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ローシュ・リレイト side
しおりを挟む「はぁ……別に。僕は関係ないですよね? 帰っていいですか?」
リレイト家の執務室。
兄・リートの書類整理を終えたローシュは、露骨に面倒そうな声を漏らした。
最近、下働きの間で広がっている噂。
朝に現れる妖精。
それを確認しに行くぞと、兄は言う。
正直、理解できない。
そんな曖昧な話に、なぜ自分の時間を割かなければならないのか。そんな時間があるなら、魔術の稽古でもしていた方が、よほど有意義だ。
「兄上。僕は暇ではありません。この後も予定があります」
さらりと嘘を吐く。
兄リートは書類から目を上げずに答えた。
「お前の予定など把握済みだ。ふざけた事を言うな」
「…………」
反射的に言い返しかけて、言葉を飲み込む。
後ろ手に組んだ拳に力がこもった。
ふざけているのは、どちらですか
心の中で吐き捨てる。
妖精?
朝に現れる?
再現性のない噂ほど、無駄なものはない。
だが、複数の証言からは、同一時間帯の目撃情報。
似通った外見の報告であり、完全な作り話にしては、整いすぎている。
小さく舌打ちがもれる。
「……分かりました。行けばいいんでしょう」
「最初からそう言え」
リートはようやく顔を上げる。
「兄上は?」
「俺も同行する。お前一人に任せる話でもない」
ローシュは内心でため息をついた。
(非効率の極みだ)
だが同時に、もしも本当に妖精なら……
浮き足立つ心を押さえつけ、無表情を装う。
「……了解しました」
感情を殺した声で答えながら、ローシュは既に分析体制へと入っていた。
「では、行くぞ」
「……はい」
執務室を出ると、リレイト家に仕える従者が数名合流した。
「庭に向かう」
どこか浮き足立った空気のまま、従者たちが後に続く。
ローシュの後ろでコソコソと会話を始める従者達は、嬉しそうに笑い合う。妖精は気まぐれで、あまり人前に姿を見せない。
姿を見ることができれば、魔術の腕も上がるに違いない。幸運なことだ。そう言ってソワソワと落ち着かない。
(あぁ……そういう事か。これでは仕事にならない)
注意散漫な状態では業務に支障が出るな、とローシュはすぐさま理解した。
(しかし、魔術の腕も上がるのか……それは気になる)
魔術に力を入れているローシュは、そんな効果があるならば是非とも一目見たいと、打って変わって興味を示し始めた。
庭と言って歩き出したリートに続いたローシュは、ふと、どこに向かっているのかと疑問に思う。
明らかにリレイト家の庭ではない方へと進んでいく後ろ姿へと、声をかけた。
「……兄上、どちらの庭へ向かっているのですか?」
「マイテイル家だ」
「……マイテイル家? そこに妖精がいると?」
「あぁ。人間の使用人が何人か噂している。一番情報が集まっている場所だ」
「なるほど」
合点がいったように、ローシュは小さく頷く。
だが同時に思う。
ここまで大人数で押しかけていい場所だろうか。
もっとも、兄のことだ。事前の許可は取っているのだろう。
一体どうやってかは知らないが。
(考えても無駄だ)
そう切り捨て、黙って目的地へと足を運んだ。
観測対象は、もうすぐそこだ。
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