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第三章 美少女学園一年目 芽吹き根付く乙女心

【第112話】 翔の消失(2)

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「かんちがい?」

 翔は見当も付かないといった雰囲気で、首を傾げた。

 翔の人格の調教は難しい。
 そう早紀から伝えられている。
 不都合があれば、また心の中の壁に隠れてしまうだろう。

 逃げないようにやさしく、言い逃れができないほどはっきりと。
 時間をかけてじっくりと男の心に教え込むのだ。
 心から分からせるのだ。

 女になることが、どんなに素晴らしいかを。
 女性の体が、どんなに気持ちいいかを。
 女の快楽の中に、翔の心を溶かしこんでいく。

 最後に『男に中を激しく犯されて、最高のエクスタシーで昇天する』ことで、混じりっ毛のない一人の異性愛の少女、つばさが誕生するのだ。
 
ーーーー

「ねぇ、翔くん。男の子と女の子の違いって知ってる?」

 アリスの言葉に、翔はためらいがちに答える。

「うん……えぇっとね、知っているよ」

「お姉さんたちに、教えてくれる?」

 イリスの言葉に、翔は頷く。

「男の子には、おちんちんがあって、女の子にはないの」

 三歳の時の翔は、男女の違いをちゃんと知っていた。

「そうなんだ。じゃあ、お股を確かめて、アリスお姉さんに翔くんが男の子か女の子か教えてくれる?」

「……い、いいよ」

 翔の言葉に不安が混じる。
 男としての自信が既に揺らいでいるのだろうか。
 あるいはつばさとして過ごした日々の中で、記憶に欠陥が生じているのだろうか。

 そっとスカートの中に手を運ぶ翔。
 そしてショーツの上から、自分のペニスを触る。

 その瞬間、翔の目は輝き、ほっとしたような声を上げた。

「ほら、あるの。僕、おちんちんあるの。ねっ、お姉さん」

 おちんちんがあることを、ここまで誇らしげに女子に宣言するのも珍しい。
 でも、仕方がないだろう。
 翔から見れば、アリスたちはずっと年上のお姉さんで、自分はまだまだ幼稚園児なのだ。

「どれどれ、イリスお姉さんに見せてくれる?」

 そう言いながら、イリスは翔のショーツをするすると降ろす。
 ショーツからはみ出していた無毛のペニスが、脱がされる勢いに抵抗して、上向きに跳ね返る。
 同年代の男子と比べても大きめのペニスが、ハーフの美少女たちに晒される。

「本当だわ。翔くんに、おちんちんがあったわ。間違っていたのはアリスお姉さんだったわ」

「それにしても、大きなおちんちんね。イリスお姉さんが見た中でも、一番大きいかも」

「そっか、翔くんは男の中の男だったのね」

「だめじゃない、アリス。適当なこと言っちゃ。翔くんが可哀そうよ」

「ごめんなさい。女の子だなんて言って。アリスお姉さん、謝るわ。お詫びに翔くんの好きなことしましょう」

「好きなこと?」
 
「あっ、そうだ。イリスお姉さんもね、実はサッカーが得意なの。ねぇ、翔くん。勝負しない?」

「えっ、ええ。僕が勝っちゃうけどいいの」

 男としての自信を回復して、ほっとしたのだろうか。
 どこか自信ありげに翔は胸を張った。

 ショーツを履き直して、制服を整えて仕切り直す。
 あまりに着なれたせいだろうか。
 翔は女子中学生の制服を着ていることに、違和感を覚えていないようだ。
 以前の翔のようで以前の翔ではない。
 女子として過ごす日々は、閉じ籠っていた翔の残滓にも明らかに影響を与えていた。
 

「ふふっ。じゃあまずはリフティング対決よ。まずイリスお姉さんに翔くんの腕前を見せて」

 そう言って、イリスは真新しいサッカーボールを翔に向かって投げた。

「きゃっ」

 女の子そのものの声を上げ、そのボールから、身をよじるようにして、翔は逃げてしまう。

「あらっ。どうしたの? もう一回やってみましょう」

 今度は、ボールを翔に手渡ししようとするが、

「きゃん……こ、こわい。だめ……」

 と、翔は明らかな拒絶を示した。
 体がボールを怖がってしまう。
 脊髄反射で逃げてしまう。
 なぜだろう。
 あれほど大好きなはずなのに。
 ボールと一緒に寝るほど好きなはずなのに。

「どうしたの、翔くん?」

 アリスは心配そうな顔を作って、翔に質問する。

「分からない。分からないの。でも、ダメなの。ボールを見るだけで怖いの」

 まだ肩を振るわせている翔にイリスは、

「大丈夫よ。翔くん。サッカーができない男の子だっているもの」
 
 と優しく慰める。

「そうだ、今度はアリスお姉さんとお人形遊びをしましょう」

「お人形遊び? それって女の子の遊びじゃ」

「そんなことないわ。男の子だってお人形遊びするのよ。翔ちゃんだって大好きでしょ」

 イリスはフリル袖のドレスを着た、つばさ似のプリンセスドールを翔に手渡しした。

 手に触れた瞬間、翔の目が輝く。

「か、かわいい……。ピンクのドレス、きれい」

 翔は思わずうっとりとしてしまう。

「そうでしょ。お姉さんたちと着せ替えごっこしましょ。他にもチマチョゴリとか、アオザイとかいろいろあるのよ」

 そう言って、アリスは段ボール箱一杯の着せ替え人形を持っていく。
 翔は嬉しそうに、女の子の衣装替えをしながら、「これ、色の組み合わせが素敵」とか「こっちの方が、この娘には似合いそう」とか、幼女のように楽しみだした。
 実際センスはよく、一つ一つの人形を、元よりも可愛らしくコーディネートしていく。
 これも一種の才能だろうか。

 サッカーの才能をつぶされた分、ほかの才能が開花したのかもしれない。

 飽きるほど遊んで親密度が上がった段階で、アリスとイリスはいよいよ本題に入った。

「ねぇ、翔くん。さっきはアリスお姉さんごめんね。翔くんが女の子か疑ったりして。今一緒に遊んで確信したの、翔くんの心の性別を」

「ほんと、逞しいおちんちんだったわ。イリスお姉さん、思わずうっとりしちゃった」

 そう言いながら、ハーフの姉妹はつばさにゆっくり近づいていく。
 息がかかるほど近く。
 首筋に唇が触れるほどの距離で、ひそひそ話をするようなかすれ声で囁いた。

「翔くん、アリスお姉さんたちと、いいことしない?」

「翔くん、イリスお姉さんたちと、悪いことしない?」

 翔は二人の言葉に混乱する。生暖かい吐息に、背中がムズムズした。

「いいこと? それとも、悪いこと?」

「いいことで、悪いことよ」

「気持ちいいことで、いけないことよ」

「子供の遊びはこれまでよ。アリスお姉さんたちと大人の遊びをしましょ」

「大人の遊びを楽しみましょ。イリスお姉さんたちと一緒に」

 そう言いながら、双子は翔のブレザーのボタンを一つ一つ外していった。

ーーーー
1.登場人物紹介を更新しました。
2.ノクターン版でつばさ編をまとめています。
  一気読みができますので、よろしければご覧ください。
  いよいよ、つばさ編もラストに近づいてきました。
3.ご感想頂ければ励みになります。よろしくお願いいたします。
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