。
「オルファースの彼の執務室で調べ物をしているようです。以前に比べてちょっとは魔術師らしい姿ですよ」
笑みを交えてギルバートが言うと、デリータの頬も緩んだ。
「そうですか」
お互い笑みを交わした。そして、デリータは本題へと移る。
部屋に置かれた古いチェストの引き出しから二枚の紙を出すと、指先に魔力を灯して術を記述した上で、それぞれにさらさらと彼女のサインを記した。絶対の証明となる魔術によるサイン。
デリータはその二枚をギルバートに差し出した。黙って受け取ってはみたが、ギルバートは首をかしげる。
「それらを持っていって下さい。出来るならば、すぐに使うといいでしょう。私はあなたがそれをどのように使用しても、そのサインでもって認可した証とします」
言葉に促され、ギルバートは二枚の書面に目を走らせた。
「…………これは……!」
ギルバートはいつもの笑みを消して、小さく首を横に振った。対してデリータはやんわりと微笑んだ。
「私に出来るのはこの位の事。あとは、頼みましたよ? ギルバート・グレイニー副総監」
自分の執務室に戻ってから、ギルバートは頭を抱えた。
そろそろ夕陽が部屋へ差し込む時間になる、それまでずっと考え込んでいた。
──総監はどこまでご存知なのだろうか。
わかる事といえば、総監の執務室へ入った瞬間に感じたあの違和感が、何も言葉で告げない総監の態度が……。監視でも付いたのだろうか。
王の隠し忍びによって紫紺の瞳の少女の存在が今の世に在る事は、既に王の知る所となっただろう。
王は、紫紺の瞳の少女の特性を考えた上で魔術機関への監視を強化するだろう。
紫紺の瞳の少女が歴史上、このヒルド国の前身たる魔道大国メルギゾークを滅ぼした張本人の大魔術師である事を考えれば……。
魔道大国を束ねた王であった紫紺の瞳の少女は──全ての民が魔術を使うような国の王であった少女は、文字通り頂点、最強の魔術師だった……。
例えばもしも、今現れた紫紺の瞳の少女が“目覚めて”いたならば、真っ先にオルファース魔術機関への接触を試みるであろうと踏んだ可能性が高い。
ヒルド国の魔術師が“奪われる事”は王にとって打撃であろう。“目覚めて”いた場合、紫紺の瞳の少女がどう動くか予測がつかない現状、先制する為にも情報を確保し、前もって対策を立てておかねばならない。というのが、王の事情となるだろう。
つまり、十中八九オルファース魔術機関デリータ総監は王から直接監視されるようになってしまった──という事だ。
毎日訪れているわけでもないギルバートでも総監の部屋の違和感には気づいた。監視されている事は、総監は既に察知しているだろう。その上で、総監は二枚の書類にサインをした上で託してきた。
ギルバートは自室の真ん中で立ち尽くしたまま、二枚の書類をローブの内ポケットから引き抜いた。二つ折りにしていた書類は少し皺が寄っている。
サインを除く本文はルーン文字で書かれているが、魔術ではない。
ごく普通のインクで書かれたルーン文字。これは魔術師ならたやすく、魔術師見習いでも辞書片手に読む事ができるという文字だ。
総監を監視していたであろう者には、覗き見ていたとしても読む事は出来なかっただろう。
ギルバートは深く息を吐き出し、胸の内で題字を読み上げる。
──……魔術師の師弟契約の書……。
サインするべき三箇所の内二箇所が空欄。
埋めれたのは最後──デリータ総監のサイン。
もう一枚の書類は師弟契約の際、師が弟子に補償し、同時に制限する事柄を師自らが記入する書類。
どちらも魔術師と魔術師見習いが師弟契約を結ぶ際、必ずサインして提出し総監に承認のサインをもらわなければならない書類だ。
重要な二枚の書類……。
オルファース総監のサインをもらえて初めて魔術師の師弟関係は生まれる。その契約の書類。
弟子、師、そして総監の三者の合意の下、魔術師達の師弟関係は成り立つ。
託された書類には、総監のサインが──本来ありえない事だが──先に入っている。
だから思うのだ。
総監は一体どこまでご存知なのだろうか、と。
──考えても埒があかない。
ギルバートは日が暮れてからやっと動き始めた。
その二枚の書類を持って、きのこ亭を訪れた。
その日のユリシスは勤務中でもボーッとしている事が多かった。
本人は気付いていなかったが、ここ数日それは続いている。“将来の事を考えた方がいい”と言ったのは自分だった事を思い出して、きのこ亭の女将メルは少しだけ後悔するのだった。
実際の所、メルに告げられた事などユリシスの頭にはほとんど残っていない。ユリシスが頭を痛め、集中しているものは、周囲への警戒と悩み事のみ。
