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冷たい沈黙が落ちた。
誰もすぐには言葉を発しない。
黄色い瞳の少年ローシュは、一歩だけ前に出ると、値踏みするようにシーノを見つめた。
水浸しになった服を握りしめ、俯く。
どうしてこんな目で見られるのか。一体自分が何をしたのか。誰も教えてはくれなかった。聞かなかった、が正しいのかもしれない。だって、自分を嫌っている人には近づきたいとは思わない。
余計に傷つくから……
冷たい視線から逃れるように下を向いた。
「時間の無駄です。兄上、戻りましょう。妖精ではない確認が出来たなら用はありません」
従者に傘をさされた男がそう促した。黄色い髪に同じ瞳をしている。兄弟だろうか、とても良く似た二人だ。
「まぁ待て、面白いじゃないか。ん?お前……牙が……」
兄上と呼ばれた黄色い男が、独り言のように呟く。
次いで、前にいた黄色い男を押しのけ近づいてくる。
顎に指をかけ、無遠慮に持ち上げられのぞき込まれた。
「っ……」
抵抗する間もなく顔を上げさせられる。
「口を開けてみろ」
言われるままに口を開く。
「お前、シーノ・マイテイルか? 太陽の下でも平気そうだな……なぜだ?」
好奇心に瞳を輝かせて問いかける。
なぜと聞かれても俺自身にも分からない。というか、あまり吸血鬼に会わないので、他がどうかなんて知らない。
タルドやルクス、ヴァイスぐらいしか関わりがない。
ほとんど朝起きて部屋でゆっくり過ごすか、庭で探索をするぐらいしかすることが無い。字も読めないので、娯楽に本も読めない。
図鑑とかは読めなくもないけれど。
「あの牙無しが、日に当たっても平気そうにしている。不思議じゃないか?」
「……それは、そうですが。魔術を使えば可能では?」
魔術……そう言えば俺は使ったことがない。使えるのだろうか?
「それもそうか。なんだ? 濡れているな。水汲みでもしていたのか?」
「……手伝いが出来ればと思ったのですが。失敗してしまいました」
「ははっ、力もそこそこか」
男がサッと手をかざすと、暖かい風に包まれ、濡れた服があっという間に乾いた。
「ありがとうございます」
軽く頭を下げれば、男はふむと頷いた。
「他には何ができる?」
「………」
問いかけに、すぐ答えられなかった。
何ができるかと聞かれても、思い浮かぶものが無い。
戦えるわけでもない。
魔術も使ったことがない。
血も飲めない。
「……特に、ありません」
正直にそう答えると、男は一瞬きょとんとした顔をした。
次いで、可笑しそうに口角を上げる。
「はは……なるほど」
その横で、黄色い瞳の少年ローシュが、冷めた声で割り込んだ。
「兄上。やはり時間の無駄です」
鋭い視線がシーノに向けられる。
「戦闘能力なし。魔術適性不明。血の摂取も不可」
淡々と項目を並べる。
「加えて牙は一本。欠損個体です」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
「観測価値は低い。これ以上関わる意味はありません」
まるで壊れた道具を評価するような口調。
リートは肩をすくめる。
「まぁ……そうだな。珍しくはあるが、使い道はなさそうだ」
使い道。
その言葉が、妙に重く響いた。
「血の交換もできないなんて」
リートが笑いながら吐き捨てる。
「期待したんだがな。拍子抜けだ」
ローシュは既に興味を失った様子で背を向けた。
「兄上、戻りましょう」
「そうするか」
二人は、それだけ言って踵を返す。
誰も振り返らない。
誰も、名前すら呼ばない。
残されたのは、乾いた地面と、銀髪の少年。
シーノは小さく息を吸い、俯いたまま呟いた。
「……すみません」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
ただ一つ分かっているのは。
(……早く、人間の村に行こう)
ここには、自分の居場所は無い。
その思いだけが、胸の奥で静かに固まっていった。
しばらく立ち尽くしていると、背後から控えめな声がかかった。
「あの……少し休みませんか? 俺たちももうすぐお昼休憩なので……良かったら、一緒にご飯を食べましょう?」
茶髪の少年、ライタンだった。
遠慮がちに、それでも精一杯の勇気を込めた提案。
「ご飯?」
思わず聞き返すと、ライタンはぱっと表情を明るくする。
「はい! 口に合うかは分からないですけど、パンが美味しいんです!」
「そうですよ、ぜひ!」
今度は赤髪の青年、レドンも加わる。
身振り手振りで必死に説明する様子があまりにも真剣で、胸の奥がじん、と熱くなった。
視線を気にせず、こうして言葉を交わせる相手。
それがどれほど欲しかったか。
何度、夢に見たことか。
「ありがとう。ぜひ参加させてほしいな」
そう言って、いつものように微笑む。
二人はほっとしたように頷き合い、嬉しそうに笑った。
その光景を見つめながら、シーノはそっと息を吐く。
(……あぁ)
胸の奥が、やわらかく満たされていく。
(こんなに幸せで……いいんだろうか)
小さな不安と一緒に、温かな気持ちが広がった。
