頭ファンタジー探偵

てこ/ひかり

文字の大きさ
14 / 34
幕間

インターバル①

しおりを挟む
昔々あるところに、オカルトやホラーのたぐいを一切信じない、それはそれは頭のおかたい探偵がいました。

 頭のおかたい探偵は学生のころ物理を学び、最先端の技術を使ったかがく捜査にも精通していました。彼は元来生真面目で、また犯罪行為に憎悪とも呼べるほどドス黒い感情をもっていて、犯人に対して一切のだきょうを許しませんでした。

 一度事件がおきれば、彼はそのナイフのように鋭い眼光で現場をくまなく捜査し、瞬く間に犯人を追いつめました。その手腕には、警察関係者も一目置いていたくらいです。たとえ女性や子供であろうが、有名人であろうが政治家であろうが、理詰めの推理で相手に有無を言わせないその姿は、人々から「推理の鬼」として恐れられていました。

 高校生探偵としてデビューしてから十年間。彼が捕まえた犯人の数は、実に三桁とも四桁とも言われています。彼は毎日毎日その体に鞭打ち、西から東へと奔走し事件を解決して来ました。


 ところが、そんなある日。


 それは、よく晴れた夏の午後に起きました。頭のおかたい探偵はいつものように、殺人事件が起きた古びた旅館に飛んで来て、いつものようにあっという間に殺人犯を見つけ出しました。殺人犯は、なんとその旅館の女将さんでした。彼はその鋭い眼光と、罪を憎む激しい口調で女将さんにつめよりました。

 すると、みんなの前で犯人はお前だと名指しされた女将さんは、泣き出してしまい、そのまま旅館の外へと飛び出しました。これに慌てたのは、関係者の皆々様です。旅館の外は海が広がっていて、断崖絶壁だったのです。追って来た皆々様の静止も聞かず、女将さんはそのまま走って荒れ狂う波の中へと身を投げ出しました。頭のおかたい探偵の、その目の前で。探偵はその場で立ち尽くし、助けようと手を伸ばしたままかたまってしまいました。

 やがて皆々様の視線は一斉に、反論の余地も許さない推理で女将さんを死に追いやってしまった、頭のおかたい探偵に向けられました。

 その時でした。

 突然彼の右横を、突風のようなものが駆け抜けました。
 それは黒い人型の影のようなもので、大きな翼が生えていました。

 探偵や皆々様が呆気に取られる中、黒い影は女将さんの後を追って崖から飛び降り、空中で見事彼女をキャッチすると、そのまま崖の上まで飛んで戻って来ました。

 一体全体、今何が起こったのだろう?

 全員がその場で、ぽかんと口を開けました。
 探偵も目を丸くして、ぼんやりと黒い影を見上げました。崖の下から戻って来た黒い影の腕の中には、泣きじゃくる女将さんが抱えられていました。

「バカヤロウ!!」

 黒い影はそう叫ぶと、立ち尽くす皆々様を次々に、記憶がなくなるほど思いっきりぶん殴り始めました……。

《続く》
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...