ユリシスは自分を付け狙う連中──黒装束の忍びへの警戒を怠る事はできず、またそういう存在がある事こそが悩みだった。
──何故狙われるのだろうか。
不安と慄きで胸がちくちくと痛む。
研ぎ澄まされた感覚の端が他愛ない人々の些細な諍いの声を捉え、それだけでビクリと身を震わせる。
怯えきった自分に気づいた時、一層悩みは深くなり、考え込んでしまうのだ。考えたとしても、答えなんて出ない、意味なんて無いというのに。堂々巡りを繰り返しては沈んでゆく気持ちがあるのがわかる。
外も暗くなってゆき、お客さんに笑顔で対応できなくなっていっている自分を意識の外側に感じられるのだ。
自分がとても遠くから現実の自分を眺めているような、そんなありえない感覚にとらわれてしまうのだ。
──動いて確かめれば良いとわかった日もあった。でも、動いてから現状、何か変わっただろうか? わかってしまったせいで余計に疑心暗鬼に陥ってしまっている。
女将メルの視線も時折感じた。ぼんやりしすぎて、ちょっとどいてと言わんばかりに女将さんに注文を取りに行かれた事は少なくない。
──何もかもが怖くなりそう。
そうこうしているうちに晩の八時を告げる鐘の音が聞こえ、ユリシスのシフトは終わった。
ため息をついてフロアを下がると、コウがエプロンを付けている所にでくわした。彼はユリシスに気付くといつも通りのさわやかな笑顔で「おつかれさん!」と告げる。
ユリシスはどうにかこうにか表情を笑ませて「いってらっしゃい」と応えた。
コウは任せろと言わんばかりにウィンクしてユリシスと入れ違うようにフロアへ走っていった。
休憩室に辿り着いたユリシスはエプロンを外して壁にかけると、側の丸椅子にドサリと腰をおろした。
ゆったりと頭を抱える。
──このままだと、壊れてしまいそう……。
心の中で弱音を呟いたあと、ユリシスは慌てて頭を荒っぽく振った。
──駄目なんだ、このままじゃあ。
「……なんとか……なんとかしなくちゃ……」
いつどこから襲ってくるとも知れない存在があって、それは国の中央に座す人物の手先だという。
考えれば考えるほど恐怖が沸きあがってくる。先の見えないこの状況を、こんな下町の食堂で働く自分風情がどうこうできるもんか。
しかもこちらから動くわけにはいかない。
──誰にも知られちゃいけないんだ、魔術を使えるという事なんて。都に来て、薄汚い自分を拾って養い育ててくれたきのこ亭のみんなにも迷惑なんかかけられない。
先ほどのコウの笑顔が頭に浮かぶ。
もうそろそろ厨房へ上がり、料理人としての第一歩を踏み出し始める。嬉しそうにそれを報告してくれたのはつい最近の事だった。
こんなにも平和で、穏やかな日常に、自分はなんて危ないものを持ち込んでいるんだろうか。いや、自分自身こそが、危険な存在なのではないのだろうか……。
──もう、やはり……。
ゆらりと視界がゆらいだ。
──ここを出て行かないといけないのかもしれない……。
出ていくのだとしても、どこへ行くのかなんて当てはなかった。
疲れた体を持ち上げ、ユリシスは少ない荷物をまとめようと階段へ向かう。そこへ「ユリシスっ!」と女将メルが駆け寄ってかけてきた。
ユリシスは壁についていた手を引っ込め、急いで目元を拭った。
メルはユリシスの目の前に立つと笑顔を浮かべた。
「ユリシス、あんたにお客さんだよ。話は少しだけ、聞いたよ。選ぶのはあんた自身だけど、私達は大賛成だよ。ここの事はね、なんっにも心配しなくていいから、ねっ! ねっ!?」
「……え??」
一気にまくしたてた後、メルは壁側に避けて後ろから付いてきていた人物をユリシスの前へ導いた。
獣油の薄暗いその休憩室に現れたのは、人なつっこい優しい笑みを湛えた第一級魔術師ギルバート・グレイニーだった。
同じ頃、ネオの去ったオルファース本館の前に昼食を済ませたばかりのギルバートが食堂から歩いて来る。
ゆったりとしたローブを揺らして普段どおり余裕のある態で、年齢以上の貫禄を漂わせていた。
ロビーで案内嬢に話しかけ、すぐに最上階へと向かう。
オルファース総監、デリータ・バハス・スティンバーグの執務室。
ギルバートはまたしても──というべきか──呼び出されたのである。
呼び出される理由は大方見当がついている。例の大火の犯人とアルフィードの事だろう。だが、それは昨日、アルフィードと共に「魔術師姉弟の遺体」を持って報告を終えている。
それに加え、まだ何かあるのだろう。
