曇天の騎士ルシオラ

ナポ

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    空は曇り、風は鋭く、遠くで雷が鳴っていた。
 地面は泥濘み、踏みしめるたびに足元が沈む。
 戦のにおいが、土に、風に、空に満ちていた。

 タートルッテ国の抑止展開部隊《白銀の剣》は、北境に進軍していた。目的は「敵の暴走を制するための防衛陣形」だが、それは誰の目にも戦争としか映らないものだった。

 最前線の丘に立つルシオラは、濃灰のマントをはためかせながら、遠くを見据えていた。

「……来る」


 双眼鏡も不要だった。
 空気が、地が、血の気配を運んでくる。

「敵軍、接近!前方右斜面より!」

 斥候の声が上がる。
 それと同時に、木々を割って現れたのは、シースルー国の影騎隊。

 その先頭に立つ男の顔を、ルシオラは一目で見抜いた。

 ラシェル・ヴェルマージ。

 あの戦場で剣を折った男。
 兄と仲間を亡くし、悔しさと痛みを瞳に刻んでいたあの青年。

 一方、ラシェルもまた、すぐに気づいた。

 白銀の髪。琥珀の瞳。あの少年。

 かつて、自分の剣を無力にした存在。
 それなのに、どこか冷たさだけではない何かを感じさせた少年。

 その名も知らぬまま、今、再び敵として相まみえる。

 風が止まり、周囲の音が遠のいた。

 二人は互いに馬を降り、歩いて近づいた。
 両軍の間に緊張が走る。

「名を、聞いていなかったな」

 ラシェルが口を開いた。
 冷たく、だが敬意を含んだ声だった。

「……ルシオラ・アークレイン。白銀の剣、隊長」

「ラシェル・ヴェルマージ。影騎隊副隊長だ。今は、隊長代行だがな」

 互いに、剣に手をかける。

 次の瞬間

 鋼と鋼が激突する音が、戦場に鳴り響いた。

 一撃、二撃。
 誰にも止められない速度で、ふたりの剣が交錯する。

 だがその一瞬

 「……なんだ?」

 ラシェルが気づく。背後の爆音。
 まったく別方向から、火の魔法による砲撃が飛んでくる。

「違う……あれは、我々のものではない!」

「我々でもない……誰だ、あれは」

 黒い装束の兵が、第三勢力として戦場に割り込んできた。
 どちらの旗も持たず、ただ破壊と混乱をもたらす存在。

 偽旗の奇襲者たちだ。

 「ルシオラ!」

 背後からペリドの叫び。

 「ラシェル!」

 同時に少女兵セレナが駆けてくる。

 ふたりは剣を交えたまま、同時に後退し、視線だけを交わす。

「一時休戦だ」

「……今だけな」

 それだけで意思は通じた。

 次の瞬間、ルシオラとラシェルは背中合わせになり、剣を振るった。

 偽旗部隊の斥候を斬り伏せ、混乱を収めながらも
 ふたりの心には、確かな疑問が残った。

 「誰が、俺たちを戦わせようとしている?」

 混乱の鎮圧後、偽旗部隊は煙幕を残し姿を消す。

 ルシオラとラシェルは再び剣を下ろし、遠くから見つめ合った。

    ルシオラは呟く。

「無駄な争いはしたくない……」

 ラシェルは短く頷き、馬に乗る。

「俺もだ……お前とは気が合いそうだ。また会う時は……戦場ではないといいな」

「……」


 
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