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子供たちを寝かせた後、客間へと通された。貴族の家らしく家具がとても高そうだ。高い天井にあるシャンデリアが落ちてこないかと眺めていると、話しかけられた。
「それで。どうしてお前は人間の村に行きたいんだ? 」
洗礼された手付きで紅茶を飲む少年の名は、ベリウェル・アースリウム。由緒正しい吸血鬼の始祖の血を引いている。
「俺は人間として生きたいのです」
「……ほう?面白い。その牙に理由があるのか?」
愉快だと言わんばかりに悪い笑みを浮かべ問いかけられる。
「そうですね。俺は……血が飲みたくないので……出来れば人間のように食事をして暮らしたいです」
「ふーん。まぁ分からなくもないがな。不味い血は不快だ。俺は自分が上手いと思える血に出会いたい」
「なるほど……俺には理解できないですね」
「だろうな。だが、俺たちは吸血鬼だ。血を飲まないというのならその命は短いぞ」
「それでも、俺は人間として生活したいと思います」
「意思は固いか。だが、不思議だな。吸血鬼の本能に抗う者など、今まで見たことがない」
「……」
元人間として生きたい記憶がある俺らからすれば当たり前の価値観だ。
「ベリウェル!」
「来たか」
ドタバタと足音を立てて入ってきたのは、頭につのを生やした子供たち。真っ赤な髪に美しい金の瞳をしており、ベリウェルに負けず劣らずの美少年だ。まだ小さいので幼さも加わりとても可愛らしい。
「遊ぼー!」
「この人、誰?」
「ベリウェルのお友達?」
ベリウェルの膝に抱きつき、首を傾げる。
「紹介しておこう。近所に住んでいる鬼人の双子だ」
「初めまして。お世話になっております。シーノ・マイテイルと申します」
床に膝まづき礼をとり、自己紹介をする。
「綺麗な髪だね」
「ありがとうございます」
にっこりと微笑めば、嬉しそうに笑い返してくれる。
「今日はこいつがお前たちと遊んでくれるそうだ」
「え?!」
急な話につい声をあげ、戸惑いがちに視線をウロウロさせれば、不愉快そうな声で問いかけられた。
「何だ。不満か?」
「い、いえ!ぜひ遊ばさせていただきます!」
「……ベリウェルは遊んでくれないの?」
「そうだよ。ベリウェルも遊ぼう!」
「分かったから。引っ張るな」
カードゲームやボール遊び、手遊びなど色々な遊びを満喫した。
一緒に連れてきた子どたちは、まだ薬で眠らされていて起きてこなかったが、怪我もなく明日には目覚めるだろうと言われ安心する。
遊び疲れて、ぐったりとカーペットの上に横たわっていると、ベリウェルが傍らに立ち覗き込んできた。
咄嗟に起き上がり正座をする。
腕を組み立ったままのベリウェルと視線が絡む。
何か用があるのかと首を傾げる。
「あの、何か?」
「お前は……楽しそうだな」
自身満々な姿しか見たことが無かったベリウェルがどこか羨ましそうに呟く。羨む事など何もないと思うけれど。
「アースリウム様も一緒に遊びましたよね?」
「ふん。ベリウェルと呼べ。許す。それで? お前はあの子供たちと一緒に暮らすのか?」
腕を組んだまま、淡々と問いかけられる。
「いえ、あの子達を元の場所に戻したら、一人で過ごそうかと」
ベリウェルは何も言わず、じっとこちらを見ている。
「あの子たちと約束したんです。無事に村まで届けるって」
「……保護者気取りか」
「違います。ただ……」
言葉を探しながら、視線を落とす。
「俺自身が、ひとりになるのが嫌なんだと思います」
「……弱いな」
そう言いながらも、声音はどこか柔らかかった。
「弱くて結構です。人間は、そういう生き物なので」
ぽつりと返す。
「群れなければ生きられず、誰かと笑わなければ心が壊れる。だから、俺は人間として生きたいんです」
ベリウェルは紅茶の残りを一息で飲み干した。
カップを置く音が、やけに大きく響く。
「……くだらん」
短く吐き捨てる。
だが、その後に続く言葉はなかった。
代わりに、ゆっくりと窓の方へ視線を向ける。
「お前は、不思議な吸血鬼だ」
「そう、ですか?」
「ああ。血を拒み、寿命を捨て、それでも笑っている」
深紅の瞳がこちらを射抜く。
「まぁ、頑張るんだな……明日、街道まで送ってやる」
「え?」
「検問は俺が潰す。人間側の厄介事も処理する」
何でもないことのように言う。
「いえ、それはちょっと……大事にされると困ります。中まで簡単に入る方法があればいいんですけど」
「あるぞ」
「そうなんですか?」
「あぁ、明日楽しみにしていろ」
悪巧みをするように口角を上げ笑う。
頼もしい味方ができて嬉しいけれど、吸血鬼の追っ手がこないか不安が残る。タルドやヴァイスが来るかもしれない……なんて、自信過剰かな。
欠陥品として扱われ、無関心で放置されていたのだ、わざわざ捕まえになんて来ないだろう。
「早く寝ろ。血も吸わずにフラフラされると面倒だ」
小さく鼻で笑う姿に何だか和んだ。
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