巨大な樫の扉を開くと、以前のように部屋の中央にその総監は立っていた。相変わらずぴんと伸びた背筋と知性きらめく瞳は老いを感じさせない。
普段と違うのは、この部屋へ入った瞬間に感じた微かな違和感位であろうか……。
デリータは「こちらへ」と告げた。
普段よりも表情が硬い気がするが……。
ギルバートはデリータの正面二歩の距離まで近寄る。ある程度で止まるよう言われるかと思ったが、制止はなかった。改めてデリータの顔を見たが、やはり多少緊張した面持ちがあるような気がする。
「アルフィードはどうしていますか?」
本題へ入る前の軽い話題だろう。
「オルファースの彼の執務室で調べ物をしているようです。以前に比べてちょっとは魔術師らしい姿ですよ」
笑みを交えてギルバートが言うと、デリータの頬も緩んだ。
「そうですか」
お互い笑みを交わした。そして、デリータは本題へと移る。
部屋に置かれた古いチェストの引き出しから二枚の紙を出すと、指先に魔力を灯して術を記述した上で、それぞれにさらさらと彼女のサインを記した。絶対の証明となる魔術によるサイン。
デリータはその二枚をギルバートに差し出した。黙って受け取ってはみたが、ギルバートは首をかしげる。
「それらを持っていって下さい。出来るならば、すぐに使うといいでしょう。私はあなたがそれをどのように使用しても、そのサインでもって認可した証とします」
言葉に促され、ギルバートは二枚の書面に目を走らせた。
「…………これは……!」
ギルバートはいつもの笑みを消して、小さく首を横に振った。対してデリータはやんわりと微笑んだ。
「私に出来るのはこの位の事。あとは、頼みましたよ? ギルバート・グレイニー副総監」
自分の執務室に戻ってから、ギルバートは頭を抱えた。
そろそろ夕陽が部屋へ差し込む時間になる、それまでずっと考え込んでいた。
──総監はどこまでご存知なのだろうか。
わかる事といえば、総監の執務室へ入った瞬間に感じたあの違和感が、何も言葉で告げない総監の態度が……。監視でも付いたのだろうか。
王の隠し忍びによって紫紺の瞳の少女の存在が今の世に在る事は、既に王の知る所となっただろう。
王は、紫紺の瞳の少女の特性を考えた上で魔術機関への監視を強化するだろう。
紫紺の瞳の少女が歴史上、このヒルド国の前身たる魔道大国メルギゾークを滅ぼした張本人の大魔術師である事を考えれば……。
魔道大国を束ねた王であった紫紺の瞳の少女は──全ての民が魔術を使うような国の王であった少女は、文字通り頂点、最強の魔術師だった……。
例えばもしも、今現れた紫紺の瞳の少女が“目覚めて”いたならば、真っ先にオルファース魔術機関への接触を試みるであろうと踏んだ可能性が高い。
ヒルド国の魔術師が“奪われる事”は王にとって打撃であろう。“目覚めて”いた場合、紫紺の瞳の少女がどう動くか予測がつかない現状、先制する為にも情報を確保し、前もって対策を立てておかねばならない。というのが、王の事情となるだろう。
つまり、十中八九オルファース魔術機関デリータ総監は王から直接監視されるようになってしまった──という事だ。
毎日訪れているわけでもないギルバートでも総監の部屋の違和感には気づいた。監視されている事は、総監は既に察知しているだろう。その上で、総監は二枚の書類にサインをした上で託してきた。
ギルバートは自室の真ん中で立ち尽くしたまま、二枚の書類をローブの内ポケットから引き抜いた。二つ折りにしていた書類は少し皺が寄っている。
サインを除く本文はルーン文字で書かれているが、魔術ではない。
ごく普通のインクで書かれたルーン文字。これは魔術師ならたやすく、魔術師見習いでも辞書片手に読む事ができるという文字だ。
総監を監視していたであろう者には、覗き見ていたとしても読む事は出来なかっただろう。
ギルバートは深く息を吐き出し、胸の内で題字を読み上げる。
──……魔術師の師弟契約の書……。
サインするべき三箇所の内二箇所が空欄。
埋めれたのは最後──デリータ総監のサイン。
もう一枚の書類は師弟契約の際、師が弟子に補償し、同時に制限する事柄を師自らが記入する書類。
どちらも魔術師と魔術師見習いが師弟契約を結ぶ際、必ずサインして提出し総監に承認のサインをもらわなければならない書類だ。
重要な二枚の書類……。
オルファース総監のサインをもらえて初めて魔術師の師弟関係は生まれる。その契約の書類。
弟子、師、そして総監の三者の合意の下、魔術師達の師弟関係は成り立つ。
託された書類には、総監のサインが──本来ありえない事だが──先に入っている。