誰もすぐには言葉を発しない。
黄色い瞳の少年ローシュは、一歩だけ前に出ると、値踏みするようにシーノを見つめた。
水浸しになった服を握りしめ、俯く。
どうしてこんな目で見られるのか。一体自分が何をしたのか。誰も教えてはくれなかった。聞かなかった、が正しいのかもしれない。だって、自分を嫌っている人には近づきたいとは思わない。
余計に傷つくから……
冷たい視線から逃れるように下を向いた。
「時間の無駄です。兄上、戻りましょう。妖精ではない確認が出来たなら用はありません」
従者に傘をさされた男がそう促した。黄色い髪に同じ瞳をしている。兄弟だろうか、とても良く似た二人だ。
「まぁ待て、面白いじゃないか。ん?お前……牙が……」
兄上と呼ばれた黄色い男が、独り言のように呟く。
次いで、前にいた黄色い男を押しのけ近づいてくる。
顎に指をかけ、無遠慮に持ち上げられのぞき込まれた。
「っ……」
抵抗する間もなく顔を上げさせられる。
「口を開けてみろ」
言われるままに口を開く。
「お前、シーノ・マイテイルか? 太陽の下でも平気そうだな……なぜだ?」
好奇心に瞳を輝かせて問いかける。
なぜと聞かれても俺自身にも分からない。というか、あまり吸血鬼に会わないので、他がどうかなんて知らない。
タルドやルクス、ヴァイスぐらいしか関わりがない。
ほとんど朝起きて部屋でゆっくり過ごすか、庭で探索をするぐらいしかすることが無い。字も読めないので、娯楽に本も読めない。
図鑑とかは読めなくもないけれど。
「あの牙無しが、日に当たっても平気そうにしている。不思議じゃないか?」
「……それは、そうですが。魔術を使えば可能では?」
魔術……そう言えば俺は使ったことがない。使えるのだろうか?
「それもそうか。なんだ? 濡れているな。水汲みでもしていたのか?」
「……手伝いが出来ればと思ったのですが。失敗してしまいました」
「ははっ、力もそこそこか」
男がサッと手をかざすと、暖かい風に包まれ、濡れた服があっという間に乾いた。
「ありがとうございます」
軽く頭を下げれば、男はふむと頷いた。
「他には何ができる?」
「………」
問いかけに、すぐ答えられなかった。
何ができるかと聞かれても、思い浮かぶものが無い。
戦えるわけでもない。
魔術も使ったことがない。
血も飲めない。
「……特に、ありません」
正直にそう答えると、男は一瞬きょとんとした顔をした。
次いで、可笑しそうに口角を上げる。
「はは……なるほど」
その横で、黄色い瞳の少年ローシュが、冷めた声で割り込んだ。
「兄上。やはり時間の無駄です」
鋭い視線がシーノに向けられる。
「戦闘能力なし。魔術適性不明。血の摂取も不可」
淡々と項目を並べる。
「加えて牙は一本。欠損個体です」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
「観測価値は低い。これ以上関わる意味はありません」
まるで壊れた道具を評価するような口調。
リートは肩をすくめる。
「まぁ……そうだな。珍しくはあるが、使い道はなさそうだ」
使い道。
その言葉が、妙に重く響いた。
「血の交換もできないなんて」
リートが笑いながら吐き捨てる。
「期待したんだがな。拍子抜けだ」
ローシュは既に興味を失った様子で背を向けた。
「兄上、戻りましょう」
「そうするか」
二人は、それだけ言って踵を返す。
誰も振り返らない。
誰も、名前すら呼ばない。
残されたのは、乾いた地面と、銀髪の少年。
シーノは小さく息を吸い、俯いたまま呟いた。
「……すみません」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
ただ一つ分かっているのは。
(……早く、人間の村に行こう)
ここには、自分の居場所は無い。
その思いだけが、胸の奥で静かに固まっていった。
しばらく立ち尽くしていると、背後から控えめな声がかかった。
「あの……少し休みませんか? 俺たちももうすぐお昼休憩なので……良かったら、一緒にご飯を食べましょう?」
茶髪の少年、ライタンだった。
遠慮がちに、それでも精一杯の勇気を込めた提案。
「ご飯?」
思わず聞き返すと、ライタンはぱっと表情を明るくする。
「はい! 口に合うかは分からないですけど、パンが美味しいんです!」
「そうですよ、ぜひ!」
今度は赤髪の青年、レドンも加わる。
身振り手振りで必死に説明する様子があまりにも真剣で、胸の奥がじん、と熱くなった。
視線を気にせず、こうして言葉を交わせる相手。
それがどれほど欲しかったか。
何度、夢に見たことか。
「ありがとう。ぜひ参加させてほしいな」
そう言って、いつものように微笑む。
二人はほっとしたように頷き合い、嬉しそうに笑った。
その光景を見つめながら、シーノはそっと息を吐く。
(……あぁ)
胸の奥が、やわらかく満たされていく。
(こんなに幸せで……いいんだろうか)
小さな不安と一緒に、温かな気持ちが広がった。
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