吸血鬼に転生した俺は、人間の村を目指す

ナポ

文字の大きさ
11 / 16

8

しおりを挟む
 冷たい沈黙が落ちた。
 誰もすぐには言葉を発しない。
 黄色い瞳の少年ローシュは、一歩だけ前に出ると、値踏みするようにシーノを見つめた。
 水浸しになった服を握りしめ、俯く。
 どうしてこんな目で見られるのか。一体自分が何をしたのか。誰も教えてはくれなかった。聞かなかった、が正しいのかもしれない。だって、自分を嫌っている人には近づきたいとは思わない。
 余計に傷つくから……
 冷たい視線から逃れるように下を向いた。
「時間の無駄です。兄上、戻りましょう。妖精ではない確認が出来たなら用はありません」
 従者に傘をさされた男がそう促した。黄色い髪に同じ瞳をしている。兄弟だろうか、とても良く似た二人だ。

「まぁ待て、面白いじゃないか。ん?お前……牙が……」
 兄上と呼ばれた黄色い男が、独り言のように呟く。
 次いで、前にいた黄色い男を押しのけ近づいてくる。
 顎に指をかけ、無遠慮に持ち上げられのぞき込まれた。
「っ……」
 抵抗する間もなく顔を上げさせられる。
「口を開けてみろ」
 言われるままに口を開く。
「お前、シーノ・マイテイルか?  太陽の下でも平気そうだな……なぜだ?」
 好奇心に瞳を輝かせて問いかける。
 なぜと聞かれても俺自身にも分からない。というか、あまり吸血鬼に会わないので、他がどうかなんて知らない。
 タルドやルクス、ヴァイスぐらいしか関わりがない。
 ほとんど朝起きて部屋でゆっくり過ごすか、庭で探索をするぐらいしかすることが無い。字も読めないので、娯楽に本も読めない。
 図鑑とかは読めなくもないけれど。

 「あの牙無しが、日に当たっても平気そうにしている。不思議じゃないか?」
「……それは、そうですが。魔術を使えば可能では?」
 魔術……そう言えば俺は使ったことがない。使えるのだろうか?
「それもそうか。なんだ?  濡れているな。水汲みでもしていたのか?」
「……手伝いが出来ればと思ったのですが。失敗してしまいました」
「ははっ、力もそこそこか」
 男がサッと手をかざすと、暖かい風に包まれ、濡れた服があっという間に乾いた。
「ありがとうございます」
 軽く頭を下げれば、男はふむと頷いた。
「他には何ができる?」
「………」
 問いかけに、すぐ答えられなかった。
 何ができるかと聞かれても、思い浮かぶものが無い。
 戦えるわけでもない。
 魔術も使ったことがない。
 血も飲めない。
「……特に、ありません」
 正直にそう答えると、男は一瞬きょとんとした顔をした。
 次いで、可笑しそうに口角を上げる。
「はは……なるほど」
 その横で、黄色い瞳の少年ローシュが、冷めた声で割り込んだ。
「兄上。やはり時間の無駄です」
 鋭い視線がシーノに向けられる。
「戦闘能力なし。魔術適性不明。血の摂取も不可」
 淡々と項目を並べる。
「加えて牙は一本。欠損個体です」
 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
「観測価値は低い。これ以上関わる意味はありません」
 まるで壊れた道具を評価するような口調。
 リートは肩をすくめる。
「まぁ……そうだな。珍しくはあるが、使い道はなさそうだ」
 使い道。
 その言葉が、妙に重く響いた。
「血の交換もできないなんて」
 リートが笑いながら吐き捨てる。
「期待したんだがな。拍子抜けだ」
 ローシュは既に興味を失った様子で背を向けた。
「兄上、戻りましょう」
「そうするか」
 二人は、それだけ言って踵を返す。
 誰も振り返らない。
 誰も、名前すら呼ばない。
 残されたのは、乾いた地面と、銀髪の少年。
 シーノは小さく息を吸い、俯いたまま呟いた。
「……すみません」
 誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
 ただ一つ分かっているのは。
(……早く、人間の村に行こう)
 ここには、自分の居場所は無い。
 その思いだけが、胸の奥で静かに固まっていった。

 しばらく立ち尽くしていると、背後から控えめな声がかかった。
「あの……少し休みませんか? 俺たちももうすぐお昼休憩なので……良かったら、一緒にご飯を食べましょう?」
 茶髪の少年、ライタンだった。
 遠慮がちに、それでも精一杯の勇気を込めた提案。
「ご飯?」
 思わず聞き返すと、ライタンはぱっと表情を明るくする。
「はい! 口に合うかは分からないですけど、パンが美味しいんです!」
「そうですよ、ぜひ!」
 今度は赤髪の青年、レドンも加わる。
 身振り手振りで必死に説明する様子があまりにも真剣で、胸の奥がじん、と熱くなった。
 視線を気にせず、こうして言葉を交わせる相手。
 それがどれほど欲しかったか。
 何度、夢に見たことか。
「ありがとう。ぜひ参加させてほしいな」
 そう言って、いつものように微笑む。
 二人はほっとしたように頷き合い、嬉しそうに笑った。
 その光景を見つめながら、シーノはそっと息を吐く。
(……あぁ)
 胸の奥が、やわらかく満たされていく。
(こんなに幸せで……いいんだろうか)
 小さな不安と一緒に、温かな気持ちが広がった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スマホゲームの中にトリップした?!

ナポ
BL
階段を踏み外すとそこはベットの上だった。 あれ?でもここって…? いつの間にかゲームの世界へと転移していた俺は、自分が作り出したアバター達と一緒にのんびりと冒険ライフを送るはず? ドタバタと白い服の警備隊に追いかけられたり、クロウサ亭でご飯を食べたり……!! 最初※Rシーンはいります。 頭を空っぽにしてご覧ください!

英雄の溺愛と執着

AzureHaru
BL
転生した世界は前世でどハマりしたBLゲーム。最推しは攻略対象!ではなく、攻略対象達の剣術の師匠である、英雄の将軍閣下。メチャクチャイケオジでドストライクだった主人公はこのイケオジみたさにゲームをやっていた。その為に、ゲームの内容など微塵も覚えていなかった。 転生したからには将軍閣下を生でみないとというファン根性で付きまとう。 付き纏われていることに気づいていた将軍だか、自分に向けられる視線が他とは違う純粋な好意しかなかったため、戸惑いながらも心地よく感じていた。 あの時までは‥。 主人公は気づいていなかったが、自分達にかけらも興味を持たないことに攻略対象者達は興味をそそられ、次第に執着していく。そのことにいち早く気づいたのは剣術指南役の将軍のみ。将軍はその光景をみて、自分の中に徐々に独占欲が芽生えていくのを感じた。 そして戸惑う、自分と主人公は親子ほどに歳が離れているのにこの感情はなんなのだと。 そして、将軍が自分の気持ちを認めた時、壮絶な溺愛、執着がはじまる。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

神の寵愛を受ける僕に勝てるとでも?

雨霧れいん
BL
生まれるのがもっともっと今より昔なら、”信仰”することが”異端”でない時代なら世界ならよかったと、ずっと思って生きていた。あの日までは 溺愛神様×王様系聖職者 【 登場人物 】 ファノーネ・ジヴェア →キラを溺愛し続ける最高神 キラ・マリアドール(水無瀬キラ)→転生してから寵愛を自覚した自分の道を行く王様系聖職者

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

処理中です...