だから思うのだ。
総監は一体どこまでご存知なのだろうか、と。
──考えても埒があかない。
ギルバートは日が暮れてからやっと動き始めた。
その二枚の書類を持って、きのこ亭を訪れた。
その日のユリシスは勤務中でもボーッとしている事が多かった。
本人は気付いていなかったが、ここ数日それは続いている。“将来の事を考えた方がいい”と言ったのは自分だった事を思い出して、きのこ亭の女将メルは少しだけ後悔するのだった。
実際の所、メルに告げられた事などユリシスの頭にはほとんど残っていない。ユリシスが頭を痛め、集中しているものは、周囲への警戒と悩み事のみ。
ユリシスは自分を付け狙う連中──黒装束の忍びへの警戒を怠る事はできず、またそういう存在がある事こそが悩みだった。
──何故狙われるのだろうか。
不安と慄きで胸がちくちくと痛む。
研ぎ澄まされた感覚の端が他愛ない人々の些細な諍いの声を捉え、それだけでビクリと身を震わせる。
怯えきった自分に気づいた時、一層悩みは深くなり、考え込んでしまうのだ。考えたとしても、答えなんて出ない、意味なんて無いというのに。堂々巡りを繰り返しては沈んでゆく気持ちがあるのがわかる。
外も暗くなってゆき、お客さんに笑顔で対応できなくなっていっている自分を意識の外側に感じられるのだ。
自分がとても遠くから現実の自分を眺めているような、そんなありえない感覚にとらわれてしまうのだ。
──動いて確かめれば良いとわかった日もあった。でも、動いてから現状、何か変わっただろうか? わかってしまったせいで余計に疑心暗鬼に陥ってしまっている。
女将メルの視線も時折感じた。ぼんやりしすぎて、ちょっとどいてと言わんばかりに女将さんに注文を取りに行かれた事は少なくない。
──何もかもが怖くなりそう。
そうこうしているうちに晩の八時を告げる鐘の音が聞こえ、ユリシスのシフトは終わった。
ため息をついてフロアを下がると、コウがエプロンを付けている所にでくわした。彼はユリシスに気付くといつも通りのさわやかな笑顔で「おつかれさん!」と告げる。
ユリシスはどうにかこうにか表情を笑ませて「いってらっしゃい」と応えた。
コウは任せろと言わんばかりにウィンクしてユリシスと入れ違うようにフロアへ走っていった。
休憩室に辿り着いたユリシスはエプロンを外して壁にかけると、側の丸椅子にドサリと腰をおろした。
ゆったりと頭を抱える。
──このままだと、壊れてしまいそう……。
心の中で弱音を呟いたあと、ユリシスは慌てて頭を荒っぽく振った。
──駄目なんだ、このままじゃあ。
「……なんとか……なんとかしなくちゃ……」
いつどこから襲ってくるとも知れない存在があって、それは国の中央に座す人物の手先だという。
考えれば考えるほど恐怖が沸きあがってくる。先の見えないこの状況を、こんな下町の食堂で働く自分風情がどうこうできるもんか。
しかもこちらから動くわけにはいかない。
──誰にも知られちゃいけないんだ、魔術を使えるという事なんて。都に来て、薄汚い自分を拾って養い育ててくれたきのこ亭のみんなにも迷惑なんかかけられない。
先ほどのコウの笑顔が頭に浮かぶ。
もうそろそろ厨房へ上がり、料理人としての第一歩を踏み出し始める。嬉しそうにそれを報告してくれたのはつい最近の事だった。
こんなにも平和で、穏やかな日常に、自分はなんて危ないものを持ち込んでいるんだろうか。いや、自分自身こそが、危険な存在なのではないのだろうか……。
──もう、やはり……。
ゆらりと視界がゆらいだ。
──ここを出て行かないといけないのかもしれない……。
出ていくのだとしても、どこへ行くのかなんて当てはなかった。
疲れた体を持ち上げ、ユリシスは少ない荷物をまとめようと階段へ向かう。そこへ「ユリシスっ!」と女将メルが駆け寄ってかけてきた。
ユリシスは壁についていた手を引っ込め、急いで目元を拭った。
メルはユリシスの目の前に立つと笑顔を浮かべた。
「ユリシス、あんたにお客さんだよ。話は少しだけ、聞いたよ。選ぶのはあんた自身だけど、私達は大賛成だよ。ここの事はね、なんっにも心配しなくていいから、ねっ! ねっ!?」
「……え??」
一気にまくしたてた後、メルは壁側に避けて後ろから付いてきていた人物をユリシスの前へ導いた。
獣油の薄暗いその休憩室に現れたのは、人なつっこい優しい笑みを湛えた第一級魔術師ギルバート・グレイニーだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる